ダメ人間ほいほい
「御機嫌よう、リリカさん、ゼィハさん、精霊さん」
「噂をすればというやつですかね」
狙いすましたかのようなタイミングです。まるで監視されているようでいい気はしませんね。
「私たちを監視でもしてるんですか?」
「それはありませんわ…… と言いたいところですが今回は微妙なところです」
「どういう意味です?」
シェリーの言い方では監視はしていないが動向は知っていたということになりますからね。
「正確には私たちの監視対象があなたがたに接触したせいで自然と監視がついたということです」
「監視対象とは?」
「勇者ですよ」
なるほど、魔王復活という目標を一応掲げている黒の軍勢としては勇者とは目の上のたんこぶ。邪魔者でしかありませんからね。居場所を確認しておくのは必須ですしね。
「こちらとしても驚きましたよ。まさか敵対している勇者陣営と仲良く過ごされているのを見まして」
「仲良くとか。シェリー目がおかしいんじゃ……」
笑いながら発していた言葉を止めエルフの服の袖で目を覆います。次の瞬間ー何かが袖に当たる感触がしました。
カランという金属音を立てて落ちたのはテーブルに備え付けられているような銀ナイフでした。
「お嬢様を侮辱する気なら……」
「いや…… 明らかに侮辱されたのは私ですし、命の危機を感じたのも私だけなんですが……」
指の間に幾つもの銀フォークやナイフを挟んでいるアリエルを見ると殺意に満ちた瞳でこちらを見てきています。
「相変わらずのお嬢様への忠誠心ですね」
「いえ、リリカ様ならかわす#躱す、あるいは弾くと信じておりましたので」
しれっとした顔で言ってきましたね。
エルフの服じゃなければ死んでいるような速度で飛んできましたからね。確実に殺る気でしたし?
「アリエル、会話中よ」
「ちっ、失礼しました」
へ、平然と舌打ちですよ。以前ドラクマでシェリーを危険な目に合わせたことを根に持っているんですかね。
「ここで立ち話もなんでしょう。いかに認識阻害魔法を使っているとはいえここで話す内容ではありませんし。この先にいい場所があります。そちらでお話でもどうですか?」
「退屈な話でなければいいですよ」
『果物食べたい』
「楽しそうですからあたしはいきます」
「いい返事がいただけて嬉しいですわ」
ニコっと微笑むとシェリーな踵を返し歩き出します。それに続くようにしてアリエルが日傘を翳しながら歩き、その背後には私たちが続きます。
「時にリリカさん。あなたの魔剣はどうですか?」
「どうとは?」
歩きながら顔だけをこちらに向けたシェリーに問いかけられます。
その質問に私は首を傾げます。
「あなたの魔剣は特別製ですからね。本来渡した人から勝利して勝ち取ったわけですからあなたのものではあるのですが別の人ように調整していたわけですし不備がないかの確認ですわ」
「ふーん」
そう言われると確かにぽちは王様が持っていた物でしたね。最後はモンスターになってた気がしますが。
「こちらでお話をしましょう」
シェリーとアリエルが立ち止まった建物を見上げると周囲よりもさらに煌びやかな建物です。やたらとピカピカとしていますからなんのための建物か見当もつきませんね。中からはすごい音が響いてきていますがなんなんでしょう?
『なんかうるさそう』
「この建物は?」
「あたしも見たことありませんね。最近できたものみたいだね」
くーちゃんは嫌そうに、ゼィハはなにやら興味深そうに目の前の建物を見上げます。
「ええ、最近作られたこの建物の名前はダメ人間ほいほいもといカジノと言います」
「ダメ人間ほいほい……」
『リリカ、捕まっちゃうね』
なるほど、くーちゃんの中では私はダメ人間というかダメエルフとして数えられているわけですね。
しかし、ダメ人間を捕まえる建物ですか。中になにが詰まっているのか非常に興味がそそられます。
「ふふふふ、では参りましょうか」
邪悪な笑みというものがあれば今まさにシェリーが浮かべている笑顔がそうなんでしょう。そんな人に向けてはいけない笑みを顔に貼り付けたシェリーが建物の入り口を開くと外にも聞こえていた喧騒がさらに大きくなり、私たちはその喧騒の中に足を踏み入れたのでした。




