馬車の外に置くならいいですよ
「私、ここを第二の故郷にしていいと思うんです」
「いきなりなにを言ってるんです? リリカさん」
新たな大陸、フェステリア大陸の大地に足を下ろした私が呟いた一言にゼィハが怪訝な表情を浮かべながら聞き返してきます。
「ゼィハ、揺れないというのは素晴らしいことだと思いませんか?」
「いや、それはそうですが…… よほど退屈だったんですね」
やることはないし揺れたら気持ち悪いし最悪の旅でしたよ。
ま、薬が作れたのはよかったですが。
「それでこれからどちらに向かう予定で?」
「そうですね〜 この大陸の大きな国ってわかりますか?」
さすがに見知らぬ土地を適当に歩くわけにはいきませんからね。ゼィハはこの大陸のことを知ってるようでしたし。
「大きな国ということならばガリア帝国ですね。さすがに十年や二十年で滅んでいないと思います」
「ガリア帝国。やっぱり知りませんねぇ」
「とりあえず行くあてがないのならばそこを目指すことをお勧めしますね。大きな国です。情報も多々入ってきますし」
「薬も売れそうだね」
『なんか新しく作ってたやつ?』
「ええ」
私が使うもの以外の薬も作ったのでそれも捌きたいですね。初めて人里に出た時はあれでかなり儲けらしていただきましたしね。なにげに魔法のカバンの中を圧迫していますし。
「リリカちゃーん!」
売りさばいて手に入れたお金の使い道を考え始めているとフィー姉さんがこちらにむかい手を振り嫌い歩いているところでした。横にはヴァン少年となぜかボロボロの姿をさらしているカズヤが足を掴まれ引き摺られていました。その後ろには船では見かけなかった真っ白な服を着た明らかに幸が薄そうな人がいました。
「お姉ちゃん達ガリア帝国に行くんだけど馬車乗っていく〜? ガリア帝国は美味しいものいっぱいあるよ〜」
キラキラとした瞳でこちらを見てきますね。ああ、そういえば美味しいものを探してる旅だと説明したような気がしないでもありません。馬車に一緒に乗せてもらうのは別に構わないんですけどね。
「あれと一緒なのがやなんです」
「リリカさん、大人になりましょう? リリカさんが我慢すれば帝国まで行く馬車代が浮くんですから。意外とバカにならない金額ですよ?」
「ちっ」
自分でもよくわかりませんがカズヤを見ていると吐き気がします。なんなんでしょうね、これ。腰の鞘に収まっているぽちもカズヤが近くにいると警戒しているような感じがしますし。
「仕方ありません」
「リリカさん」
『リリカ』
なんでゼィハとくーちゃんが成長したな。みたいな目で見てきてるのかはわかりませんが
「そこのカズヤを馬車の外に置くなら構いませんよ」
「『微塵も成長していなかった⁉︎』」
「だって嫌なんだもん!」
「リリカちゃん! まかせて!」
二人からは驚愕の表情を、フィー姉さんからは笑顔の了承をいただいたので私はフィー姉さんたちの集まる方へと向かいます。
「おい、フィー! なにするんだ! 今の状態でさえ俺は辛いんだぞ!」
「カズヤ、あなたの犠牲で私はリリカちゃんと一緒にいられるの。なら私は一瞬も躊躇うことなくあなたを切り捨てるわ!」
「たのむから多少は躊躇ってくれ⁉︎ 仲間だろう!」
「え〜 躊躇っても切り捨てることに変わりはないんだけど…… 躊躇いって必要かしら?」
「姉御、多少は躊躇って悩んでますって感じ、だしたほうがいい」
「そうね! 切り捨てるけど一応は悩みましょうか! 二秒くらい…… はい、やっぱりカズヤ、犠牲になってね」
「横暴だ! 俺は勇者だぞ⁉︎ 一応は勇者だぞ! おいクク! お前は⁉︎ シスターだろ⁉︎ 教会から着たお前なら俺を支持してくれるよな⁉︎」
すでにどうなっても放り出される運命になっている勇者が見苦しくもさっき私が見ていた幸の薄そうな人−ククというらしい人物に助けを求めていました。
教会の服って白もあるんですね。
「え、えーとわたしは」
オドオドとした様子でフィー姉さんと縄で身動き取れないほどに縛られているカズヤとを見比べています。
「クク! シスターだろ! 俺の従者なら助けてくれよ!」
「は、はい」
あまりに必死なカズヤに気圧されたのかあたふたとしながらククがカズヤに近づいてきます。
「ククちゃーん、こっちにきなさいな〜 帝国に着いたら船で満足に食べれなかった分お姉ちゃんが奢ってあげるわ〜」
「奢りですか!」
カズヤに向かっていた時とは比べものにならないほどに瞳をキラキラと輝かしながらフィー姉さんの方へと振り返りましたね。よく見たら口元にはすでに涎が垂れてますし、雷鳴みたいな腹の音が鳴り響いてます。どれだけお腹が減ってるんですか……
「カズヤさん、あなたに神のご加護があらんことを」
「お、おい」
空で十字を切ったククがスキップをするような軽い足取りでフィー姉さん達のいる方へと向かいます。
「リリカちゃ〜ん! 席空いたわよ〜!」
満面の笑みですよ。満面の笑みを浮かべながら残像が残る速度で手を振ってきてます。
「憐れ、勇者」
『「やっぱりリリカ(さん)のお姉ちゃんだね」』
私は憐れみながら、くーちゃんとゼィハは納得しながらカズヤを縛った縄を馬車にくくりつけているフィー姉さん達の馬車へと乗り込むのでした。