腐っても勇者ということですね
「おっし! とりあえず自己紹介な! 俺はカズヤ! 勇者だよろしく!」
ボロ雑巾という表現がしっくりくるような姿であるが晴れやかな笑顔を見せながら変態勇者が自己紹介し、握手のためか手を差し出してきます。なんでしょう。非常にムカつくので私もぶっ飛ばしたいです。とりあえずは無視しときましょう。
さすがに暴れすぎたので人が集まり始めた甲板から移動した私たちは船の食堂部分に移動しています。そして私のと勇者、フィー姉さんにヴァン少年は同じテーブルを囲んで席についています。
「んふふふ〜 久しぶりのリリカちゃんの感触だわ〜 リリカニウムを補充しとかないと」
なんなんですか、その得体の知れない成分は私も確かに席にはついています。ついてはいますが私の座っている場所はフィー姉さんの膝の上という非常に一人のレディさては不本意な場所に座らされているわけです。とりあえずは黙っていますが昔同様に頭をやたらと撫でられます。
「あー、撫で心地がいいわ〜」
「まじか! 次は俺! 俺!」
なぜか私を撫でようとしてくる勇者。
ですが、私は大人なエルフです。ここはふつうに、ふつーに対応しましょう。
差し出された手を払い私はにこやかな笑顔を浮かべます。
「私に触るなど変態が」
「おい! 心の声が口から出てるぞ⁉︎ あと隠す気あるのかないのかしらんが顔は笑ってるがその心底嫌そうな汚物を見るような眼をやめろ」
まさか、私のぽーかーふぇいすが見破られるとは…… 勇者は侮れませんね。というか眼はどうしようもないですよね? ゴミを見るって辛いですよね。
「なぁフィー、エルフってみんなこんなやつなの? 俺凄い嫌われてない?」
「ああ、さすがリリカちゃん、この勇者のことをきちんと一目で理解するなんて!」
なぜかフィー姉さんが成長を嬉しがるように目尻に涙を浮かべており、それを拭っていました。
フィー姉さんは相変わらずですね。私も成長しているんですよ。
「|汚物に名乗るのも不本意ですので名乗りたくありません《私の名前はリリカ・エトロンシアと申します》」
「だからな? 頼むから心の声を隠してくれよ! 疑心暗鬼になるだろが!」
なんですか面倒やつですね。せっかく人が丁寧に挨拶をしたというのに。
「はぁ、正直会話したくないんですけど?」
「なんでだよ! エルフだろ! もっと俺と話をしようぜ!」
こいつもエルフに夢見てる輩ですね。
「俺、勇者だぜ? 俺についとけばいいことがおこるぜ? お蕎麦かも、多分、きっと」
「いや、あなたみたいな奴についたところでロクなことにならないでしょう? トラブルに自分から突っ込んでいくタイプでしょう?」
『リリカが言えた話ではないよ?』
くーちゃんが水を差してきますが気にはしていられません。私は自覚してます。しかし、こいつは自覚なしのただの厄災を撒き散らすタイプと見ました。
「いや、あなたみたいなのきらいなんで」
「おいおい、好き嫌いしてたら大きくなれないぜ?」
『……なんだろう? 正しいこと言ってるけど意味が違う気がするよ?』
「ええ、バカの言ってるのは食べ物の話ですよ。私が言ってるのは人の好き嫌いなんですけどね」
話すのが疲れます。静かにジュースを飲んでいるヴァン少年を見習ってほしいものです。
「それでフィー姉さんとヴァン少年はなぜ別の大陸に?」
「なあ、リリカちゃんさりげなく俺を外すのやめない? 飴ちゃんあげるから俺と話しようぜ?」
如何わしさ満点で執拗に私に話しかけてくる勇者に煩わしさを感じますが右から左に聞き流しフィー姉さんに尋ねます。
「ん〜 あの馬鹿な勇者に神託がおりたのよ〜」
「誰から?」
「神子さまよ〜」
また知らない言葉です。私の頭をフィー姉さんに占領され机に座るくーちゃんのほうを見ると彼女もこちらを見ていまし。そしつな小さく顔を振ります。ということは精霊は知らないということなんですかね?
「あんななりでも勇者ですしね〜 色々と仕事があるのよ〜」
「腐っても勇者ということですね」
フィー姉さんの言葉からあの勇者がいかにだめかということがわかるというものです。
「でもなんでフィー姉さんもあんな汚物と一緒に?」
「実は〜 街中で絡まれていたところを〜」
「助けてもらったんですか?」
フィー姉さんに絡むという命知らずがいたことにも驚きですがそれ以上に絡まれていたのをあの汚物が助けたというのが驚きです。しかし、フィー姉さんは私の言葉に「違うわよ〜」と笑います。はて、何が違うんでしょうか?
「あれが絡まれてたところを私が助けたのよ〜」
「……」
「そんな目で見るなよ。興奮しちゃうだろ?」
変態汚物勇者は弱者だった様です。見掛け倒しですか。ですが、
「でもそれならフィー姉さんがついていく理由にはなりませんよ?」
『だよね?』
「話には続きがあるのよ〜 あの頃は私もまだ人里に下りてきたばかりだったからちょっとやりすぎちゃったのよ〜 それをあれがうまいこと言いくるめてね〜 お金払うから護衛してくれって」
「勇者……?」
さすがに嘘だと思い勇者のほうを見ると勇者は明後日の方向を向きながら口笛を吹いていました。
『本当なんだねー』
最近の勇者は自分の身すら守れないものがいるそうです。