あ、忘れてました。一番大きな荷物を
「リリカさん、なんでこんなとこで寝てるんですか?」
「はっ!」
いつの間にか寝ていたのかゼィハに体を揺すられ目が覚めました。
周囲を見ると先ほどまでゼィハを囲んでいたような人集りはすでに見られませんでした。
「さっさと行きましょう!」
なぜかゼィハが興奮気味に私の腕を取ると船の方へと向かって走り出します。
「ゼィハ、走らなくても船は逃げませんよ。というか走るのしんどいです」
『ふあ⁉︎ 何事⁉︎』
私の頭の上で寝ていたくーちゃんが走り出した振動により飛び起きます。髪がベタつくのはくーちゃんがよだれを垂らして寝ていたのかもしれません。
「ああ、やはり新型ですね! 以前見たやつはあんなパイプみたいなやつは付いていませんでしたし!」
ゼィハは先ほどまで私が見ていた乗る予定の船を見て歓喜の声をあげています。
「あれですかね? 何かを研究したりしている人はこんな風に周りが見えなくなるのが普通なんですかね?」
『さあ?』
再びなにやら説明し始めているゼィハの服を掴むと私は引っ張ろうとしましたが全く動きません。仕方なしに魔力を使い体を強化しゼィハを半端引き摺りながら船に乗る入り口らしき方へと向かいます。
「船に乗りたいんですが」
「はい、チケットはおありでしょうか?」
にこやかな笑顔を向け、船の関係者らしき人たちが尋ねてきます。あ、私は一応は賞金首指定されてるんでした。
「ちょっと待ってください。ゼィハ」
引き摺ってきたゼィハを振り返りチケットを出すように催促します。そしてさりげなく船員さんの方を見ますがにこやかな笑顔を浮かべているままでなにか動きを見せようとしているわけではありませんでした。
「やはりこの形! この形にも意味がある! しかしあたしが考える……」
ですがまだ虚空に向かい説明中のゼィハを見て私はため息をひとつ付きます。
「はいはい、チケット取りますよ」
誰に話しかけてるかわからないゼィハは放っておいて彼女の魔法のカバンを勝手に漁ると私は目当てのものである二枚のチケットを取り出し船員に渡します。
「はい、確かに。では船内へどうぞ」
終始変わらないにこやかな笑顔の船員さんに礼を告げると私は再び独り言を続けるゼィハを掴み引き摺りながら船へと乗り込みます。
『意外とバレないんだね』
同じことを考えていたくーちゃんの言葉に私も頷きます。まぁ、あんな落書きみたいな絵ですからね。見てもわからないと思うんですがね。銀髪ってだけではほとんどの人が私のような美少女を賞金首とは思わないでしょう。
船内に入りさらには部屋の場所を別の船員さんに聞き案内してもらいます。
案内された部屋はそれなりの大きさであり大きなベッドが二つ、宿屋の一室と変わらないようです。
「過ごしやすそうな部屋ですね」
「ありがとうございます」
素直な感想を述べると深々と頭を下げ「では」と一言告げると部屋を後にします。
とりあえずは腰の魔法のカバンを外しベッドに放り投げると続いて鞘に入ったままのぽちも同様に放ります。
わずかにぽたが抗議するかのように振動していましたが見えないふりをします。
「あ、忘れてました。一番大きな荷物を」
さっきまで引き摺っていた物を私は反対側のベッドに向かい力一杯放り投げます。
「あだぁ!」
放り投げた荷物はベッドに脛をぶつけ悲鳴をあげながらも上手にベッドの上に倒れこむと「ウォォォォォ」と呻き声を上げゴロゴロと痛む箇所を抑えながら器用にベッドから落ちないように転がり回っています。
「なにをするんです!」
なぜか怒ったようにして起き上がった荷物が噛み付いてきます。
いや、荷物運ぶの面倒でしたしなにより邪魔でしょう。
睨みつけてくるゼィハを無視しながら軽く伸びをした後に扉へと向かいます。
「じゃ、探検行ってきます!」
「いい笑顔ですね……」
私はおそらくは笑顔を浮かべているんでしょうが反対にゼィハは痛みでか涙目です。そんなゼィハを笑いながら私とくーちゃんは船の探索へと向かうのでした。