沈まない船なんてあるんですかね?
港国カルフラン。
漁業、さらには別大陸からの物資の輸入出荷とやらで儲けている国らしいです。
らしいというのは全部ゼィハから聞いたことですから私が知っているわけではないのです。いわゆる受け売りというやつですね。
「うわぁぁぁぁぁぁ! なんですかこれ!なんですかこれ⁉︎」
『青い! なんか水なのに青いよリリカ!』
初めて見るうみとやらで興奮している私とくーちゃんを周りで働いている人たちが奇妙なものを見るような目で見つめてきます。
「リリカさん、あんまりはしゃぎすぎると狙われますよ」
私とくーちゃんからかなり離れた位置からゼィハが声をかけてきます。
狙われるって何に? あとなんでゼィハはそんなに離れているんですか?
「いえ、あなたのように田舎からのお上りさんだと思われたくないだけです」
「お上りさん?」
首を傾げ尋ねるとゼィハはくすりと笑い「田舎者という意味です」と答えてくれました。
いや、確かにエルフの里は田舎ですけど、木しかないですけど。
「ゼィハはこの海を見てもなんとも思わないのですか⁉︎」
「数年前ならない同じように感動していましたが今は特にはありませんね。なによりあたしはこの海を越えてきたわけですし」
ダークエルフは海の向こうから来たようです。謎の部族ですね。
「海を走って?」
「船に乗ってに決まってるでしょ⁉︎ どうやって水面をはしるんですか!」
冗談だったんですが本気で怒られました。魔力を集めたらいける気がするんですがね。
「まぁ、海はそのうちに飽きますよ」
「えー、飽きないと思うんだけどな」
あの海の先に何があるかと思うとワクワクするじゃないですか。
「ワクワクも最初だけです。ふふふ、過去の自分を見ているような感じですね」
なんというか悪戯が成功することを確信しているような表情ですね。
『青いね〜』
そんな中、私の頭に座ったくーちゃんはのんきに感想を呟いています。
「とりあえずは日用品だけを買いに行きましょう。船の旅ですから大体のものはあるとはいえ自身のものはある程度揃えておくべきです」
ゼィハの言葉に頷くといろいろと店が並んでいる方へと向かっていきます。
◇
「魔石がありませんね」
「いや、普通はありませんからね?」
日用品を買いあさりながら弓矢などの消耗品を買っていましたがなにより一番消耗した魔石がありません。
ゼィハの言葉通りならば普通じゃない店には置いてあるんでしょうがそうなると我らが里のジジイは一体どこからあんなに大量の魔石を手に入れていたのか疑問が残ります。
「ほとぼりが冷めたらエルフの里に強襲をかけてもいいかもしれませんね」
「……物騒なことを言わないでください」
何人かの賞金首のエルフ達の場所が分かれば冒険者は動くでしょうからその隙に乗じればいいわけですからね。賞金よりも貴重とわかった魔石をかっぱらったほうがはるかに効率的です。
「まぁ、別大陸を観光してからでもいいでしょう」
「買い忘れはしてませんか? というかリリカさん。家族には何も言わなくていいんですか?」
「んー 特に問題ありませんね。放任主義ですし。姉さんが武者修行に行く時も何も言いませんでしたしね。それに船では食事も出るんでしょう? ならあとは特にありませんね」
買い物をしながら船のくるところにも寄ってみたところなかなかに有名なものらしく私たちがチケットを持っていることを見せるとかなり驚かれました。船とやらはかなりのお金が必要みたいですね。
そんなことで大半のものが船で準備してもらえるわけですから私としては特に準備するわけでもなくのんびりと構えているわけです。
というか船なんて乗ったことないですから何がいるかなんてわかるわけないんですがね。
「船旅は何が起こるかわかりませんよ」
「不吉なこと言わないでください。沈まない船っておっちゃんが笑いながら言ってたじゃないですか」
なんでも新しい技術を使った船だからこの船は絶対に沈まんとかなんとか言ってましたからね。
「沈まない船なんてあるんでしょうか?」
頭を抱えるように研究者として気になるのかゼィハが考えています。
「穴空けてみたらわかるんじゃない?」
穴が空いても大丈夫なら沈むことはないでしょう。やったら船を作った人にどんな目に合わされるかわからないからやりませんが機会があれば穴を開けたいですね。大きいものを潰すのはちょっとした快感がありますから。
ああ、そう考えたらちょっと、ほんのちょっとだけ潰したくなったじゃないですか。
船に乗るまえに少しだけ穴を……
「本気で船に穴を開けてはダメですよ?」
私の手が自然と腰のぽちの柄に伸びているのを見咎めたゼィハが釘を刺してします。
本能を抑えるって難しいですね。
柄から手を離し両手を上げた私に満足したのかゼィハは宿を取るために移動を開始します。
(夜になったらなにかつぶしましょうかねぇ。ストレス解消のために)
ゼィハから見えないようになってから私は誰からも見えないように薄く笑います。
『また悪い顔だ!』
くーちゃんはいつも見てますねぇ。