武器は凄いのに戦い方がセコイですね
『数とは暴力である』とはよく言われたものですがそれを実際に見たことがある人というのは少数でしょう。
怒号と武器を振り上げながらこちらに迫ってくるドラクマの兵や冒険者達を見ながら私はしみじみとそう思います。
ぱっと見る限りで百人以上。対して私たちを包囲していエルフ達はおよそ二十。五倍もの差がある戦力です。エルフが少数精鋭とはいえ同時に攻撃されては捌ききれるものではないでしょう。
「おお! 鬼エルフが戦ってるぞ! 野郎共! 共に戦ってエルフを追いかえせ!」
『オオオオオオオオオ!』
今鬼エルフって言った奴、顔覚えましたからね。月のない夜には気をつけなさいね。
雄叫びを上げながら突っ込んできたドラクマ兵に対してエルフ達も迎え撃っているようですがやはり指揮官が腰を抜かして倒れているのが影響しているのか精彩にかけています。
「あんなジジイでもいないと困るものなんですね」
「リリカさん、戦ってくださいよ!」
杖で必死にエルフの攻撃を防いでいるゼィハが悲鳴のような声をあげています。さて、私はというと丁度いい高さの瓦礫に腰を掛け、水分補給をしている所です。
「この『ドラクマ山のうんまい水』やばいくらいにうまいですね!」
「聞いてくださいよ!」
水のくせに口の中に残る程よい甘味。なるほど。名物になるはずですね。
『パクったくせに』
「違いますね。落ちていたのを拾ったんです」
転がっていたやつをですが。どうせ建物が壊れた拍子に落ちたものでしょうし。
「リリカさーん! 杖が、杖がメキッて! なっちゃいけない音が鳴ってるんですよ!」
悲痛な叫びが聞こえてきたので仕方なしにそちらへと目を向けると先ほどよりエルフが増えて三人になっておりゼィハが完全に劣勢になっていました。
「まだいけますね」
そう確信した私は『ドラクマ山のうんまい水』を再び飲みます。
『いい加減に助けなよ!』
「ぶふぅ!」
飲み込む寸前に頭部に衝撃が走り口に含んでいた水を吹き出しまします。
鼻にも水が入ってなんとも言えない痛さが続きます。
「なにするんですか!」
ビショビショになりながらも後ろを振り返るとおそらくは体当たりしてきたであろうくーちゃんが目に入りました。
『仲間を見捨てたらメっ! なんだよ』
「くーちゃん。間違ってますよ。少なくとも仲間ではないと思います。同志? 的な?」
『なんで疑問系なの⁉︎』
「まぁ、聞いてください。私はいろいろな本を里で読みましたが大体のクライマックスの盛り上げ方というのが仲間、あるいは親しい人の裏切り、もしくは死でしたよ」
『それが?』
「つまりは親しい人をたくさん作るより罪を同じように犯している共犯者という繋がりの方が強固な気がするわけですよ」
『外道! 発想が外道だよ!』
勢いをつけた体当たりならまだしもポカポカと小さな手で叩くだけでは私には微塵も効きませんがね。
「ぎゃぁ! 折れた! あたしの杖折れたんですけど⁉︎」
「はぁ」
ため息をつきながら魔ノ華の形状を変え突き出すようにすると刀身を一気に伸ばします。
伸ばされた刃はゼィハの頰肉を軽く削りながら突き進みゼィハへと剣を振り下ろそうとしていたエルフの首元へ吸い込まれるように突き刺さりました。首元はエルフの服で守られていないので狙いどこですね。
ぱっと血が花のように咲き糸が切れたかのように崩れ落ちたお仲間に驚いたエルフ達を視界にとらえながら瞬時に刃を元の長さへと戻すと切っ先を再び他のエルフへと向け直します。
切っ先を向けられたエルフはぎょっとしたような顔をしますが私は笑みを浮かべたまま先ほど同様瞬きする間もないほどの速さで刃を伸ばしますがさすがに二度目は剣で弾かれてしまいました。
「さすがに同じ手は食いませんか」
「り、リリカざぁぁぁぁん! もっと早く助けてくださいよ!」
助かったことに気づいたゼィハが半泣きのような状態で私を振り返ってきます。
「あなた、古代魔導具があるでしょう?」
「取り出す暇がなかったんですよ!」
ゼィハはブツブツと言いながら魔法のカバンへと手を入れ一本の短剣を取り出します。
「なんです? それは?」
「古代魔導具の一つですがリリカさんの魔剣見た後なら地味に見えますよっと!」
軽い声と共にゼィハが振るった刃は先ほど私が魔ノ華でしたように瞬時に刃を伸ばしていきます。
「おお!」
私の使う魔ノ華とは違いゼィハは巧みに腕を使うことで次々と刃が軌道を変えていきます。
「なんだこれは!」
「これがあたしの自慢の一品! 不思議な短剣です!」
自慢げにしながらゼィハは不思議な短剣を繰り出していきます。
次々と無秩序に動いていく不思議な短剣の刃を完全には捉えきれていないエルフ達は完全に翻弄されています。対して刃を操るゼィハは斬撃をエルフの服に阻まれながらもチマチマとせこく切っていっているようでした。
「……武器は凄いのに戦い方がセコイですね」
『ね』
「ほっといてください!」
思わず出た本音に自覚があるのか若干顔を赤くしながらゼィハは声を荒げるのでした。