私はどこにでもいる普通のエルフですよ?
「逃げるのは別にみんなが向かっている門じゃないといけないわけですよね」
私は魔ノ華の形状をぽちへと戻し腰の鞘に収めると武器を携え門に向かう人たちの流れに逆らうように反対へ歩き始めます。
別に馬鹿正直に闘う必要なんてないんですよ。楽できるとこは楽さしてもらわないと。
「ドラクマは城を中心に各方面に四つの門を設けているわけですしね。なによりエルフの目的は物資の略奪でしょうからね。ドラクマ本隊とは戦う気なんてないでしょう」
「れ、冷静ですね。リリカさん」
『すぐに斬りにいくかと思ったよ』
「大軍に一人で突っ込むのは英雄、もしくはバカだけですよ」
私はどちらにもなりたくはありませんのでね。
「そもそも、あなたが魔力を吸わなければ転移魔法でにげれたのですが?」
私を責めるような目でシェリーが見つめてきます。やめてください。べつにゾクゾクもしませんし快感も感じません。それでも一筋の汗が私の頬を伝いますが。
「過去は振り返らない! さぁ、逃げようか!」
なんとなく責められているような気がしましたので足を速めます。
しかし、ここから逃げたら次は何処にいきますかねぇ。
背後から争うような音が聞こえますが気にせず歩みを進めます。
「で、どう逃げるのです?」
アリエルの陰に隠れるようにしながら歩いていたシェリーが警戒しながら尋ねます。
「え? 馬に乗ってるやつを……」
「……やめてください。騒ぎになります」
私の案はあっさりとゼィハに却下されました。
一番お手軽なんですけどね。さっくり殺っちゃえば後腐れもありませんし。
仕方なしに刃を覗かしていたぽちを再び鞘の中に戻します。
「なら馬車を拾うというのは……」
「いい加減犯罪行為から離れてください!」
「拾うだけでなにも犯罪犯してないでしょ!」
「どこに馬車を落とすバカがいるんです!」
『否定から入るのはいけないことだよ?』
「なんであたしが間違ってるみたいな言い方されてるんですか!」
「いると思うんですけどねぇ。例えば四肢が切り裂かれて今にも死にそうな人とか」
くるりと身を返し鞘にしまった刃を引き抜く。刀身が光を反射し煌めかし、迷いもなく一歩踏み出しアリエルの真横にいつの間にかいたナイフを持つエルフに向かい振り下ろします。
「な!」
驚いたのはアリエルかはたまたシェリーか、もしくはエルフか。わかりませんがとりあえずは排除しましょう。
振り下ろされたぽちは間抜けな顔を浮かべているエルフの首筋に吸い込まれますが両断とはいきません。やはりエルフの服はやたらと頑丈です。
「ま、致命傷ですが」
反転し放った斬撃からさらに足と腰を使いさらに反転。次は服に守られていない頭に向け刃を振り抜きますが次は交差さしたナイフで受け止められます。
「やりますね! でもね」
致命傷でありながらも後ろに下がろうとしたナイフを持つエルフの背後にはいつの間に動いたのかわからない殺気を放つメイド。その殺気に気付き、後ろを振り返ったエルフの顔面に明らかに高密度の魔力で覆われた拳が叩き込まれ、地面へと縫い付けられます。
何かがつぶれるような音が響くと同時に恐ろしいまでの膂力を受けた地面は陥没。ついでに赤い液体が間抜けな音を上げながら宙を跳ねます。
「うわぁ、容赦ないなぁ」
「お嬢様の脅威になる可能性がありましたので」
水音を上げる赤く染まった腕をエルフであった物から離し、アリエルは私を見てきます。
「私としてはリリカ様、あなたのほうが変わっていると思いますよ?」
「どこが?」
全くわかりませんね。
「私はどこにでもいる普通のエルフですよ?」
「「『いやいやいやいや』」」
みんな手を振って否定してします。
そこまで否定しなくてもいいと思うんですがね。
ですが、
「とりあえずこの状況なんとかしてから考えましょう」
私たちを囲むように隠れているエルフ達を横目で見ながらため息をつくのでした。