エルフ達の襲撃ですね
降り注ぐ雨が血の水たまりを量産していきます。といっても本当の雨ではなく弓矢の雨なわけなんですが。
「なんなんだ!」
「屋根が崩れたぞ!」
周囲はすでに瓦礫に埋もれ建物は崩れかかっているものも多いんでしょうね。
「ああ、面倒ですね」
「リリカさん! なにが起こったのです⁉︎」
『何事! 何事!』
ゼィハとくーちゃんがパニックを引き起こした状態でオロオロとしています。まぁ、襲撃を受けたらこうなるでしょうね。
「ケホケホ、ひどい目にあいましたわ」
「お嬢様、ご無事で?」
逆に全くのマイペースな方々もいるわけですが。修羅場くぐってるんでしょうねぇ
周りの冒険者はというと血を流して倒れてる人が多いですね。お酒を飲みすぎなんですよね。
「で、なにが起こったんです?」
早くも混乱から立ち直ったらしいゼィハが問いかけてきます。私は足元に突き刺さっているものを地面から引き抜き、彼女の方へと放り投げます。
慌てたようにゼィハがそれを掴み取り視線を落とします。
「これは?」
「ん? みてわかりませんか? 弓矢ですよ。しかもエルフの里特製のね」
私が放ったのは私にとっては見慣れた弓矢。よく飛び、よく貫くエルフの里の特別製の弓矢です。
そのまま上を見上げてみるとすでに屋根は消し飛ばされており、ちらほらと雪が舞い落ちる曇天を見ることができます。
「ほらゼィハ、さっさと立たないと死にますよ?」
「な、なんですか! 一体!」
よろめきながら立ち上がるゼィハを急かします。私の知る通りの戦法ならば次は、
「火が飛んできますよ」
腰のぽちを鞘から抜き、一瞬で魔ノ華へと形状を変えさします。次に空を睨みつけると遠くの空に紅い点がいくつも灯されていきます。
「シェリー、アリエル。魔力あります?」
シェリーと彼女に手を貸し起き上がるのを手伝っていたアリエルに声をかけます。
「魔力? どうするんです?」
なぜか余裕のある表情を浮かべるシェリー。結構な危機なんですけどね。
「失礼」
一言謝りシェリーとアリエルに向かい悪食を発動させ魔力を喰らいます。そして魔力が補充された魔ノ華を空へと向かい振るいます。
魔力が斬撃として放たれ空に灯されていた紅い点を吹き飛ばしていきますがなにより数が多すぎます。一部しか吹き飛ばせません。二閃、三閃と振るいますがたいして数は減りません。
「ゼィハ!」
「わかってます!」
私の声にちゃんと理解した風の拳を両手に装備したゼィハが応え拳を振りかざし大気を歪めていきます。
空気の塊をゼィハが拳を振るい放ちますが全く減りません。
「ファイアーボール!」
「アクアランス!」
「ライトニング!」
突然の襲撃からの混乱に立ち直りつつある冒険者の魔法使いが杖を振るい光を迸せながら魔法を放ち、弓使いも負けじと弓を放ちます。おかげでこちらに飛んでくる火矢は少なくなってますね。
「リリカさん! この状況はなんですか⁉︎ なんであたし達いきなり攻撃されてるんですかね⁉︎」
あ、察しが悪いですねぇ。
「簡単です。エルフの矢が飛んできた。つまりは」
「エルフの襲撃ですね……」
さすがはシェリー、察しがよくて助かりますね。
そう、予兆はありました。ドラクマに姿を見せはじめたエルフ達。そして族長の孫たるベシュの元にきた『鳩』、そしてそのあとに消えたベシュ達。どれも襲撃の準備を終えたのでしょう。
「まさか、エルフはドラクマと戦争する気なんですか⁉︎」
「どうでしょうね? 少なくとも侵略目的ではありませんね」
物には特に執着はない種族な気がしましたし。精々、食料と本位だと思いますが。
「それにドラクマも一応国です。いかにエルフが強かろうと里では国に勝てないと思いますし」
「そうですわね。いかにエルフが強くてもドラクマ兵には勝てませんよね?」
なぜか顔色が悪いシェリーが自分に言い聞かせるようにしながら尋ねてきます。
「どうしました? 顔色が悪いですよ?」
「あなたが私の転移魔法分の魔力を喰らったせいですよ!」
心配して声をかけたら怒鳴られました。なるほど、つまりは逃げる手段を私が意図せずに潰してしまったわけですか。
「じゃ、アリエルに使ってもらって逃げればいいじゃないですか」
先ほどから飛んでくる火矢を掴んでは放り捨てるという荒技を繰り返しているアリエルを指差します。
「アリエルは身体強化系の魔法しか使えませんのよ。というか古代魔法なんてそんなホイホイと使えません」
「その通りです」
いや、そんな誇らしげに言われましても…… それにさりげなく自分が優秀であるとアピールしてきてますね。
「じゃ、さっさと逃げるとしましょうか」
『そうしよう! そうしよう!』
くーちゃんがすごい速さで頭を上下さして頷きます。
「エルフだ! エルフの軍勢が門を破って入ってきたぞ!」
「応戦だ! 応戦するんだ!」
「……」
怒号のように聞こえる慌てた声と武器を揃えた冒険者、ドラクマの兵達が門の方へと向かっていきます。
「また突っ切ります?」
私は門の方角を指差しながらゼィハに尋ねると彼女は首を振り否定するのでした。