東の拷問座り
レビューとランキングに乗った!
やったぜ
アレスを街まで引き摺って帰るのは中々に重労働でした。
途中で商人の馬車に便乗さしてもらえたのは幸運でしたね。
軽いと言っても一応は男ですし。私、女の子ですし、女の子ですし!
森や馬車に乗っている最中に襲ってくる魔物(主にゴブリン、オーガ、たまにミノタウロス)は全て弓で撃退しときました。まぁ、ミノタウロスだけはくーちゃんの力を借りないと楽楽とはいかないいんだけど。
くーちゃんは退屈だったのか喜んで力を貸してくれたけどいずれなんらかの対抗策を考えないといけませんね。
無論、切り札はありますがそうほいほいと使うわけにはいきません。なにより目立ちますし。
ティスタニアの街に到着し、門の騎士が退屈そうに見張りをしているので声をかけると驚いたような声を出されました。
「あ、あんたら生きてたのか⁉︎」
「勝手に殺さないでください。ふつうに生きてますよ」
怯えたような目でみてくるのは傷つくのでやめてもらいたいですね。ゾンビじゃあるまいし。
「そうはいうがE.Fランクの冒険者が二日姿を見せなかったら死んだものと判断されてもおかしくないんだぞ?」
「そういうものなんですか?」
「ああ、実際に一ヶ月に何人かは死んでるからな。であんたらが、リリカとアレスでいいのか?」
いつの間にか名前が売れてるようですね! 嬉しいことです。
「ギルドのフランが何回も何回も聞きに来たからな。嫌でも覚える」
フラン、どんだけ心配してくれてるんですか。いや、彼女の場合、エルフという種族がなんだろうけど。
「とりあえず、この坊主は宿に運んどいてやるからフランに顔を見せてやりな」
「そうします。ではアレスは『もうけ亭』までお願いしますね」
引き摺り回されすぎてボロボロになったアレスを騎士が不憫そうな目で見ていますが気にしたら負けでしょう。
しかし、フランに会うのはなんとなく気が重いですね。会った瞬間に説教とかくらいそうですし。
「あなたは一体なにをしてたんですか!」
案の定怒られました。
冒険者ギルドに入るとフランが怒りの色を瞳に浮かばせ、身体から放たれる魔力によってかフランの髪は逆上がりユラユラと揺れていてかなり怖いです。昔、御伽噺で聞かされた魔王とはこういう威圧感をだしていたのでしょう。……口が裂けても言えませんが。
くーちゃんはその姿を見てすぐに逃げた。私も逃げようとしたが首元を掴まれ目がランランと輝くフランに捕まり、東の国の正座と呼ばれる拷問座りをさせられてしまった。
「いいですか! ランクの低い冒険者、主にF、E、Dランクの冒険者というのは命を一番落としやすいランクでもあるのです! そのためにパーティを組んだりして安全度を上げたりしているのです! しかもパーティを組んでいてもランクの低いうちは必ず日帰りのクエストを受けるという暗黙の了解があるんですよ!」
「でもそれ、暗黙なんだから守らなくても……」
「黙りなさい!」
「はい……」
フランは怒るとひたすら説教を続けるタイプだったか。私の経験上、こういう人は必ず途中からどうでもいい話になるんですよね。あ、なぜか結婚の話になったぞ。
二時間経過
「……聞いてますか? リリカさん」
「……足が痛いです」
途中から足が痛くて話を聞くどころじゃないんですよ。正座、恐ろしい拷問だ。
「はぁ、ま、いいです。とりあえずは無事なようですし、アレス君はどうしました? 報告では縄で縛られて引き摺られるように連れて行かれたと聞いたけど?」
「一緒だよ。今や宿で寝てるんじゃないかな?」
騎士さんが連れて行ってくれてるならだけどね。
魔力枯渇による疲労だから半日ほどで起きるだろうし。
そう考え立ち上がろうとし、転ぶ。
『どうしたの?』
その姿を見ていつの間にか戻ってきたくーちゃんは心配してくれます。でも、説教の時逃げたの私は忘れないからね。
「た、立てない」
どうも足が痺れて立てない。手を付いて座ってるのがやっとだし。
「ふふ、今から本番よ、リリカさん」
フランの声に恐怖を覚える。とても嫌な予感がするのだ。
痺れる足を引き摺りながらふらから距離をとります。
「東の国の正座は拷問座りよ。今、痺れてるでしょ? わかるわ、私も先輩にやられたから。てい」
小さな掛け声とともにフランは私の足をつま先てチョンと触れます。
「にゃぁぁぁぁぱぁぁぁ⁉︎」
『ひ⁉︎』
その瞬間、足全体に痺れが伝導するかのようになり私の声と自分でも信じられない悲鳴が口からでました。
「ふふふ、今のあなたは生まれたての子鹿よ! ていてい!」
「あ、痛い? いや、痺れる! 痺れるぅぅぅぅ!」
フランのつま先が私の足に当たるたびの衝撃でなんとも言えない痺れがひたすらに広がる。それをフランは楽しそうに見ていた。この人、悪魔だ! やっぱり魔王だ!
「ふぅ、まぁ、これくらいにしておきましょう」
「……いつか仕返ししてやる」
満足したのかフランは額の汗をぬぐい、ギルドカウンターのほうへと戻って行った。
ようやく痺れが治まった私はヨロヨロと立ち上がり、フランのいるカウンターに向かいます。
「とりあえず、魔物狩ってきたから換金して」
「もう、無理しない程度にしてくださいね」
まだ小言を言いながらも私の冒険者カードを受け取ったフランはよくわからない箱型はね魔法道具の上にカードを乗せます。原理はわからないがこの箱型の魔法道具の上にカードを乗せると倒した魔物がわかるらしい。しかもこの魔法道具は全冒険者ギルドに置いてあるというんだから驚きである。
あと、クエスト外の魔物を狩った場合も多少の賞金が出るらしい。これは嬉しい誤算である。
「ゴブリン二十体、オーガ七体、ちょっと! ミノタウロスを三体⁉︎ どうやって狩ったんですか!」
「いや、弓で」
ゴブリンやオーガなら首元に矢を刺せれば殺せるし、ミノタウロスはくーちゃんの精霊魔法に助けてもらったし。
「戦果だけで言えばDランク…… いえ、Cランククラスでしょうね」
「え、じゃぁ私、Cランクになるの?」
「いえ、Dランクまでは受付で更新することができますがCランク以上はギルド長判断が必要になりますね」
なるほど。Cランクからはそうなってるのか。
なら無理して上がる必要もないかな。
「とりあえず、Dランクにしといてくださいね」
「わかりました」
フランが再び箱型の魔法道具を操作し、何かをしている。まぁ、あんまり興味もないんだけど。
「はい、これであなたの冒険者のランクはDランクよ」
そう言いながらフランは私の冒険者カードを返してきます。
「ありがと」
冒険者カードを受け取り礼を言いながら私は踵を返した。
(さあ、アレスの最後の訓練を始めようかな)
そう考えると笑みが溢れる私は気分良く冒険者ギルドを後にするのであった。
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