鬼エルフ言わないでください
「あら、楽しそうですわね」
やけになったハゲが自分も同じように一本で屋敷が立つほどの金額の酒を浴びるように飲み、さらには他の冒険者や兵士も狂ったように酒を飲み始め混沌とした場に凛とした声が響きます。
「ああ、やはりきましたか。シェリー、アリエル」
たいして美味しくないお酒を飲むのをやめ果実水を飲んでいた私でしたが迷いなく私の方へ向かい歩いてくる人物に声をかけます。
以前見たとき同様にニコニコとした笑顔を浮かべ黒いドレスに身を包んだシェリーと黒を基調としたメイド服を着たアリエルが周囲を警戒しています。
「あら? 私がくることを予見していたような物言いですわね」
「いや、くるでしょ? この戦争の引き立て役なんだから」
最後の言葉だけは小さく、しかし、シェリーに聞こえるように告げます。が、シェリーの微笑みは変わりません。
「大体の話、というか一番初めの段階で君が噛んでたんでしょ?」
「理由をお聞きしても?」
「情報が早すぎる」
戦争が始まるという情報自体は出回ってはいました。ですが実際にドラクマに着いた時でも戦争がすぐに始まるとは思えないほど平和でしたからね。
ですが、
「ダンジョンから出た私達を待ち構えるみたいに使い魔だしてきたわけですしね。大方ダンジョンに入ってる間にでも仕掛けをしてたんじゃないですか?」
「まるで見てきたようですね」
シェリーの行動は早すぎたのですよね。不自然なほどに。
「ええ、楽しめるように色々と手を回さしていただきましたよ。もともとピリァメイスの弱体化は我々としても望んでいましたのでね」
いつの間にかアリエルが椅子を引きそこへシェリーが座ります。
「ちょっと、リリカさん。こちらの方は?」
「私の趣味の共犯者ですよ」
「上手いこと言いますわね」
オホホホと頬に手を当てシェリーは笑います。私も同じようにして笑うと追加できた果物を食べていたくーちゃんが唖然とした目を向けてきていました。どういうことなんです。
「で、満足できましたか?」
「微妙」
想像と実際のものとはまた違いますからね。いろいろ血なまぐさいものでしたからねぇ。
「それは上々です」
なぜかにこやかな笑みを浮かべながらシェリーは手をあげます。するとその掌の上にアリエルが待ち構えていたかのように何かの紙を乗せています。
「それは?」
「今後の展開の予想です」
表情一つ変えずにアリエルは答えてくれます。予想ですか。
「リリカさんの言う通りピリァメイスの惨敗。これは私共の策略が嵌った結果ですね。ええ!」
なんだかとてもいい笑顔なんですけど。これでこそ悪役と言わんばかりの笑顔ですね。私もこんな笑顔を浮かべるようになりたいものです。
「いろいろやりました。ピリァメイス国内の井戸の八割につながる水脈に病原菌をまぜこんだり」
「ほう」
「兵たちに供給される食物を粗悪品にすり替え栄養状態を悪くしたり」
「ほうほう」
「極め付けはピリァメイス政府内での大量の汚職の暴露。これによってピリァメイス国内は内乱寸前。政府としては手早く収束させたいところでしたがこちらが手を回して開戦派の連中を焚きつけさしていただきましたの」
「だったら内乱を鎮圧するべきじゃなかったんですか?」
戦争している場合ではないでしょうに。
「そこは人間の国ですよリリカさん。しかも王政。大体の王族は負債を戦争での勝利で補填するものです」
「おお…… 人間めんどくさい」
まずは内乱を鎮圧しないことには動きが取れなかったでしょうに。
「本来ならばピリァメイスの軍の力は先ほどあなた方が戦った数五千の三倍。一万五千相当になりますが内乱鎮圧に当たっていたために少なくなっていたんですよ」
「あれで五千ですか」
結構いたんですね。
「内乱鎮圧に向かっていた本隊は動きませんでしたからあんなものでしょうね。それでもドラクマ側が勝つとは思いませんでしたが」
「正直に言いますねぇ。下手したら鬼エルフへともかくあたしは死んでたかもしれないんですよ」
「失礼。ダークエルフがいるとは計算外でしたので」
「鬼エルフ言わないでください」
さりげなくひどい言われようをされている気がします。
「まぁ、戦争を初めて体験した割にさ楽しめましたよ。お金もかなり手にはいりましたからね」
私が切る撃つしたピリァメイスの兵の中には二つ名付きの奴もいたみたいなのでなかなかにうはうはになるような金額でした。つまり今の私は小金持ち!
酒をグラスに注ぎながら私は告げます。が、未だににこやかななシェリーの笑顔に違和感を感じます。
「……何か?」
「ダンジョンで何を手に入れられました?」
知ってるくせにぃ。やっぱり性格悪い似た者同士ですよ。