あなたも言ったじゃないですか、命あっての物種って
「ドラクマの勝利に! 乾杯!」
『乾杯!』
幾重にも声が重なりあちこちで乾杯の音頭が取られ杯を空けていきます。ここ、冒険者ギルド兼酒場の中は今やピリァメイスとの戦争との戦いで勝ったことで連日戦勝ムードが見て取れます。昼だというのにそこいら中でグラスをぶつける音が聞こえてくるのがその証拠でしょう。
「やはり勝利することお酒の味というのは変わるんでしょうかね?」
私はというとゼィハとくーちゃんと共に酒場の端の方の席に座りお酒を飲みます。イフリュート? また知らない間にどこかに行きましたよ。と言っても私の飲むのはジュースのようなものですが。
「俗に言う友情、努力、勝利というやつですね」
エールをぐびぐびと飲みながらゼィハが冷静に告げます。いや、確かにそうなんですけどね。
「あとは愛国心をブレンドすれば死地をも恐れない兵士の出来上がりです」
「嫌な考え方だなぁ」
研究者らしい考え方ではありますがね。
「そんな兵士なんて捨て石にもならないでしょう」
「リリカさん、あなたの方が嫌な考え方ですよ? 捨て石前提なんですから」
そんな人でなしを見るような目を私に向けられましてもね?
いや、使えないやつを作戦で使えとかいうよりはマシだと思いますがね。
「しかし、まぁ。ドラクマの人たちが喜ぶのもわかりますよ」
「なぜです?」
「あたしが居着いてから何度か戦争は起こってますが大体負けてるのはドラクマ側ですから」
つまり久々に勝ったから浮かれているわけですか。
「そりゃめでたいですね」
『果物はあげないよ?』
くーちゃんに視線を向けると私の視線に気づいたのかくーちゃんとが自分の果物を守るかのように立ち塞がりました。いや、別にとりませんよ。
「そう! 今日はめでたい日なんだ!」
『ああ⁉︎』
大きな声と共にテーブルが揺れ、くーちゃんの果物が床にぶち巻かれます。落ちた果物を見ながらとても悲しそうな顔をしています。
「すいません、果物盛り合わせを一つ」
『リリカ!』
瞳を潤ませながらくーちゃんが私を見てきます。ふ、真の美少女はさりげなく気遣いができるのですよ。
「で、あんた誰です?」
テーブルを揺らした張本人へと視線を向けると顔を真っ赤にしたハゲが酒瓶を持って立っていました。
非常に関わりたくないですね。
「俺の名はスミス! よろしくな鬼エルフさんよ」
「はい、私はリリカと…… 誰です? 鬼エルフって」
どことなく嫌な予感がしますが聞いておかないと復讐もできませんからね。
「あんたのことだよ。敵の背後から一切の躊躇いもなく切り捨て挙句には仲間にまで切りかかったというオーガのようなエルフっておまえさんだろ?」
「諦めましょう。リリカさん。この人の言ってることは一つも、かつ微塵も間違っていません」
ゼィハも楽しそうに乗ってきます。こいつ、他人事だから楽しんでますね。くーちゃんも顔を背けてはいますが肩が震えているのを見ると笑ってるんでしょうね。
「だが鬼エルフのおかげで敵に奇襲をかけれたわけだし、誇っていいと思うぞ」
「そうですか。ならその鬼エルフという呼び名をですね……」
「ところで鬼エルフよ」
こいつ、話を聞く気が一切ないだと!
「ささかやかだが一杯おごらしてくれ」
「はぁ? なんで奢られなきゃいけないんですか?」
タダというのは気分のいいものですが理由のないタダというのは大体がろくな結果を導きません。根拠は人里に出て借金とやらをたらふく作って戻ってきた長老です。みんなにタダだタダだと言われ押し付けられている間にお金貸しと呼ばれる職業の人にお金を渡されふんだくられたとか。
「理由? ちゃんとあるぞ。おまえがいなかったら死んでた奴もいた。少なくとも俺たちのいた部隊はヤバかったからな。なかには重傷を負った奴もいたが戦争では命あっての物種だからな。その礼だ」
周りを見ると他の冒険者、兵士も同様に笑みを浮かべながら頷いています。
そういうものなのでしょうか? 死んでたら運が悪かっただけでしょうに。ですがまぁ、変な理由で奢られても嫌ですが恩義に思ってならいいでしょう。
「ふ、ならば容赦はしませんよ。この店で一番高いやつもってきてしかださぁぁぁい!」
店員さんに大きく声を上げると店員さんは親指を立てながら高そうなお酒を持ってきました。
「ほぅ、これはこれは。別大陸のお酒ですね。これ一本で屋敷が立つほどですよ」
持ってきた酒瓶を見てゼィハが「別大陸のお酒は高いんですよねぇ」と驚きの声をあげます。
それを聞いたハゲはほろ酔い状態で真っ赤になっていた顔が一転、真っ青へと変わりました。
「なっ! やめろぉ! 俺の生活費が飛ぶ!」
慌てたようにし始めたハゲをニヤニヤと見ながら私は酒瓶を手にし、蓋をあげます。
「あなたも言ってたじゃないですか。命あっての物種って。大丈夫、生きていれば返せますよ」
「やめろぉオオオオオオオオオ!」
ハゲの絶叫を心地よく聞きながら私は手にしていた酒瓶に口をつけ一気に飲み干すのでした。
ちなみにあんまり美味しくありませんでした。