おい、こら。誰が化け物ですか
「よし! 抜けたぁ!」
魔ノ華を振り切り、敵兵の上半身を空に、下半身だけを疾走させるということをやってのけた私は目の前でピリァメイスと戦っているドラクマの兵、冒険者を見つけ声をあげます。
すでに私のトレードマークたるエルフの服は血まみれで真っ赤になっており、所々固まった地で赤黒くなっているというなかなか刺激的な服となっています。
『本当に抜けちゃったよ』
「ええ、驚きです」
風の拳を放ちながらゼィハも若干驚いたような表情を浮かべています。私からすればあの古代魔導具も大概な気がしますがね。
「あの魔ノ華とかいう剣やばいですね。鎧着てた兵が真っ二つになってましたよ」
『それに疑問を覚えないリリカもどうかと思うんだけどねぇ』
腹が立ったので戯れも込めて踵を返し体を反転。勢いをつけたまま魔ノ華をゼィハに向けて振るいます。
今まで相手にしていたピリァメイスの兵なら間違いなく両断できるであろう一撃をゼィハは自身の古代魔導具たる風の拳を正確に私の剣筋に合わせて放ち魔ノ華を弾き飛ばします。
「いや⁉︎ 冗談でも死にますよ⁉︎」
「大丈夫です。その見ていてなぜかイラつく胸を削り取ってやろうとしただけです」
「あたしが痛いじゃないですか!」
「ちょっと! ちょっとだけだから!」
魔ノ華と風の拳がぶつかり合うたびに余波で敵味方関係なく吹き飛ばされていきますが今の私の目標は拳を振るうたびに存在感をしめしてくるあの胸だけです。
体を捻り引き戻される勢いを乗せさらに回転。さらに背中の魔力の羽の魔力を後ろに放出しながらさながら竜巻のごとく旋回、魔ノ華の黒刃が閃き触れるものを肉片へと変えていきます。
「本気じゃないですか!」
私の本気を見て取ったゼィハも風の拳をひたすらに振るってきます。こちらも周囲へも被害が甚大です。風が兵の体を押しつぶし血を舞わします。
「なんなんだあいつらは!」
「敵なのか⁉︎ 味方なのか⁉︎」
両陣営から講義のような声が上がります。まぁ、血を見てるのは両陣営同じですが。
「せぇい!」
「らぁぁ!」
私とゼィハが互いに飛び、私は魔ノ華をゼィハは風の拳を放ちます。動きながら放った一撃は互いに目標を逸れ、各国の冒険者、騎士を大地を抉り取るついでに消し去っていきます。
「往生際の悪い!」
「死ね!」
私がゼィハに悪態をついているとピリァメイスの兵がメイスを掲げ襲いかかってきました。すかさず前転しメイスによる打撃を躱すとすぐさま立ち上がり隙だらけの兵の首元に向かい魔ノ華を突き刺しねじります。
「ぐぃ!」
口から血を流し絶命した兵から魔ノ華を抜き、再びゼィハに視線を送ると彼女は両手を上げ、戦う意思がないかのようにしていました。
「もうこのくらいでいいでしょう? せっかく死地から帰っても死ぬなんてばからしいですよ?」
「それもそうですね」
ゼィハの言葉に納得しながらも私は魔ノ華を振るい、襲いかかってくるピリァメイスの兵を切り続けています。だって襲いかかってくるんですもの。
「あの雌オーガを殺せ! 殺せば金貨百枚だ!」
こんな馬鹿なことをぬかす奴がいるからなんですけどね。おかげでやたらと敵に囲まれる羽目になっています。
「とりあえず」
剣で切りかかってきた兵士の腕を切り落とし、掴みます。即座に全てを弓矢にの力を使い銀矢に変えると魔ノ華の姿も弓へと姿を変えさせると銀矢を即座に番えます。
「黙って下さい」
すぐさま放たれた銀矢は目の前に群がる兵たちを薙ぎ払うと一直線に馬に乗り偉そうに指示を出している騎士へと飛び、乗っている馬の頭ごと騎士のアタマを吹き飛ばしました。
馬と一緒に吹き飛んだので死んでも寂しくはないでしょう。
「ご、ゴルドフ司令官が!」
「逃げろ! あんな化け物相手にできるか」
あ、あれが司令官だったのですね。たまたま目だったので殺りましたがラッキーでしたね。ですが……
「おい、こら。誰が化け物ですか」
「ひぃぃぃぃぃ!」
逃げようとする兵の一人の鎧を掴み訂正さそうとしましたが兵は鎧を脱いで逃げ出しました。…… どんだけ怖いんですか。
「敵が逃げ出したぞ! 一気に借り殺して報償を独り占めにするのです!」
『オオオオオオオオオ!』
野太い雄叫びを上げながら今度はドラクマ側が武器を掲げ攻勢に出ます。一瞬にして私を追い抜き背中を見せ逃げているピリァメイスの兵に襲いかかって行っています。
「さ、この戦場から逃げましょうか」
「あなた容赦ないですね」
『だね』
適当な号令をかけた声。聞いたことあるなぁと思っていたらゼィハでした。
その後、ドラクマの魔法騎士団とピリァメイスの魔法騎士団がぶつかり合い、ドラクマの兵がなんとかうち破りそのままの勢いでピリァメイスは撃破されドラクマは勝利をもぎ取るのでした。