いや、叫んだら隙はないでしょう
長剣と化した魔ノ華を振るうたびに人体のどこかしらのパーツが弾け飛びます。適度に長さを維持しながら振るわれる魔剣というのはなかなかに凶器らしく一度振るうたびなは一時的に私の周囲には敵がいない空間が出来上がります。
「オーガだ! エルフの皮を被ったオーガが背後から奇襲をかけてきやがった!」
「バカな! あんなバカな魔物に背後から奇襲をするなんていう発想があるわけない!」
散々な言われようです。ちょっとした仕返しの意味も込め声が聞こえた方へと向け魔ノ華を薙ぎ払います。
「ごふ!」
「ぎゃぁ⁉︎」
無様な悲鳴が耳に入りますが魔ノ華から切断した感触はありませんでしたので吹き飛ばした位でしょう。
敵を吹き飛ばしながらも私は勢いを殺すことなく密集地域を駆け抜けます。
すれ違いざまに魔剣を振るい腕を跳ね飛ばし、さらには体を捻り剣を突き出すと面白いほどにあっさりと突き刺さり血が吹き出ています。どこに剣を振るっても当たるという入れ食い状態ですね。
「どけ! オーガは俺が殺る!」
私を囲みメイスを振るってくる兵を押しのけながらやたらと体格が立派な兵が前に出てきます。
「我が名は……」
「あ、口上はいりません」
すぐさま魔ノ華を弓の形状へと変化させると落ちているメイスを全てを弓矢にで触れすぐさま銀矢へと変え番え放ちます。銀矢は違わず口上を述べようとしていたであろう男の口に入り込み頭の後ろに血の花を咲かしました。
男はビクンと小さく痙攣すると大きな音を立て地面に伏しました。
「で、次はだれです?」
弓から長剣へと戻した魔ノ華の切っ先を囲む兵に向けます。
『返り血浴びてるからリリカが悪役にしか見えないね』
「ふふ、血化粧もまた美女を引き立てるものですよ?」
化粧、したことありませんが。
「なんなんだあれは……」
「喋るオーガだと」
「武では第二騎士団一のグレモスが一瞬で」
私から距離をとり遠巻きから警戒するようにして決してこちらに攻撃を仕掛けてこようとしません。というかあの男のせいで足を止めてしまいましたからね。囲まれてしまってますし。
うーん、この距離は魔ノ華を伸ばしたら斬れないんですよね。矢も全てを弓矢にで銀矢に変えれるようなものも転がっていませんし。
武器の攻撃方法はないですね。
しかし、代わりに敵の方が前に出てきたの槍のような物を持った兵が出てきました。なぜ槍のような物と称したかというと先端が刃ではなく鉄の塊がくっついていたからです。おそらくあれもメイスと言い張るんでしょうね。
「長メイス隊前へ! 一気にたたきつぶせ!」
「どんだけメイスにこだわるんですか……」
隊長みたいな奴が号令を上げると長メイス? が一気に空に向かい振り上げられます。あ、こうやって使うわけですか。
「やれ!」
命令とともに掲げられた長メイスが唸りを上げ幾つも私に向かい振り下ろされ始めます。それも結構な数で。
仕方なしに後ろに下がります。長メイスが地面を打ち砂埃が上がります。次に長メイスは槍のように私を突くような動きを見してきます。
剣と槍とではリーチが違いますから圧倒的に不利です。しかも弓にするには距離が近すぎます。
「悪食」
周囲を漂わせていた黒靄を私を取り囲む長メイス舞台にのみ集中。魔力を一気に食われた長メイス隊は崩れ落ちるようにして倒れていきます。しかし、真逆に私の魔力の羽は使った分を補充し終え勢いよく存在を見せつけます。悪食なら距離は関係ありませんからね。
「は、羽だと⁉︎」
「あいつ、オーガではなく悪魔か!」
「美少女です!」
失礼な物言いをする兵士に狙いを定め、構えた魔ノ華に魔力を注ぎ込み刀身を一気に伸ばします。一番近くにいた兵は悲鳴を上げながら鎧ごと貫かれそのまま破城槌のようになり敵兵を吹き飛ばし続けていき、道を作っていきます。
「こちらは順調ですがゼィハはと……」
目の前を斬るのに夢中になっていたので忘れていましたが後ろのゼィハを振り返ります。
大気が荒れていました。
ゼィハの方に向かう敵兵は一瞬にして鎧をボコボコに凹まされ次々に吹き飛ばされていきます。見ればゼィハは両手に風の拳を装着しておりそれを無茶苦茶に振り回しています。つまり大気の拳がめちゃくちに振り回されているのです。振るうたびに兵が空を舞い、思い出したかのように拳が追撃していきます。
「えげつないなぁ」
「リリカさんほどではありません」
拳が振るわれると血が空を舞いますがそれすらも風の拳消しとばし眼前の敵を蹂躙していきます。
「私はそこまでひどくありません」
「スキアリィィィィィ!」
ゼィハに嫌な顔をしながら振り返っているとメイスを振りかぶった兵が襲いかかってきます。
「いや、叫んだらスキもなくなるでしょい?」
声のする方から推測して僅かに横に移動すると勢いよくメイスが私のいた場所を叩きます。
「え、あっ」
「スキアリィィィィィ!」
振り下ろした兵と目が合いなんとも言えない空気が流れる中、私は魔ノ華を唖然としていた兵の顔面に突き刺します。
悲鳴をあげる間もなく絶命した兵から魔ノ華を引き抜き、さらに軽く振るうと周囲の地面に血が飛び散りました。
「一撃で殺すだけまだ優しいでしょう?」
『優しい人は殺さない!』
それもそうでね。ですが生きるためです。魔ノ華を軽く振るい、威嚇をすると私は再び敵の群れの中に笑みを浮かべ突っ込み刃を振るうのでした。