簡単に判断しなくてよかった
「貴様ら、ここで何をしている!」
馬に乗った紅い鎧を着た騎士達(と言っても腰に下げているのは剣ではなくメイスですが)が私とゼィハに話しかけてきました。
「旅の途中でしたが戦争に巻き込まれましてね。ドラクマに雇われたらしき冒険者に襲われたので逆にやり返した所です」
そう言い、私は先ほどまで魔法騎士団を皆殺しにしようという意見に反対していた後衛組を指差します。
当然彼らは身動きが取れないように丁寧に説得という名の暴力で納得していただいた後眠りにつかれてます。ま、下手な真似ができないようにロープで縛り上げていますが。風邪をひかないか心配ですねぇ。
「ふむ、ここいらで光の爆発が見られたのだが貴様らはなにか知らぬか?」
騎士とか貴族っていうのはどうしてこう上から目線でしか話せないんですかね?今更気にしても仕方ありませんが。
「私たちもきになる所でございます。なにより光のせいで馬が驚き荷物を担いだまま走り去ってしまった故に」
「そうか、それは運がなかったな」
『この世で必要なものは強力な武の力とよく回る舌じゃ by長老』
適当にでっち上げた嘘にしてはそれなりに信憑性があったようです。気絶さした後衛組が喚かないのもよかったようですし。
しかし、改めて紅い鎧を着込んだ連中を見ますが早とちりしなくて良かったと痛感しましたね。
なんとなくですがかなりの魔力を感じ取れますし一対一なら勝てるかもしれませんが多数での戦いなら負ける気がします。
「これからここもじき戦場になる。戦う術がないのであれば早々と去るがいい」
ピリァメイスの魔法騎士団は私が縛り上げた後衛組を一瞥すると再び馬を駆り走り出しました。
「光の爆発で敵の前線が崩れた! 今こそ好機だ! 一気に攻め立てよ!」
『オオオオオオオオオ!』
魔法騎士団の一団がメイスを頭上にあげ雄叫びを上げながらかけていきます。
「魔法騎士団というのは馬鹿の集まりなんですかね?」
『いや、よくあんな嘘がスラスラでてきたね?』
くーちゃんの尊敬の眼差しを感じますね。
「いえ、あれは呆れの視線だと思うのですが」
いい気分をゼィハがすぐさま水を差してきます。
「しかし、本当によくあることないことというか嘘しか言ってないじゃないですか」
『そうだよ! 嘘はいけないことなんだよ!』
イフリュートも噛み付いてきます。全く、イフリュートはバカなくせに噛み付いてくるとは。
「あのまま殺されてもよかったという自殺願望があるのなら別に黙っていてよかったのですが生憎と私はまだ死ぬ気はありませんので」
だって、あの光の爆発さしたのが私たちの持っていた古代魔導具だとバレたら確実にメイスで頭をかち割られていましたよ?
ため息をつきながらピリァメイスの魔法騎士団が駆けて行った方を見ると打撃音と魔法で発生したであろう爆発音が響いていました。
「とりあえずはここですることは無くなりましたのでね。撤収しましょう」
「あなたが魔法騎士団に喧嘩を売らなくてよかったです」
ゼィハがホッとした様子を見せます。
ちゃんとどちらが強いかくらいはわかるんですよ?
「それでどうするんです?」
「そうですね〜」
魔法騎士団。あれはやばい。関わるとロクなことが起こらない気配がプンプンとします。
かといってなにも戦果を上げずに帰るというのもシャクに触ります。
というか戦果は冒険者カードに勝手に登録されるので途中で確認できないのも厄介です。
右の戦場には先ほどまでの魔法騎士団。左には膠着状態の戦場。
「よし、あっちに後ろから突撃をかけて適当に蹴散らして戦果をあげましょう!」
「なっ⁉︎ そんなことしたら魔法騎士団が戻ってきたりしませんか?」
「ええ、ですから後ろから突撃を駆けてそのまま後、味方の軍のいるへ抜ければ安全なわけです。それで敵が崩れれば味方は盛り上が攻めに転じるでしょう? そうなれば私たちは安全圏に、彼らは報酬にありつける。つまりWinWinな関係ってやつです」
なるほど、とゼィハとくーちゃんが頷きます。これの問題点は単純。敵が思いの外強かった場合です。突破できずにもみくちゃにされるでしょう。
「しかたありません。あたしとしても古代魔導具を失っただけでは得るものがありませんからね。ここで多少は小遣い稼ぎを差していただきましょう」
古代魔導具は値段がつけられないものが多いですからね。馬鹿な精霊のせいで失ったわけですし。
『わたし? わたしのせいにしてるの⁉︎』
ジト目でイフリュートを見ていると焦ったかのような動きを見せてきます。
「いえいえ、大精霊さまのせいではないですよ。ええ、使えない精霊のせいです」
『それ、わたしをディスってるんだロォォォォォ!』
「はいはい」
適当にあしらいつつぽちを鞘から抜きます。魔ノ華へと形状を変えるととりあえずロープで縛り付けている後衛組へと黒靄を飛ばし魔力を根こそぎ奪い取ります。こいつらはここで放置でいいでしょう。命があるだけまだマシでしょうし。
「さ、行きますよ」
魔力を貯蔵し、魔力の黒い羽を軽く動かしつつ私は宣言するのでした。