意外とあっさり殺れるかもしれないじゃないですか
『全部消えてる……』
『古代魔導具の暴走だからね。あれだけで済んだことが幸運なんだけど』
呆然と見たままのことを告げるくーちゃんにイフリュートが慰め? のような言葉を投げかけています。
「ゼィハ、この場合は戦争はどうなるんでしょう?」
魔ノ華を鞘に戻しつつ尋ねます。まだ敵がくるようなら迎撃が必要ですが今の状態なら普通は警戒してくるでしょうし。
尋ねられたらゼィハは困ったようかな首を傾げます。
「難しいですね。こんな短時間に戦闘が終わることなんてないですから」
「そうなんですか?」
「ええ、ドラクマ側が失ったのは第一騎士団でしたかね。他の場所でも別の騎士団が戦っていると思いますけど……」
ああ、そう言えばハゲが言ってましたね。第一騎士団がどうこうって。
「撤退の合図も出ていませんし、現状はこの場で待機ではないでしょうか」
「なら待ちましょうか」
自分から怪我するかもしれない場に突っ込むのは非常に馬鹿らしいですし。
『あなたはいく先々でロクでもないことをしてない?』
まさか駄目精霊のイフリュートにそんなことを言われるとは。とてつもなく心外ですね。
「臨機応変に対応しているだけです。なにより今回のはゼィハの古代魔導具ですしあなたが近くにいたせいで余計な魔力が注ぎ込まれた結果でしょう」
そもそもの原因は本来なら光を集めて放つだけの古代魔導具がイフリュートの魔力を吸い始めたのが原因です。つまり、
「全部、イフリュートが悪い」
『通りかかっただけで⁉︎』
なぜあなたが驚いたような顔をするのかわかりませんが悪いのはイフリュートに確定ですね。
『ねぇ、リリカ』
「なんです? くーちゃん」
私の服から抜け出したくーちゃんが空を飛び彼方を見つめています。視線はどうやらかなり遠くを見ているようですが。
『なんか煙が上がってるよ』
「煙?」
なにかよくわからないのでとりあえず魔法のカバンから遠見のメガネを取り出し身につけるとくーちゃんの指差す方向へと瞳を向けます。
『あっちあっち』
「敵の増援でしょうか?」
ゼィハもくーちゃんが指差す方をして見ていますが彼女は遠くを見る魔法道具を持っていないのでよくわからないようです。
私の視界に入ったのは確かにくーちゃんが言うように煙。それも土煙のようです。さらに見ていると馬に乗った一団がこちらに向かってきているのがよくわかります。恐らくは鎧を着込んでいること、あとは来た方向から考えてピリァメイスの騎士団であることは間違いないでしょう。ですが先ほどまで前線組が戦っていた騎士団とは鎧の色が違いますね。今向かってきてるのは血のように赤い鎧を着込んだ一段ですし。
「なんだか真っ赤な鎧を着た一団がこっちにきますよ?」
「真っ赤⁉︎」
私の言葉にゼィハ以外からも驚愕の声が聞こえてきます。振り返ると後ろから魔法や弓矢を放っていたおかげで生き残っていた後衛組の皆さんの姿がありました。
安全だと思ってこちらに来ましたね。
「ええ、赤い鎧です。なにか問題があるんですか?」
「赤い鎧をきることが許されているのは剣技と魔法を使いこなすことができる各国最強の部隊。魔法騎士団だけなんですよ!」
なんと…… つまり今こちらに向かってきているのはピリァメイス最強なわけですね。
遠見のメガネで見ていると確かに普通より明らかに速いです。馬に強化魔法でも施しているんでしょうか?
「つまりあれをぶっ潰せばピリァメイスは戦力がなくなるわけですね」
「どこからその自信がくるんですか⁉︎ 無理です無理! 魔法騎士団と戦えるのは魔法騎士団だけなんですから」
初めから決めてかかるゼィハに私は少しイラつきます。
やらないで決めつけるとは感心しませんね。
「意外とあっさり殺れるかもしれないじゃないですか」
「あっさり殺されるの間違いでしょ!」
他の見たこともない後衛組の連中も声を揃え「そうだそうだ!」と怒鳴り込んできます。誰ですかあなた達。
「じゃ、逃げたらいいじゃないですか」
「逃げれるわけないじゃない!」
「何言ってるの!」
なんでしょうか。非常に鬱陶しいですね。
縛り上げても文句言われないと思うんですよね。
そんな事を考え、魔法のカバンからロープを取り出しつつ、砂塵を巻き上げながら赤い一団がこちらに向かってくるのをみるのでした。