やっぱり使えないですね
光が走る奔るはしる疾る。
それも無差別に、意味のわからない角度で、です。
私が放り投げた小さな物を見る兵器は溜め込んだ光を放出し続けています。
ある光は地面に大穴を開け、ある光は地面を疾り、乱戦となっている前線組へと放たれていきます。
突然の、しかも上空からの奇襲に近い攻撃のため目の前の敵に集中していた前線組は防御をする暇もなく光の攻撃にさらされていました。
「おお! 敵がゴミのように消えていきますよ! というか手足が飛んでます」
『ギャァァァァァァァァァァ! 怖い! 光の攻撃!』
こちらにも飛んできた光の攻撃が、くーちゃんを掠めたためくーちゃんが大きく悲鳴をあげながら私の服の中へと逃げ込んできます。
ゼィハはというと光の魔法を使ったのか障壁のような物を作っており光の攻撃を弾いていました。
イフリュートはというと片手で光をはたき落としていましたが思いの外威力が強かったのか手に穴が空いて悲鳴をあげて転がりまわっていました。
「リリカさん、このままでは色々とまずいですよ」
そうですね。仮にも大精霊の手に穴を空ける威力ですしね。でもね。
「敵は減ってますよ?」
「味方も減ってるんです!」
ああ、確かにそういう見方もできますね。言われて見れば確かに味方らしきもの姿も倒れているのが見られますね。
「これは楽に勝てるチャンスなのでは?」
何気なく呟くと私に向けて閃光が煌めきます。とりあえず魔ノ華を翻し斬りかかりますが壁に叩きつけたかのように魔ノ華は光を斬り散らしながらも後ろに弾かれました。
まさか斬れないとは…… 驚きに目をやっていた私に再び閃光が放たれます。
「ぬ!」
姿勢を崩しながらも無理やり身体を動かし変な音が体から響きますがなんとか躱します。体の怪我ならあとで薬を作れば治せます。ですが、なによりこの光のほうがやばそうですし。
後ろに跳ね飛ばされながらも衝撃を逃し転ぶのは阻止します。というか転んだら死にますね。
しかし、魔ノ華で斬れないというか吸収できないとは困りましたね。
「とりあえずはあれを違うとこにやらないとっと」
考えている間も光は止むことなく周囲へ破壊の輝きを放ち続けています。
「なにか手が?」
「ゼィハには?」
問いには問いを返しましょう。
「ありますけど今は無理です」
「なら私のやり方でやりましょうか」
いつもは片手で振るう魔ノ華を両手で握りしめます。
「……一応聞きますけどねだめ精霊、なにかいい方法知ってますか」
先ほどまで転がりまわっていたイフリュートでしたが自身の魔力を手に集めたのかすでに穴が塞がっていました。便利な身体ですね。
『古代魔導具でしょ? しかも下手にいじってるから何が起こるかわからないし獄炎でも吹き飛ばせるかわからないよ?』
「やっぱり使えないですね」
まぁ、元から期待していなかったんですが。
「だったら全開でやります! くーちゃんも魔力を」
『不安しかない……』
不安と言いながらもくーちゃんの魔力と自身の魔力を一気に練り上げ全身へと漲らせます。いつもより明らかに出力が上の身体強化魔法を纏います。
『ちなみにどうするの?』
服の中から顔を出したくーちゃんが不安げに見上げてきます。
「悪食」
固有能力を発動させ、魔力の翼が背中から現れます。これ動かせるんですかね?
試しに動くか試してみます。
違和感はありますが動かせますね。これならいけますね。
「どうするかと聞きましたね?」
『うん』
「なに単純なことですよね。あそこにあるからこそ邪魔なんですよ。だから!」
言葉とともに私は地面を砕き一気に跳躍します。さらに魔力の羽を羽ばたかせ空を飛びます。
『ピャァァァァァァァァァ!』
「ふふふ、人がゴミのようですよ」
下に見えるはゴミのように小さくなった人達。見下ろすと非常に優越感が得られますね。
くーちゃんが悲鳴をあげますが構わず突き進みます。
「くーちゃん、右肩、右腰、右脚から風魔法!」
『あ、あい!』
悲鳴を上げてる最中に指示を出します。とりあえずは聞こえたようで私の体から風魔法が発動。
跳躍しながら風魔法の効果で私の体は高速回転していきます。おぇ…… 気分が悪いです。
回転しながら光を放ち続ける小さな物を見る兵器へ一気に迫ります。
途中いくつもの光がかすめますが悪食の効果で多少は軽減されているのか軽い火傷程度で済んでいるようです。
「セェェェェイ!」
回転し続け、遠心力から繰り出された横薙ぎの一撃を暴走古代魔導具に叩き込みます。
いつもならあっさりと斬り裂けるはずの魔ノ華が甲高い音を立てながら弾かれます。ですがそれは織り込み済みです。そのために魔法を使ってもらってるんですから。
「くーちゃん、魔法!」
『あいさ!』
くーちゃんに頼み込み、さらに背中から魔法を発動。押し出されるように再び回転しながら魔ノ華を古代魔導具へと叩き込みます。
やはり叩き切ることはできずに腕が痺れますが今回は弾き飛ばされることはありませんでした。
「落ろぉぉぉぉぉぉ!」
叫び声を上げながら魔ノ華を振り抜きます。古代魔導具は砕けはしませんでしたが二度目の斬撃というか打撃には耐え切れなかったのか今度は勢いよく飛んで行きました。
『やった!』
くーちゃんが喝采をあげますが私は見ました。飛んでいくのは未だ混戦が続いている前線の方であることに。
「あ……」
私が小さく呟いた時には暴走した小さな物を見る兵器は前線の中に埋もれ、そして光を放ちながら大きな爆発を起こしていきます。
「派手ですねぇ」
地面に着地した私の横に立ったゼィハがどこか他人事のような感じに告げます。確かに他人事ではあるんですがね。
私とゼィハの目線の先、前線は球体を描くように何も残らない空間へと変わっているのでした。