いつからその気になってるんです?
「え、えっと、あたしがここにいる理由はですね!」
オドオドとした様子でゼィハは声をあげます。その怯えたような視線の先には私とベシュの武器によってひたすら殴打され続けボロ雑巾のようになり虫の息となっているオーランドへと向けられていました。
奴の言うところの胸の脂の重みをその身をもって思い知らせてやりましたよ。
『ひどい……』
くーちゃんがボロ雑巾を見ながら呟きますがあれは女性の敵です。胸の事を脂などという奴にはお似合いの末路でしょう。生きているだけまだマシなんでしよ。
「ああ、話の途中でしたね、続けてください」
若干の溜飲が下がったところで私は席にもどりゼィハに話の続きを促します。
「あたしがここにいる理由は研究のためです」
「研究?」
こんなところで研究することなんてあるんでしょうか? むしろ運が悪ければ死にそうですが。
「あ、あたしの研究というか専門は古代魔導具なんです」
「こんなとこで古代魔導具がでるんですか?」
研究というからには古代魔導具が発見されるところにいないといけないはずなんですが、古代魔導具はそんな簡単に見つからないはずですが。
「一概に古代魔導具と言っても種類があるんです」
ゼィハが得意げに話してくれた内容は簡単に言うならば、古代魔導具の定義というのは古い魔導具だけでなく現代の魔法で解明、再現できない現象を引き起こす魔導具のことを指すそうです。
「あたしはなぜ魔導具と呼ばれるような強大な力を持った古代文明が滅びたのか! それが知りたいんです! ああ、なんてロマン! 好奇心が疼いてしまいますよ! 見てください!この輝き!」
声高々にゼィハが見せてきたのは自身の腕。よく見ると輝きを放っており生身の腕ではないということがよくわかります。
「あまりにも美しいので自分の腕と交換してみたんですよ!」
やたらと高揚しているのか頬を赤らめながら椅子から立ち上がり腰をくねくねとさしています。
『こいつ、やばいやつだ……』
ベシュと私は同時に感じ取ります。ゼィハの瞳に映る色。それは明らかに好奇心を満たすためならなんでもしうる狂人の色です。
(これは拾い物かもしれませんね)
狂ったまでの執着。そして思考。これはおもしろい。これなら見ていて飽きることはないでしょう。
「ゼィハ、私と共にいきませんか?」
「はい?」
頬を紅潮させながらもゼィハは疑問符を浮かべた瞳を私に向けてきます。
「ちょっとリリカ! なんでこんな狂ったダークエルフを私たちのパーティに入れる気なのよ!」
なぜか私たちというところを強調してくるベシュですが。
「なんでって、ベシュ。あなた、いつから私のパーティになってたんですか?」
「……え」
えってなんでそんな信じられないような眼で私を見てくるんですかね?
あくまでベシュ達は同行しているだけです。決してパーティを組んでいるわけではありませんし。
『リリカ、友達なくすよ? えぐいよ?』
「くーちゃん、真実を言って別れるくらいならそれは友達ではありませんよ」
そんなお飾りの友達いらないんですよ。
『殴り合って友達になるの?』
「それも面倒ですね。弱みを握って餌で釣るというのはどうですか? 誰も損しませんよ?」
『弱みを握れてる時点で損してる人がいるよね?』
なるほど、その発想はありませんでしたね。
「ふむ、確かにそろそろ実験したいものも増えてきましたしちょうどいいかもしれませんが……」
ゼィハは打ちひしがれたように倒れているベシュをちらりと見ます。
「ああ、これは気にしなくていいですよ」
「ならついて行ってもいいですか?」
私の知る限りというか私もそうですが、こういう輩は力を試せる場を求めているんです。
私は手を差し出し握手を求めます。
「あ、そういえば」
ゼィハの方も私の方に手を伸ばしてきましたが何かを思い出したのかその手が止まります。
「ここまで来たあなた達の目的は?」
「あ、忘れとましたよ」
そうでした。このダンジョンにきた目的。
すっかり頭から飛んでましたね。
「私がここに来たのはこのフロアに漂っている魔力を発生さしてるものが目的なんですよ」
「あ、魔の破片ですね」
『魔の破片?』
くーちゃんは知らないもののようですね。私も知りませんが。
「これの事です」
そう言いながらゼィハはなぜか胸の谷間に…… 谷間に手を入れ黒い小さな石を取り出してきます。
『リリカ、これ、じわじわ』
くーちゃんがゼィハが胸から取り出した黒い小さな石を指差しながら言ってきます。
「出てきた場所が複雑な心境にしますがこれに間違いないですね」
明らかにゼィハの放っている魔力とは異質な魔力を感じます。
先ほど洞窟内で感じた魔力と同じ感じがしますし。普通の石にしか見えないんですけどね。
「これが目的なんでしたらあげますよ?」
「いいんですか?」
見た感じこの石、ひたすらに魔力を出してますから自分の魔力を消費せずに済むと思うんですが。
「これにはロマンがありませんから」
そう言ったゼィハは本当にあっさりと魔の破片を私に向かい放り投げてきました。慌てて私が受け取ろうと手を伸ばした瞬間、ぽちから出た黒靄が掴みました。
「あ……」
唖然としてる中、どうやってかわかりませんが魔の破片はぽちの中に取り込まれるように消えて行きました。
「……なにしてるんですか? ぽち」
ぽちに尋ねますがぽちから嬉しげな感じしか伝わってきません。
この刀は!
怒りに手を震わす私でしたがぽちが魔の破片を吐き出すことはありませんでした。