たどりついた目的地
「さて、扉が開いたところで入りましょうか」
「開いた? 蹴破ったの間違いでしょ?」
もう見慣れた瓦礫へと成り下がった扉を無視し、中にはいります。
中に入ると再び先ほど感じていたような高密度の魔力を感じました。
「ここが目的地ですかね」
『うん、この下にはもうなにも感じないよ』
腰のぽちも振動するのをやめ機嫌がよさそうにしているのがわかります。
となるとここが連れて来たかった場所にちがいないのでしょう。
「しかし、なんなんですかね。これ」
私が『これ』と指したのは部屋一面に広がっている瓶です。それも空の瓶ではなく中になにかわからない生物だったり一部だったりと気色悪いことこの上ありません。
「悪の魔法使いの家って感じね」
私と同じように部屋の中を見ていたベシュが感想を述べます。
なるほど、確かに言われてみればそんな感じがしますね。
「つまるところ、『コレ』は悪の魔法使いって所でしょう」
私が再び『コレ』と指したのは先ほど私が扉ごと蹴り飛ばした人物らしきものです。
フードがあるためよくわかりませんが顔から血、というか鼻血を盛大に出しいるらしく着ていた白い服に点々と紅い趾がついています。さらには部屋中にある瓶と同様の物を蹴り飛ばされた拍子に割ったのか身体中に得体の知れないものが乗っており異臭を放っていました。
「これはくさいですね」
『臭すぎるよ!』
くーちゃんが風の魔法を使い一気に換気をし始めます。
風を発生させ臭いを一気に流し取るかのように魔力を操っていきます、
さすがは精霊です。普通の魔法使いにはできないような芸当ですね。
「あとはこの汚物ですが……」
近くに立てかけてあった杖を手に取り、気絶したままである人物を突きます。突くたびに小さく身体が反応しているということは生きているということでしょう。
一応、暴れられたら嫌ですから縛りっときましょうか。
「ベシュ」
「なによ」
いまだに部屋の中を物珍し気に見ていたベシュを呼び寄せると魔法のカバンから縄を取り出し彼女に放り投げ気絶している魔法使いぽい人を指差し。
「縛ってください」
「なんで、私が! あなたが自分で縛りなさいよ」
「いやですよ。服が汚れるじゃないですか」
「私だって嫌よ!」
なんですかベシュ、一端の乙女気取りですか? 狂戦士のくせに。
「そうですか、しかたありませんかぬ。無理強いはできません」
まぁ、嫌なら無理強いはできませんね。私は魔法のカバンから一冊の古ぼけた本を取り出します。
「ところで私、唐突に本が読みたくなったんですが読んでいいですか?」
「? 好きにしたらいいじゃない」
怪訝な顔をしつつもベシュはOKを出しました。それに対して私は笑みを浮かべます。
「では、○の日、今日はわたしはリーちゃんと遊ぶ約束をしました。リーちゃんにはいつもやられてばかりなので今日こそは勝てると思います」
『なんで絵日記みたいだね』
くーちゃんが興味を持ったのか私の肩に止まり本を覗き込んできています。
ええ、これは絵日記ですとも。
「○の日、今日もリーちゃんに負けた。落とし穴ぬはめられて動けなくなった所にいっぱい虫を落とされた」
『うわぁ……』
「な、なぁ⁉︎」
ベシュの口から言葉が漏れ、顔が赤くなったり青くなったりと面白いほどの変化を見せていた。
そんなベシュの表情の変化を片目で捉えながらニヤニヤしつつ私は絵本を朗読することを続ける。
「○の日、今日も負けた。今日は服を全部取られて裸にされた。里の人からちじょと呼ばれたけどなにかわからな……」
「ワァァァァァァァァ! 縛る! 縛るから読むのやめてぇぇぇぇ!」
突然ベシュが大声をあげながら私の手にある縄をひったくるようにとると魔法使いぽい人を縛り上げていた。先ほどまで汚れるじゃない! とか言っていた彼女の姿はありません。
『リリカが読んでたやつって……』
「絵日記ですよ。昔のね」
ベシュの敗北記録が赤裸々に記されている日記ですがね。こんなに細かく記しているなんてね。
「いやぁ、ベシュが自分から縛りに行ってくれて私は大助かりだよ」
「鬼だな、リリカは」
オーランドとガルムがまるで人でなしを見るような目で私を見てきます。
失礼なやつらです。私は人でなしではなくエルフだというのに。
「リリカ! 縛った! 縛ったからその本を頂戴!」
必死の形相でベシュが服が汚れていることも気にせずに私の足元にすがりついてきました。
そんな無様なベシュに向かい、私は手にしていた絵本を放り投げます。
「あわわわわわ!」
普段の素早い動きはどうしたのかと言わんばかりに動揺しています。
飛びつき、自分の手にある絵本を見てベシュはホッとしたような表情を見せました。
「あ、あと七冊くらい日記ありますからね?」
しかし、私の手には再び、魔法のカバンから取り出した新たな絵本が七冊ほどありました。
私の声に振り返ったベシュの表情が絶望で塗りつぶされていました。