奥に潜むものは
十五階層。
くーちゃんの感覚通りならここになにかあるはずの階層です。
階段を降り、そのフロアに足を踏み入れた瞬間、私も確かに何かを感じました。
「これは…… なんですかね?」
ひとりでに言葉が溢れます。
確かに何かを感じます。ですがなにかわからない。
私以外のエルフもどうやら同じ感じのようでなにかわからないようでした。
ただそんな中でもぽちだけは先に進む事を促すような動きを見せています。具体的に言うと気持ち悪いくらい振動しています。
仕方なしにぽちの振動が強くなる方へ向かい歩き出します。特に見当もつきませんし勘でいってもさほど問題でもないでしょう。
「あなたたちはどうするんです? 私はあっちに行きますけど?」
ぽちが誘導しようとする方向を指差しながら私はベシュたちに尋ねます。
「行くに決まってるじゃない。ダンジョンの奥に何があるか見たいし」
「なら行きますよ」
オーランド、ガルムの返事を聞かずに私は先に向けて歩き始めます。ベシュも楽しげに私の後ろをついてきているのがわかります。
私の感覚では特に危険信号のようなものはでていません。肩に座るくーちゃんにも視線を向けてみますがゆっくりと首をふるだけです。
周囲を観察しながら歩きますがゆっくり今までのような洞窟ではなく明らかに人の手が加えられた作りになっています。なにせ壁には落書きに見えなくもない文字がいくつもかきこまれているのですから。
「これは当たりかもしれませんね」
魔王復活に必要な物。
そのうちの一つがここにあるかもしれないのですから自然と私の気分は高揚します。
「手に入れたらどうしますかね」
『え、復活ささないの?』
いや、そんな驚かれても。
そもそも復活させる気がないんですけどね。
おちょくるだけおちょくって野望は全部たたき潰しましょう。
『てっきり世界滅ぼすのかと』
「バカ言わないでください。滅ぼしたりしたら自分も死んじゃうじゃないですか」
自殺趣味は私にはありませんよ。
ただ、
「魔王というのにも興味がありますね」
魔王を復活させるというのは地獄の蓋を開くことと同意ですからね。
まぁ、復活したら観察するとしましょう。
ぽちがグイグイと私を引くように震えている方角に歩いていきます。
しばらくあるきますがまったくと言っていいほどに魔物がでてきません。
「これ、今思ったんですけどこのなんとも言えないの魔力じゃないですか?」
『魔力ってこんなぬるぬるするかなぁ?』
そう気持ち悪いのです。
体にまとわりつくような感触。
今さらながら思い出しましたが里で読んだことのある本の中に密度の高い魔力は形を持つって書いていましたしね。
「魔ノ華」
真名解放を行い魔ノ華を展開さします。これがもし魔力であるのであれば魔ノ華の悪食で食べれると考えたからです。
悪食を発動させた瞬間、背中の黒翼が恐ろしい勢いで巨大化していきます。
予想通り、感覚の正体は魔力、しかもかなりの高密度。
集められた魔力が凄まじい勢いで体の中を駆け巡り一気に体に力が満ち溢れていきます。
「うーん」
すごい勢いで魔力が集まるので魔力を魔ノ華に集め軽く誰もいない空間に向け軽く振るいます。
すると想像以上の魔力が込められていたのでしょう。振るった剣先からおぞましいまでの魔力の斬撃が放たれ眼前の通路の壁を抉り、砕き崩壊さしていきます。
「あ……」
『……』
ガラガラと音を立て壊れていく壁を見ながら私は間抜けな声を、他のメンバーは口を開け呆然としています。
想像以上の破壊力にしみじみと魔ノ華を見ます。そしてベシュへと視線を向けます。
「もう一回戦う?」
「や、やめとく」
切っ先を軽く向けて告げますがベシュは断ってきました。
「……どうする」
「あ、ガルム。あなたの声久しぶりに聞きましたよ」
やたらと高い女に間違えられそうな声を保有するガルムはそのため滅多に喋りたがりません。
そのガルムが喋り指をさす方に全員の視線が向けられます。
「あれ」
指の先には崩壊し塞がれた通路。
「どうする」
「なぎ払いましょう」
ウキウキとした様子で魔ノ華を構え瓦礫に向かう私を全員が必死に止めるのでした。