共同戦線? いえ、ただの壁です。
こんにちは! リリカ・エトロンシアです。
現在私はダンジョンに来ています。
特に刺激のなかったダンジョンでしたので最短コースで突っ切ることにしました。
そのかいあって私のいる階層はなななんと十五階層でございまさーす!
いやぁ、くーちゃんの発想は素晴らしいものですね。おかげで楽々ですよ。
それはダンジョンに住むとても凶暴なモンスターを使った画期的な方法です。
その名も、
「ベシュベーター」
「勝手に変なあだ名つけるな!」
モンスターの乱舞とも言える攻撃を躱し、逸らし、弾きあげ応戦します。
流石に幾度も同じ手を使って私が下の階に逃げていくので床を壊す攻撃を避けてきています。
猿並みの脳味噌ですが学習しましたね。
魔ノ華も魔力を絶好調で周囲から吸い上げていますので私には今無限に近い魔力があるわけです。
そのため魔力に限りのあるベシュは少しづつ、ほんの少しづつ私の攻撃に対応できなくなりつつあります。
しかし、それでも私はベシュを攻めきれずにいます。短時間で下に降りるために彼女を使うためでもありますが、私が構え、攻めに転じるとオーランドとガルムがいやらしいタイミングで妨害してくるのです。
追い詰めたといえ、ベシュは手負いの獣。二人を相手にしながら易々と下せる相手ではないため奇妙な膠着状態が剣戟を行いながら続いていました。
『リリカ、多分次の階だよ!』
「了解です」
くーちゃんの言葉に唇を薄く舐めると少し魔力を込め斬撃を放ち、さらには魔力も同様に刃状にして飛ばします。
予想通りベシュ達は各々の武器で魔力弾を弾きつつ後ろに下がり警戒しながらも息を整えていました。
「はぁ、やっぱり三人だといくら魔力があっても無理だね」
私は魔ノ華の切っ先を下げため息をつきます。
昔からどうもこの三人とは相性が悪いんですよね。魔力で身体強化してないと絶対負かされましたし、何回泣かされたことか。身体強化の魔法を覚えてからもしばらくは魔力をが少なかった弱点を突かれましたし、まぁ、途中から効率のいい使い方をしたので逆に泣かしてやりましたが三人がかりで来られると引き分けが多いんですよね。
「ふん、今なら土下座して謝れば許してあげるわよ!」
頬を赤らめながらもそんなことをいってくるベシュ。最低条件が東の国の最上級の謝り方の時点で最悪ですが。
「はぁ? なんで謝らないといけないんですか? 最初に斬りかかってしたのはあなたですよ、ベシュ」
「あなたが逃げるからでしょう!」
「普通に考えてくださいよ。走ってたら大剣担いだ奴がこっちを見て笑うんですよ? どう考えても危ないでしょ」
『まぁ、確かに』
あれだけの戦闘をしても私の肩からまったく動かなかったくーちゃんが腕を組みながら頷き同意してきます。
しかし、一方で対峙するベシュの方は納得がいかないの 巨大を討つ剣を握る手が震えています。
「ベシュ、落ち着け。挑発してくるのはリリカのいつもの手だ」
オーランドがベシュの肩を掴み諭しています。
「心外ですねオーランド。私はただ思ったことを正直に言ってるだけなんですが?」
「……君はもう少し自分の発する言葉がどれだけ鋭利なものかを自覚したほうがいい」
「ははは! オーランドも冗談を言うんですね。言葉で人が斬れるわけないでしょ?」
真面目そうな顔をしてなかなか面白い冗談です。
にやにやと口元を歪ましていた私を見てベシュは大きくため息をつくと手にしている 巨大を討つ剣消してしまいました。
「ああ、やっと諦めました?」
ベシュの雰囲気から戦う気がないことがわかった私も魔ノ華の展開をやめ、妖刀の状態へと戻します。
そんな私を憎々しげにベシュが見てきます。
「きょ、今日のところはやめてあげるだけよ! わ、私が勝っちゃうし!」
「別に続けてもいいんですよ? 私が勝ちますし」
せっかく戻した妖刀を鞘からわずかに刃、わ引き出しベシュに見えるようにするとなぜかベシュはしょんぼりしたように肩を落としました。
「まぁ、戦わないにこしたことはないさ」
オーランドとガルムも武器を収め私の方へ向かい歩いてきているところでした。
「で、なんのようです? まさか何もないということはないのでしょう?」
「君の方こそ何が目的なんだ?」
オーランドがきざったらしくエルフ特有の金の髪をかきあげます。妙に様になっているのがやたらと腹が立ちますが。
「私は単純にダンジョンに来たことがないので来ただけですよ」
嘘は言ってません。ダンジョンに興味があるのは確かですしね。ただ、今はダンジョンの奥にある物にも興味がそそられているだけですし。
「そうか、なら我らも同行してもいいかね?」
「はぁ、まあいいですけど」
べつに足手まといなら切り捨てればいいだけですしね。
しかし、ベシュ。なぜあなたはそんなに嬉しそうなのか私には理解できませんよ。飛び跳ねて喜ぶようなことですか?
ま、精々壁役に使いましょう。