ベシュベーター
ひたすらに振るわれる 巨大を討つ剣。躱すのはわけないですが地味に振るわれるたびに放たれる剣圧というか衝撃波が厄介極まります。魔ノ華を完全解放している今魔力切れという枷がない状態の私ですが治癒魔法は覚えていないので致命傷をうけるとやばいことになります。
「くーちゃんの言う最短攻略法を行きますか」
ちまちまやられるのもストレスが溜まりますしね。
そうと決まれば実行開始です。こちらに 巨大を討つ剣を振るうベシュに向かい私は疾走。ベシュもまさか向かってくると思っていなかったのか驚愕の表情を浮かべています。しかし、振るわれる太刀筋には微塵の揺れはなく振り下ろされます。
振り下ろしを確認した私はその場で急停止、全身の筋肉が悲鳴を上げますが無理やりに勢いを殺し、直角に跳躍。目標である私を見失った 巨大を討つ剣は床を再び叩き割り破壊音を撒き散らしながら下の階層が見える大穴を作り出します。
『予定通り!』
「だね」
壁を蹴り、さらには天井を蹴った私はベシュが作り出した下の階層へと続いている大穴へと滑り込みます。
「ああ⁉︎」
穴の上からベシュの間抜けな声が聞こえます。
最短ルート。それはベシュが床を叩き割り穴を開けさせそこに入り込むというものです。これを繰り返さすことで階段を発見せずとも下に行けるというわけです。
問題はベシュがあっさりとこの策に引っかかるかどうかということでしたが、
「逃げるなぁ!」
穴から飛び降り大剣を振り上げるベシュを見て杞憂だということに気づきます。
「頭に血が上ったバカほど御しやすいものはありませんね」
『リリカ、本当に性格最悪だよ』
有効活用といってほしいですね。こんな馬鹿力ドワーフ達の炭鉱くらいしか役に立つ場所はありませんよ。
振り下ろされた 巨大を討つ剣は再び床を叩き割り、私のための最短コースを作ってくれます。
「今度は穴には逃さない!」
巨大を討つ剣を担ぎ、突進してくるベシュ。どうやら距離を詰めて逃げる隙を潰す気のようですがね。
「あなたの 巨大を討つ剣と違って魔ノ華は応用が効くんですよ」
迫るベシュに向かい魔ノ華を振るうと刃から放たれた黒靄が一瞬にして壁を生成。その作られた壁を力任せに蹴りつけるとゆっくりと傾き突進してきていたベシュへ向かい倒れて行きます。
「こんなもの!」
叫び声とともに刄が壁にぶつかるような音がしますが壁は壊れることなく傾いて行き、
「ぐゅぎぃぃぃぃ!」
ある程度の角度で傾きは止まります。おそらくはベシュが受け止めているのでしょう。
ふふふ、黒靄はかなり硬いのですよ。なにせ魔ノ華の刄なんですから。
傾いいる壁の上をスキップしながら歩いていきます。
私が一本踏み出すごとに下からベシュの悲鳴のような声が聞こえてくるのが大変心地よい。
「この辺かなぁ?」
コンコンとつま先で下にある壁を小突きます。すると丁度真下辺りからベシュの声が聞こえてきます。
「とぅ!」
その場でジャンプし、壁を踏みつけます。わずかに壁の角度が平行に近づきます。
「ギャァァァァァァ!」
途端、壁の下にいるベシュが悲鳴を上げます。私が跳び衝撃を与えるたびに下にいるベシュにもダメージが通るんですから当然ですが。
「ああ、そんなとこにいたんですか? 危ないですよ? 下敷きになりますよ?」
「ど、どの口が!」
『悪魔ってリリカのことじゃないかな?』
さて煽るのはこの位にしましょうか。
再び壁の上を歩きある程度の目安をつけ静止。指を軽く鳴らし黒靄で作っていた壁を消します。
「この外道がぁぁぁぁ!」
叫びながらむちゃくちゃに 巨大を討つ剣を振り回しますがそこには私はもういないんですよね。
「ベシュ、次の階層で会いましょうね」
怒り心頭といった様子のベシュに手を振りながら目安をつけていた場所。ベシュがぶち壊した床に空いた穴に私は消えます。
「はい、これで四階層っと」
これが知恵の力というやつでしょう。ベシュを馬車馬の如く使う作戦いけますね。
「どう思いますオーランド?」
クルリと体を回転させ、同時に捻るように魔ノ華を背後からの殺気の主にぶつけます。
魔ノ華が何かにぶつかりますが全く衝撃は私の手にはなく、視線の先には剣を振り払った姿勢で後ろに下がるオーランドの姿がありました。
「相変わらずバカみたい気配感知だな」
「相変わらずバカみたいに同じ手を使いますからね。次はガルムが影から切りますか」
再び魔ノ華を翻しオーランドに切っ先を向け形態変化を行います。漆黒の刄がオーランドを貫くように伸びていきます。
驚愕に目を見開くオーランドでしたがさすがエルフの戦士、寸前で躱しますね。しかし、狙いはオーランドではありません。オーランドの後ろに影のようにいるガルムの方です。
オーランドと同様に驚いていますがこちらは躱すことができず、しかし両手に持つ短剣を交差さしけたたましい音を上げながらも魔ノ華突きを止めました。
「……いい武器使ってますね」
魔ノ華の刀身を元に戻しながら正直な感想を述べます。
一応魔剣使ってるんですが貫けませんでした。
「パーティに無茶するバカがいるんでな、こちらも武器をそれなりにしないと死ぬんだよ」
軽口を叩きながらもオーランドは長剣を、ガルムは無言で短剣を構えてきます。
「それは大変ですね。今からさらに大変でしょうが」
「何を言ってやが……」
オーランドの言葉を遮るように私とオーランドの間に影が降り立ちます。
その影に対して私は笑みを浮かべ親しげに話しかけます。
「おや、ベシュ。遅かったですね。てっきり疲れて休んでいるのかと思いましたよ」
「リリカァァァァァァァ! 絶対泣かすんだからぁぁぁぁぁぁ!」
語呂が少ないですね。完全に狂乱状態ですね。
「もっと語呂を増やして出直してください! そうじゃないと古代の機械、エレベーターをもじってベシュベーターと呼びますよ」
「うるさい!人の名前を勝手にいじるなぁ!」
再び涙を浮かべ 巨大を討つ剣を掲げながら襲いかかってくるベシュを私は笑顔で迎え撃つのでした。
ね、予想通りだったでしょ?