障害物は厄介者
「伸びろ! 魔ノ華!」
迫る刄を見据えながら私は魔ノ華を壁に向かい振るいます。
同時に黒靄が刃へと戻り私の命令通りに刀身が伸び壁に突き刺さります。
私が落ちてくることを計算に入れて放たれていたベシュの大剣による突きは空を貫きますがそれでも剣によって生じた風が私の髪をなびかせます。
「まだまだまだぁ!」
突きを放ち完全に静止した大剣にさらなる膂力が加えられ静止ていた大剣が再び稼動。
垂直に振り上げられ三度目の強襲を私に行ってきます。
「切っ先の方へ縮め! 魔ノ華!」
再度の命令を魔ノ華は実直に遂行。伸びていた刀身が一気に縮み、柄を握っていた私は壁へと吸い寄せられます。
「むきぃぃ!」
三度目の攻撃も躱されたことに腹を立てたのか地団駄を踏むベシュ。
相変わらず頭に血が上りやすい性格ですね。
「戦いなさいよ! リリカ! 戦いなさいよぉぉ!」
「はぁ? バカですか? 得もないのに戦うわけないでしょ? それとも誇り高い族長の孫様はいつまで経っても成長できないバカなんですか?」
『リリカ、火に油を注いでるよ!』
私の言葉を聞いてみるみるうちに顔を真っ赤にしていくベシュ。本当にわかりやすいですね。しかし、頭は悪いですが攻撃力だけはバカにできないですからね。
「……こうなったら全力でいくよ!」
「あ、それ知ってますよ! この前は全力じゃなかったってフリでしょ?」
「っ! 敵を破砕しろ! 巨大を討つ剣!」
真名解放? あれも魔剣でしたか。
ベシュが構える大剣の刄が一瞬にして白刃へと変わり、魔力を放ち始めています。
私の魔ノ華とは真逆の色なんですね。
「おい、ベシュやりすぎるな!」
オーランドが慌てたような声を上げますが、無駄ですよオーランド。頭に血の上った彼女は猿より頭が悪いのですから。
「私の悪口を考えたなぁ!」
……勘も鋭い。
しかし、魔剣なら特性がそれぞれありますからどうやって戦うか……
「絶対に泣かす!」
「いや、泣いてるのあなたなんですが……」
壁から魔ノ華を引き抜き、着地した私に目尻に涙を溜めた状態でベシュが! 巨大を討つ剣を構え対峙します。先ほどと違うのはベシュではなく私の方がダンジョンの進行方向で言う前にいるということですかね。
「てりゃぁぁぁぁぁぁ!」
「うるさいですよ。ダンジョン内は反響するんですから」
巨大を討つ剣を振り上げ、やかましい声を上げながらベシュがこちらに迫ってきます。
戦ってあげてもいいんですがかなり面倒です。この子は自分が勝つまでやめないタイプですし。
「破壊しろ! 巨大を討つ剣」
振り下ろしと同時にベシュが叫びます。受けるのも馬鹿らしいので体をズラして躱しますが、眼前を風をうならしながら振り下ろされる 巨大を討つ剣の刀身が先ほど見たときよりやたらと輝いていることに気づきます。
気付いた瞬間、私の頭の中に危険を知らせるが如く警報が鳴ります。
すかさずその本能に従い全力で後ろに跳びのきます。
そして跳びのきながら振り下ろされた 巨大を討つ剣を凝視すると目標を見失った 巨大を討つ剣は床へ接触。それと同時に刀身に溜め込まれた魔力を爆発させるが如くの威力で文字通り地面を叩き壊しました。
爆発音、破壊音が同時に響き渡りダンジョンが大きく揺れます。天井からはパラパラと砂や小石が落ちてくるほどです。
ゆっくりとした動作で巨大を討つ剣を再び構えるベシュ。
巨大を討つ剣を叩きつけた地面には大穴というかどうやら下の階層のような通路が見えています。
「階層の床をぶち抜くとか普通無理でしょう……」
魔ノ華が魔力を全開まで吸えばいけなくもないんでしょうが試したいとも思いませんし。
「うらぁぁぁぁ!」
振るわれる刃はまさに一撃必殺。
かすっただけでもどうなるか考えたくない攻撃です。おそらくはあの 巨大を討つ剣の能力と脳みそ筋肉であるベシュの奇跡的なまでの相性の良さが繰り出す破壊力なのでしょう。
私が攻撃を避けるたびに馬鹿みたいな攻撃力を伴った 巨大を討つ剣が叩きつけられダンジョンが震えます。それはもう文字通りに。
床を、壁を、天井をぶち抜き時折、冒険者らしき人が巻き込まれたような悲鳴が聞こえてきます。私、何もしてないんですけどね。
『ねぇ、リリカ』
「なんです?」
避けられない攻撃はとりあえず魔ノ華で軌道をそらしていますが馬鹿力すぎて厄介です。手が痺れます。というかベシュの奴、悪食発動さしてるのに普通に動いてきますね。
魔剣持ちには効かないのかもしれませんね。
『すっごい簡単にダンジョン攻略する方法思いついたよ』
「ほほう」
巨大を討つ剣をさばきながらくーちゃんが耳元で囁く悪巧みを聞いて私は口元を歪め採用を決めるのでした。
わかる人には、いや普通にわかる最短コース