いざ追跡開始!
森のなかを住処にしてきたエルフにとって追跡というのは遊びのような物です。
なにせ生きてきた森には明らかに自分より強い魔物や動物が多かったんですから。
そのためエルフの子供が最初に習得する技能は気配を消すこととなります。もちろん武器の扱い方も習いますがまずは気配のほうです。
『気配の殺し方が分かればナイフだけでも魔物は殺れる! by長老』
基本胡散臭い長老ですがこの言葉だけは真実です。現にじじいはナイフだけで魔物の死体の山を築き上げ里がお肉お祭り状態になったこともありますし。
まぁ、話が逸れましたが何が言いたいかと言うと、
「追跡するのなんて楽勝なわけですよ」
『誰に言ってるの?』
独り言を言う私を心配そうにくーちゃんが見つめてきます。いや、頭大丈夫みたいな目で見ないでくださいよ。
すでにドラクマを出たおそらくはベテランパーティ五人を追跡して早三時間。雪道をひたすらに歩いていきます。
彼らを観察していて思いましたが警戒心がなさすぎですね。なにせ、私に気付く気配がまったくありませんからね。
結構離れているとはいえ野生の動物の方がまだ勘は鋭そうです。
「それにあの人達の戦い方、魔法使い頼りじゃないですか」
もちろん、三時間も歩けば魔物とだって遭遇します。その際の戦闘も観察さしてもらいましたが戦士二、僧侶一、魔法使い二といった構成のパーティのようでブーツベアと戦っていましたが、内容はとても酷く最終的には戦士の攻撃を躱しまくったブーツベアを魔法使いの魔法で消し飛ばすと言う荒技で進んでいました。
「あれじゃ、いくら魔力があっても足りませんよ」
断言できます。このパーティよりも私なら一人で戦った方が戦果をあげれると。
『でも手伝わないんでしょう?』
「当たり前ですよ。疲れますし」
答え終わると私は魔法のカバンから新調された弓と矢を取り出し番え、放ちます。
わずかな間の後に小さな悲鳴が聞こえ、音を立てながら雪の上に落ちてきました。
「食材が大量ですね」
仕留めたのは空を飛んでいた鳥です。もらった弓の試し撃ちを兼ねて食料を調達していきます。
思っていたよりも使いやすくいい弓です。
調子に乗って放つ矢がさっきから全部狙った獲物に刺さりますからとても楽しくなってきましたよ。
『やりすぎ!』
「あだ!」
くーちゃんの体全身を使った体当たりが私の頭に叩き込まれ視界が揺れます。そのせいで今射った矢は見当違いの方向に飛んで行ってしまいました。
仕方なしに頭をさすりながら弓を背負い、ナイフを取り出すと、肉の切り分けを開始していきます。無駄に射ったせいで肉のパーティが開始できるくらいの量がありますね。
ふふふ、私は他のエルフとは違います。草食ではなく肉食ですからね。肉大好き!
切り分けるたびに魔法のカバン《マジックバック》に放り込んで行きます。
いやぁ、いい収穫です。
私に魔法の才能があれば火魔法でも浸かって焼いて食べながら歩くんですけどねぇ。
『リリカが遊んでる間にどこかに消えたよ?』
「え?」
肉を捌くのを止め眼をそちらにやると確かに姿がみえなくなっていました。ま、慌てる必要はありませんがね。
「大丈夫ですよ。雪の上に足跡が残ってますし、多少離れても問題ないでしょう」
『でも、おくれてダンジョンに入ったら罠とかわからないよ?』
「それもそうですね。いきますか」
ある程度は食材も手に入りましたしこれ以上は食べきれないでしょうし。
大半の肉を捌くことを放棄し、足早に歩き出します。
足跡の感覚を見る限り戦っているわけでも私の追跡に気づいて足を速めた様子も見られませんし。
「あ、あれですかね」
しばらく足跡を追っていくと開けた場所で休憩をとっているパーティがみえてきました。その先には地下に続いているであろう穴が見えます。
「……ダンジョン?」
『穴にしか見えないね』
期待ハズレだった私の呟きにくーちゃんが同意してきます。あれではダンジョンじゃなく洞窟ですね。
「しかし、ただの洞窟に冒険者が集まるとは思えませんし」
洞窟の周囲には他にも冒険者らしきパーティの姿が見えます。そこから考えると残念なことにこの洞窟は今話題のダンジョンなんでしょう。
「なんというかがっかりですね」
期待しすぎた反動というものでしょうか? やる気が一気に持って行かれた気がしますよ。
しかし、ダンジョンと呼ばれるからには何かしらあるんでしょう。
私は自分に納得させるようにそう考えましたが口からため息が出ていました。




