脱出
新しく始めました。新作になります。
私、リリカ・エトロンシアの朝は遅い。まず起きるのが遅い。というかすでに太陽は真上まで来てることが多いので起きるのは昼と言っても間違いではない。
次に寝起きが悪い。友達に言わせると「起こしたら蹴られるから起こしたくない」と言われるレベルらしい。
そんな私が珍しく早起きしている。
特に意味はないが、なんとなく嫌な予感がするんだよね。
コンコン
私の考えを邪魔するように子気味のいい音が響く。まあ、無視するわけにもいかないじゃないですか。
「はいはーい」
私は扉に向かいパタパタと音を立てながら近づくと鍵を開ける。扉を開けると目に飛び込んで来たのは黒。視線を上に向ける真っ黒な鎧を着込んだ屈強そうな騎士が数人立っていた。……威圧感がすごいです
「あの、どちらさまでしょうか?」
「リリカ・エトロンシアはどこにいる?」
私の質問に答えず騎士は質問してきた。目の前に本人がいるとも知らずに。
「リリカ・エトロンシアは私ですけど」
「こんな子供が!?」
騎士の一人が私を指差し驚きの声を上げる。人を指差すとは失礼なやつだな。
「確認するが君がリリカ・エトロンシアで間違いないのだな?」
「どのリリカ・エトロンシアをお探しかは分りませんが」
「エルフのリリカ・エトロンシアだ」
「なら私ですね」
すっばらしいくらい疑惑の目を向けてきますねこの人、ならば証拠を見せましょう。
私は自分の銀の髪をかきあげ、自分の耳を見えるようにする。
幾人かの騎士が息を呑む音が聞こえる。ふふん、驚いてますね。
「エルフでリリカ・エトロンシアは私しかいないと思いますよ」
エルフの特徴的な尖った耳をピコピコと動かしながらささやかな胸を張り告げる。
ふふん、こうやって耳を動かせるエルフは少ないんだから。
「エルフはもっと肉感的な種族だとばかり思っていたが」
騎士の一人がぼそりと呟いた言葉を聞いた私はその騎士に自嘲気味な笑みを返す。
ええ、確かに小柄ですとも、確かに同郷のエルフの里の中でも一番ちびですとも。今年で十六になりますけど去年から一切成長していませんとも。ボッキュッボン? なにそれ? 私の体はつるぺたーんですよ。
ああ、なんだか考えてたら気分が沈んできちゃったよ。
「だ、だいじょうぶですか?」
「ええ、大丈夫、大丈夫です」
騎士の一人が心配げに私に近づいてくるが、別の騎士の手が手を伸ばし進路を遮った。
「隊長?」
「忘れるな。我らは病人を看病しに来たのではない。犯罪者かどうかを確かめに来たのだ」
犯罪者? 誰が?
「リリカ・エトロンシア、貴殿に逮捕状が出ている」
「逮捕状?」
あ、私ですか?
うーん、心当たりが全くないんですが。
「その様子では心当たりがないようだが」
「はい、微塵もありませんね」
「では内容を確認しても?」
「是非是非」
人間の文字はまだ少ししかわからないから読んでくれると助かりますね。
「罪状のほうだが違法薬物の売買とあるな。この薬を知ってるか?」
そう言い騎士が私に見したのは透明な袋に入れられた白い粉だ。
これか。見覚えあるよ。
「知ってます知ってます。私が作ったやつです」
「ほう。どうして作ったんだ?」
「街に来たばかりの時に知らないおじさんが幸せになれる薬がほしいと言って来たので作って差し上げました」
エルフの代表的な特技の一つに薬作りがある。もちろん、エルフの里特有の薬草なども使う物もあるがおじさんに頼まれた薬なら人里に生えてる薬草でも作れたので作って上げたのだ。
「売ったのはそのおじさんだけかい?」
「いえ、おじさん以外にもいろいろな方が来ましたね。一袋銀貨一枚で買って行ってくれました」
あの薬はよく売れました。私の持つ硬貨の大半はあのお薬で手に入れたと言ってもいいし。
「なんであんなに売れたんですかね? 別に幸せな気分になるだけで現実には幸せにならないのに」
「……違法薬物の売人は君か」
隊長と呼ばれた騎士が痛いのか頭を抱えている。
「お薬つくりましょうか?」
「……結構だ」
大丈夫だろうか? お腹当たりも抑えてるしもしかしたら胃も痛いのかもしれない。
「話を聞く限りまだ情状酌量の余地はありそうだ。とりあえず、騎士団まで同行していただきたい」
「なにかするんですか? いやらしいこととか?」
「そんなことするわけないだろ! 自分の胸を見て出直してこい」
あ、胸フェチでしたか、
「…… すいません。抉れてて」
「いや、そこまでは言ってないんだが」
「じゃ、ちょっと準備するので部屋の外で待っててください」
「いや、部屋で待たしてもらわかった! 部屋の外で待つから服を脱ぐのはちょっと待て!」
慌てたように騎士のみなさんは部屋の外に退場されました。全く、私の身体など見るに堪えないと! そういうことですか、
「さてと」
とりあえずは外に出でもらったわけですし、準備をしますか。
「えっと、とりあえずは魔法のカバンに服とかは適当に放り込んでと」
部屋に散らばっている服や薬を作るようの機材を手にとっては片っ端から魔法のカバンに投げ入れる。
あとはエルフの里名物である精霊の加護が宿りやすいという緑のローブを今着ているただの布のローブを脱ぎ捨て着込む。
「こんなものかな」
特に破損もしてないしこれで行くとしようか。
『どこ? どこにいくの?』
『あそび? あそび?』
私の周りにふわふわと光の塊……精霊が賑やかに舞いながらたどたどしい言葉で尋ねてきた。
「そうです。鬼ごっこです」
私は最後の荷物である弓を手に持ち、魔法のカバンを背負いながら精霊に話しかけながら微笑む。
部屋の奥にある窓に近づき、窓の戸を開けると眩しいばかりの光がはいってきた。現在泊まっている宿屋は二階建て。このくらいの高さならエルフにとっては造作もない高さです。
「いいですか? 私は今から逃げないと行けません」
声を潜めフワフワと浮かぶ精霊に話しかけると楽しいことと思ったのか精霊が近づいてきます。彼らは楽しいことが大好きですからね。
『おには? おには?』
「あの扉の外にいます。捕まると大変ですので協力してください」
『わかったわかった』
騎士の控える扉を指差すと精霊は楽しそうに揺れます。素直ないい子です。
「ではルールです。私が逃げたらあなた達はここにいてください。扉の外の人たちが話しかけてきたら『まーだだよ』と言うのですよ?」
『まーだだよまーだだよ』
精霊達は私そっくりの声で『まーだだよ』と言い始めます。これなら容易く騙せそうです。
「もし、扉の外の人たちが入って来たらあなた達の負けです。一目散に逃げましょう。捕まれば食べられます」
『たべられる? バリバリ』
「はい、バリバリのもしゃもしゃです」
『がんばる!』
なぜか決死の覚悟みたいな顔をしてますが、冗談ですよと言えなさそうなのでこのままにしときましょう。
私は満足げに頷くと窓に足を掛け振り返る。
「じゃ、よろしく」
『まかせてー』
精霊たちの心強い? 言葉を聴いた私は躊躇うことなく窓から地面に飛び降りる。ドンという音が響き周囲の住人が私を注視してきます。こちらを見てきている子供に笑顔を浮かべながら軽く手を振り、先程飛び降りた窓を見上げます。
「さて、部屋からの脱出に成功です」
『まーだだよ』
精霊たちの声が聞こえます。どうやら彼らは私の言った事を守ってくれているようです。素直なことはいいことだね。
騎士団に連行? 嫌に決まってますよ。エルフの里を抜けた時点で自由に生きると決めたんですから。
「まさか、あの薬が人間の間では違法薬物扱いだったとは勉強不足でした」
まぁ、過ぎたことは仕方ないんですが。
さて、どこに行きますかね。軍資金もたんまりあることですし。まぁ、違法で手に入れたものですがみなさん幸せだったのでよしとしましょう。
「とりあえず適当にぶらつきましょう」
『ぶらぶら〜』
一体の精霊さんが一緒についてきたみたいですが、何事も前向きに行きましょう。まずはこの街から逃げとこうかな。……捕まる前に。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして今後どのように書いていくかは今のところは未定です。
タイトルも現在「エルフさんが通ります(仮)」ですがこれは思いつきませんでした。
なにかいいタイトルあれば教えてほしいです。
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