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傍観者だと思っていた

傍観者だと思っていた私の現実

作者: 立木 明

「あーあ、なんか滑稽すぎて逆に哀れだわ」


 放課後の二階教室の窓から外を見降ろしあざける。

 公立高校のなんの変哲もない放課後の風景に不釣り合いな一団が、下校中の生徒に嫌な顔で避けられている光景は本当に笑えるわ。

 これで生徒を統括する生徒会とかないわ。他の学校の生徒会とこの学校の生徒に謝れよ。

 桜色の髪を揺らし朗らかに笑う一人の少女と、風紀委員長と副会長を除いた他の生徒会の男子生徒が迷惑を顧みないでじゃれている。

 最早見慣れてしまったが、そのせいで生徒会の業務が停滞していることに誰か気づいているのだろうか。

 副会長は仕事がストップしないように日々駆けずりまわり、風紀委員長は彼らのせいで険悪な空気が漂う生徒を諌めるのに奔走してる姿を知っている。

 

「これってどう見ても、ネット小説で見かける逆ハーを築いた転生者よね。

知識を使って男を落としまくるのは、周りの迷惑にならない程度に留めてほしいわ。

てか、あの子お姫様気分でいるけど『ゲーム期間』が過ぎたらどうするのかしら?」


 ほんとお気楽転生者様ね。同じ転生者の私から見ても、これは酷いわ。

 呆れた目で見ていた私の視界に、一組の男女が入る。

 短髪で爽やかな印象の青年と、大和撫子といった清楚な美少女が並んで歩いているのは微笑ましい。

「手をつなぐだけで挙動不審になるとか、どんだけ純情よ。

あ、彼女のほうが積極的!そうよね、今どきの大和撫子も後ろに下がってるだけじゃダメよ、うん」


 近くで繰り広げられている逆ハー軍団に比べ、彼は紳士で好感が持てる。

 事あるごとに女に絡まれているのに、本命にしか目に入れてないなんて理想じゃない!

それにしても、同じ『主人公』なのにこうも違うと、何とも言えない気持ちになるわ。




 この世界がゲームの世界であるということを知っているのは、おそらく私とあそこで男に囲まれている少女だけだろう。

 ネット小説である転生先がゲームだったなんて、使い古され新鮮味もないけど、私が今生きている世界はそのゲームの世界。

 しかも、制作会社が横着したので『ギャルゲー』と『乙女ゲーム』の舞台が同一という、何とも混沌とした世界。

 ゲーム期間も重なってるし、背景は手抜きもいいところで使いまわし。声優も同一人物が互いの作品に出ている始末。

 唯一面白いと思ったシステムが、どちらも互いのデータを読み足り、そのゲームに反映させる機能だろう。

 たとえば、この作品たちは舞台は同じでも、プレイの時間軸が多少異なる。

 ギャルゲーは春からクリスマスまでの期間で、クリスマスにツリーの下で告白しハッピーエンドになる。たいして、乙女ゲームは春から次の春まで。

 なので、クリアデータを読み込めば、ギャルゲーにはクリスマス直前のイベントで乙女ゲームの主人公がアクシデントを起こし出会う邂逅イベントがあり、逆に乙女ゲームにはギャルゲーの主人公が迷子になった乙女主人公を助ける邂逅イベントがあるのだ。

 これはどちらも買って欲しい制作側がアピールとして付け足したものだ。

 これが意外にもヒットの要因となり、どちらも売れた。私もギャルゲーはしないのにこのイベントのために買ったわ。

 顔はふつメンで描かれているのに、内面がイケメンすぎた。何アレ、現実にいてほしいわ!と萌えた萌えた。

 ま、その世界に生まれ変わり近くで見て、二次元は二次元に限ると思ったけどね。

 


「なーに、見てんの?」

「げ……っ」

「げって酷いなぁ、美紀ちゃん」

「あんたに名前で呼ばれるほど、仲良くなかったと記憶してるけど?」

「女の子は名前で呼ぶ。これオレの信条。で、何見て……ああ、あの迷惑常習者か」

「そ。分かったなら帰って」

「君ってその素っ気なさがいいよねぇ。屈服させたくてゾクゾクする」

「あんたってホント変態ね」

「それはどうも」

「褒めてない」


 高校生を満喫してますといった雰囲気を全面にだし、制服を着崩した男を睨み付けた。

 髪を染めることは校則違反じゃないから、脱色して色が抜けた茶髪に、シャツの第二ボタンまで外したチャラ男。

 名前は安曇斎あずみ いつきと自己紹介で言っていた気がする。ギャルゲー主人公の親友でアドバイザー的なポジションキャラ。

 でもチャラ過ぎて、本当にあの純情そうな主人公の親友なのかといっつも思ってしまう。

 成績は意外にも上位だし、スポーツも万能で人懐っこいから絶対乙女ゲームの攻略対象として作られてボツられ、ギャルゲーで再利用されたとしか思えない。

 その親友ポジの男は、なぜか私に付きまとっている。

 出会いはナンパだけど、私のどこがよかったのか、それ以来事あるごとによく出会う。

 まるで何かの引力で会わされているようで、正直怖すぎ。にこにことして何を考えてるのか分からない顔も苦手。

 冷たい対応で相手すれば、ドSかと思うセリフを言い、少しでも優しくするとつけあがる。もうめんどくさ過ぎて相手したくない人物だ。

 

「私帰る」

「え、もう?もうちょっと待ってたら面白いことが起こると思うけど」

「どうせ堪忍袋の緒が切れた副会長と風紀委員長が、あの集団に抗議するんでしょ。

聞いたところじゃ生徒会のリコールもあるって話だしね」

「へぇーさすが情報通」

「あんたには負けるわよ。私より前にその情報掴んで、親友に教えてたでしょ。

彼の意中の相手、書記の妹ちゃんだし」

「ひゅ~」


 軽い調子で口笛を吹かれ、イラッとする。本当にいい性格してる。

 私がどこまで掴んでるのか確認して、望む答えが返ってくることを期待してるよ。

 もう!だれかコイツに首輪嵌めて、私に近づかないようにしてほしいわ!


「じゃ、これも知ってるよね?」

「なによ」


 席を立ち、仏頂面で安曇を睨み付ける。

 長身の彼と平均より低い身長の私では、私が頭を持ち上げないと相手の顔が見れない。

 早く言えとばかりに睨みをきつくすると、安曇はニヤリと笑い上半身を屈めた。

 顔が近づく。小奇麗で人を馬鹿にしたように。




「君、オレの攻略対象なんだよね。これから覚悟しなよ」






補足です


安曇はギャルゲー主人公の親友ですが、その作品のスピンオフ作で主人公です。

そして狙われた哀れな少女は、彼の攻略対象者。

つまり彼女は傍観者になれなかったのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。 3つの作品、面白くて何度も読んでしまいました♪ 特に、この作品はその後とか連載として読んでみたいです。 有難う御座いましたm(__)m
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