4。彼と彼女。
「うわ!きもっ!」
ハナはどんびき。イッタは不思議そうだ。
「なに?怖いの。かわい。」
「怖くないの!キ・モ・イ!」
結婚してしばらくの頃だった。中古で買ったマイホームは、隙間が多く、昆虫やヤモリ等の小さな生き物がいっぱい入ってきた。その度にハナは悲鳴をあげて、イッタの出番だ。イッタは捕まえて、家の外に逃がしてやる。ハナは自分じゃできないくせに、それらの小さな命を殺せ殺せとうるさい。
「殺さないと、また戻ってくるでしょ?」
「また追い出すよ。」
いつものやりとり。でも、ハナは満足そうだ。ちょっと嬉しそうだったりする。イッタはどうして言う事を聞かず、捕まえた生き物を逃がす自分の事を嬉しそうに見るのか理解できなかった。でも、ある時、彼女に言われて納得した。結局、ハナのその気持ちは理解できなかったが、そういうものだと信じて、安心した。彼女は一生懸命捕まえて逃がす彼のことを見て、思ったのだそうだ。
「優しいなぁ、って。」
自分より弱い者に優しくする。自分の得にならないものに優しくする。それが本当に信じられる優しさなのだそうだ。結婚してよかったとハナはイッタに告げた。ハナは、イッタの頭をくしゃくしゃにする。
自分より強い存在にどうやって優しくするのか理解出来ないダメ人間のイッタは、それでも、その時とても。
とてもとても幸せだった。