15。失翼。
マグマが噴き出す様にイッタの鳩尾から、赤い光が溢れ出していた。
だが、命の迸りにも見えるその光は徐々に弱まり、遂には止まってしまった。イッタの全ての羽根は抜け落ちて夜空に散ってしまった。大空を羽ばたく人々は堕ちていくイッタに見向きもしないで必死にそれぞれのゴールに向かって行く。
アスファルトで蠢く、薄っぺらな人々はイッタに興味津々で苦痛に歪んだ満面の笑みを浮かべ、彼が堕ちて来るのを待ち構えている。
イッタは、堕ちていく。
最後の瞬間、イッタは歯を食いしばり身体を捻って、頭からアスファルトに激突するのを回避した。両足を突き出し、精一杯衝撃を和らげようとする。
イッタは諦めていなかった。薄っぺらくなりたく無かったのだ。ハナを見捨てて、苦しくて、何もかもを投げたそうとしていた彼だったが、あれは嫌だった。薄っぺらな人々の仲間になって、逆さ男に苦痛を献上するだけの存在になってしまうのは。ガシャガシャ笑う男と、ぎぃぎぃ身体を揺らすパンダの仲間入りは御免だった。
……そうだね、ハナ。君の言うとおりだ。ボクは自分勝手だ。ボクは弱い。
もう何もかも失って、自分の魂の自由さえ失うかもしれないと認識して、初めて、漸く、イッタは認めることができた。自分の弱さを。自分の身勝手さを。そして、落ちてペッしゃんこになることが怖かった。自分にはそんな資格がないのかもしれないと思いながらも、逆さ男に連れ去られたくなかった。これで最後かもと思い、恐怖に包まれながらも、イッタは思った。
……ハナ。ごめん。ありがとう。
そして、イッタは堕ちた。