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小ネタ集  作者: ポンカス
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戦え、企業戦士

 朝起きると、君はいつものように洗面所へ向かう。おとなしく歯だけ磨いてればいいのに、舌の表面まで擦るから、ガチョウの断末魔のようにえづいて爽快な朝を台無しにする。毎度毎度よく懲りないものだ。

 そして朝食。トーストの上に納豆、さらに大量のマヨネーズを乗せて食す。健康に良いんだか悪いんだか判断に困るトッピングだが、いつも君はしかめツラで食べるよね。まずいんだろう? 正直に言ってごらん。

「うええ。う、ああ」

 ほら、言わないことじゃない。

 次に、支度をして会社へ向かう。君はいつも機械のように繰り返す毎日にうんざりしているのに、やっぱりまた会社に行く。そうしないと食べていけないからね。せっかく額に汗して働いているんだから、もっと食事に気を使っても良さそうな気がするけど。朝はいつもあの変なトースト、昼はコンビニ弁当、夜に至っては酒のあてを食事と言い張る、そんな食生活ではいつか身体を壊しても知らないよ。

 電車に揺られること、一時間弱。君も周りも、みんな疲れた顔をしているね。まだ就業すらしていないのに、そんな調子で大丈夫か心配になるよ。そして、君は昨晩の酒と、朝のゲテモノが胃の中で混じりあう頃合。電車の揺れも、シェイクに拍車をかけるね。車内で戻すことも一度や二度ではないけど、今日は大丈夫かな?

「うええ。う、ああ」

 ダメみたいだね。ビシャリと派手な水音をたてて、えんじ色の床に吐しゃ。いつもこの時間に乗り合わせるOLのお姉さんが、またかみたいな目で見ているよ。まだ少し時間には余裕があるから、君は次の駅で降りて、トイレに駆け込んで口をゆすぐ。トイレの壁に手をつきながらヨロヨロと出てくる姿は幽霊のようだよ。

 しばらくその場にしゃがみこんで、何本か電車をやり過ごして、やっとこさ快復。何とか遅刻せずに出社。よかったね。

 そして君は叱られたり褒められたりしながら仕事を終えて、またまた夜の街に繰り出す。本当に性懲りのない。とはいえ、目を掛けてくれる上司に誘われれば、仕方ない部分もあるんだろうけどね。それにしてももう少し加減をしながら呑むということも覚えて良い頃合だろうに。さもないと、君の今日の晩御飯、タコときゅうりの酢漬け、お造りセット、フライドチキン、その他諸々は、明日の朝にはまた電車の床に食わすことになるよ。本当にいい加減に学習しなよね。

 君は上司と別れて、家路を辿る。千鳥足ながらも、キチンと駅に向かっているのが毎回不思議でならないよ。犬じゃないけど、帰巣本能があるんだろうか。だけど、今日の君はそんな本能を上回る欲求が身体を支配する。それくらいには酩酊していたらしい。最近はあまりなかったことだけど、溜まった疲れがあるのかもしれないね。君はアスファルトの上に、海老みたいに背を丸めて眠ってしまった。縁石に腰を落としていつの間にか、とかじゃなくて、もう最初からここで寝る気満々だったよね。

 ああ、君、いけないよ。おきて。スリだ。君と同じようにコンクリートを敷布団と勘違いしている連中の背広をまさぐって、財布を次々と手際よく抜き取っている。ほら、早くおきて。段々こっちに近づいているよ。介抱するフリや、或いは知り合いのフリで声を掛ける素振りから、結構手馴れているみたいだ。君みたいなお間抜けさんからスルのに、十秒とかからないよ。ほら、おきて。はやく、はやく。ああ、ダメだ。もう身体を起こす風に手を入れられている。君は単純だからスラックスのポケットに入れているよね。ああ、見つかった。

「うええ。う、ああ」

 いいよ、その調子。はやく、はやく。

 ―――ブ、ブリリリリ。

 ……いたちの最後っ屁にしては、随分と汁気を帯びていなかったかい?

二人称のものは前から書きたかった。ネタの元は、先日俺自身が電車内でゲロ吐いたこと。もやしって意外と消化悪いのかな。

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