エターナル・ブルー
「青いなあ」
「青いですねえ」
「あんなに青いとは思わなかった。ひげを剃った直後の君より青いんじゃないか?」
「やめてくださいよ。毛深いのちょっと気にしてるんですから」
「そっか、ごめん。それにしても青い。しかもデカイよね?」
「ええ、でかいですね。中尉の乳輪くらいデカイです」
「やめてよ。それマジで気にしてるんだから」
「そうですか、すいません。それにしてもデカイ。しかも思ったより丸いですよね」
「うん。あんなに丸いと転がってくんじゃないか?」
「いや、まあ実際、転がっているっていう表現も間違いじゃないと思いますよ?」
「それもそうか。青くてデカくて、丸い。しかも転がっている。いや待って。ちょっと臭くもあるんじゃない?」
「え? そうですか? 何も臭いませんけど?」
「いや、臭いよ。俺の宇宙服内部」
「それは知りませんよ」
「ううん、何かイカ臭いんだよね」
「ちょっと、やめてくださいよ。中学生じゃないんですから。宇宙に来てまで、そんな……」
「いや、いやいやいや。してないから。何もないじゃん、そもそも。扇情的なものが」
「中尉クラスになれば、シャトルの先っちょが月のクレーターと重なるだけで大喜びでしょう?」
「いや、いやいやいや。そこまで想像力たくましくないから。そういうのは少佐くらいにならないと無理だよ」
「あ、そういえばさっき通信が入って、中尉から少佐に昇進なさったそうですよ? おめでとうございます」
「え、マジ? 俺、少佐?」
「ええ」
「……」
「……」
「ちょ、ちょっと。やめろよ、そんな顔で見るなよ。さっき昇進したんでしょ? 物理的に無理じゃん」
「少佐の早さがあれば」
「本当やめてってば。言いがかりも良い所だよ。違うから、本当違うから」
「じゃあ何でイカ臭いんですか?」
「いや、それは、ほら。アレだよ。ずっと洗ってないし」
「じゃあ少佐の身体にはイカ臭い液体の匂いがこびりついているってことですか?」
「何なの。何で旗色悪くなってんの? もういいよ。それでいいよ。中学生でいいよ」
「……そういえば少佐。これ成功して、地球に戻ったら、感想とか聞かれると思いますよ? どうします?」
「流れぶった切ったなあ。もう何でもいいよ。青かったとか言っとけば」
「ちょっと、やめてくださいよ。小学生じゃないんですから」
「大丈夫だって。しみじみ言えば、情感がこもってるとか、行間がとか、どうのこうの勝手に喜ぶだろ」
「本気なんですか? 青かった、ってそれだけ? 本当に小学生並みの感想ですよ? いやいや、ないって」
「ありなの。俺がありって言ったらありなの。どうせ誰も俺の感想なんて聞きに来ないって。せいぜい六人くらいだろう?」
「バカ言わないでください。全人類が注目してますよ! 何せ世界初なんですから! 考え直してくださいよ!」
「何だよ、興奮するなよ。鬱陶しいな。わかったよ、考えるよ」
「本当頼みますよ」
「多分、述語だけで喋るから小学生っぽいんだろう?」
「そうですね。主語と述語で、キチンと文にしましょう。そうしましょう」
「ううーん。地球は青かった。これでいこう」
「……え?」
「え?」
何だったかな。確か、ソ連を題材にした映画か小説か何か読んでて浮かんだ気がする。ちなみに、ウィキったら史実とは大きく異なってるので、鵜呑みにはしないで。