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小ネタ集  作者: ポンカス
17/19

こだわりラーメン

 友人とラーメンを食べに行こうという話になった。友人は少し離れた所に住んでいるので、ここら辺の地理には明るくない。そこで、店選びは僕に一任されることとなり、一軒のラーメン屋を思い浮かべた。いわゆる、個人経営の店で、五十代くらいの店主が一人で切り盛りしているところだ。内装は、今時のはやりとは無縁で、カウンター席しかない。必然、座れば厨房が丸見えで、古くなった鍋や、換気扇が黒く埃被っているのもよく見える。決して衛生面が充実している感じはせず、一度、ハエが飛んでいるのも見かけたくらいだ。そして、店主もまた、たとえ客と一対一で向かい合っても、世間話の一つも振ってこない、愛想のない人物だった。

 だが、味は良い。濃厚でいて後に引かないスープも、絶妙な湯で加減の細麺も抜群。しかも、700円の低価格で、味玉にチャーシュー三枚、海苔、メンマがデフォルトのトッピングである。更にチャーハンを追加で頼んでも1000円以内で満腹になれる。味よし、ボリュームよし、コストパフォーマンスよし、となれば、多少店内が小汚くとも、店主が熊のような風貌でも我慢もしようというもの。しかも暗黙のうちに女人禁制の隠れた名店のような雰囲気漂えば、男心をおおいにくすぐるというものである。

 友人にそんな話をすると、途端に食いついてきた。是非いってみようと息巻いて、我々は出発した。

 ――本日はスープの味に納得がいかないので、勝手ながら休業とさせていただきます――

 意気軒昂な我々の前に立ちふさがったのは、固く閉じられた引き戸と、そんな文言の張り紙だった。

 友人は悔しがった。ついていないとぼやいて、地面に転がっていた小石を蹴った。

 結局、その日はまた来ようという約束をして、解散となった。

 リベンジマッチは10日後だった。今日こそはと道中、友人は期待に目を輝かせていた。

 ――本日は麺が何かアレなので、勝手ながら休業します――

 何かアレって、何がどれなんだよ! 友人は声を荒げた。彼の名誉のために言っておきたいが、彼は決して器の小さな男ではない。だが、今日という日、彼は二駅も離れた自宅から僕の家まで歩いて遊びに来ていた。しかも、電話口で「こないだダメだったラーメン屋行ってみようぜ」などと言っていたのだから、思わず語気が強くなるのも無理からぬことだろう。それでも、最後には、「逆にこれはこれで面白いな」と笑っていたのだから、やはり懐の深い男だと僕は思った。

 リターンマッチは6日後だった。もうこうなってくると、意地でも食べてみたいよね、と友人はやる気マンマンだった。さすがに、彼自身、三度目の正直を期して、またも空振りするとは思ってもいなかっただろう。

 ――おなか痛いから休みます――

 頑張れよ! 友人は、もう扉を突き抜けて店の中に居る店主に聞こえるのではないかという声量で言った。

 なんか段々、張り紙の文言も雑になってきてるしよー! 言うだけ言って項垂れた。さすがに、今回で彼も心が折れたかなと思う。ちなみに、僕一人で来たときに休業の張り紙が出ていたことはない。現に、彼の再戦のインターバルに食べに来たときには、醤油ラーメンを堪能させてもらった。そういった話もしているので、遂には折れてしまったんじゃないかと。自分には縁が無いのだろうかと勘繰ってしまいそうだ。

 彼への慰めの言葉を考えていると、しかし彼はガバッと唐突に顔を上げた。明日また来る。さすがに二日連続で休みやしないよな? そうだ。昼に来よう。いつも夜に来てガチャガチャ言っているんだから、ランチタイムならちょっと変わるだろう。友人は捲くし立てるように言い切った。言い切ったが、あまり論理的とは思えない。だがとにかく、彼がそれで気が済むのならそうさせてやろうと思った。それに彼の言どおり、スープに納得がいかなくとも、麺がアレでも、腹が痛くても、二日連続休むのは気が引けて、店主も明日は多少不満があっても営業するかもしれない。

 ――確変が終わらないので休み。ラーメンなんか作っとる場合じゃない――

 帰ってきて貼ってんじゃねえか! なんだ、休憩出してもらったんか? ああ、こら! 友人は今日も元気だ。だが、今日は昨日と違って昼の時間帯なので、周囲の注目を浴びて恥ずかしい。何とかなだめすかして、落ち着いてもらったが、友人は目に見えた肩を落としていた。そろそろ可哀想になってきた。

 それから一月が経った。友人は例のラーメン店の話を一切しなくなった。そんなある日、僕は友人にこう切り出した。今日は大丈夫だからさ、いつかのラーメン屋に行ってみない? 友人は当然渋った。何故大丈夫だと言い切れるのかと執拗に訊ねた。僕はそれには答えず、とにかく行けばわかるからと半ば無理矢理彼を引き連れて例のラーメン店へ向かった。

 店は開いていた。友人は泡食ったような顔をしていたが、僕に引っ張られて暖簾をくぐった。

 いらっしゃい。なんだ、ケンジ君じゃないか。いつもは堅物然とした叔父が微かに笑った。例のイタズラはもういいのかい? と。


 

会話文を地の文に溶かすという試みは前からやってみたかったんだけど、長編でやる勇気はなく。着想は、先日、作中にあったような小汚いラーメン屋に入ってみたこと。クソ不味かったけどな。マジで潰れる五秒前だと思う。

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