邪~じゃ・よこしま~
この書き物を、猫とクトゥルフ神話とを愛する者たちに捧ぐ。
僕は、ニック・ボケナス。伝説研究家&男女の性生活研究所協会会長&貧乳歴史研究家でもある探偵事務所の所長である、ウィスキー・タマホリ先生による調査のもとで、依頼されていた行方不明の飼い猫の『アコニト(トリカブト)』を追って、この、港町『インスマウス町』まで辿り着いた。実に、晴れ晴れと青く冴え渡っていた空が、僕 たちを歓迎していた。
「おう、ニッキー」
「はい、先生」
「ロンドンから船を乗り継いで、ついに来ちまったな」
「はい、先生」
「行くぞ、ニッキー」
「はい、先生」
ウィスキー先生の後をついて、波止場から石畳の路地へと移り、僕たちは、陽気な民族住む町の中に足を進めていく。しかし、ちょっとどころか、けっこう平行感覚を狂わされてしまうくらいに、街中の家だけではなく、地面に至るまで歪になっていた。ウィスキー先生が、何処までが揉み上げで何処からが髭なのか全くいつもながら予測不能な口元から、太い葉巻を生やしながらひとつ漏らした。
「陽気な民族の町は、作り方まで陽気だなぁ、おい」
ウィスキー先生は、普通に声が大きい。
拡声器は無用です。
大平原の小さな家まで届くほど。
それもそうですが、昼間にもかかわらず静まり返った町も、なかなか愉快ですね、ウィスキー先生。
すると。
しばらく足を運んでいったどころで、僕たちは思わず足を止める。それは、町の路地枝という路地枝から、なにやら迫ってくる音を聞いたからで。それが何かと訊かれたならば、それは、大量の足音。しかも、急いで走ってくる感じ?
そうこうしているうちに、建物の影から、大量の『猫たち』が現れてきたんですよ。奥さん!!
あっという間に、町の通りが一面猫の群れに支配されてしまった。まるで、絨毯。フワフワの大海原の中へと、ダイビングしても良いですか? 駄目ですか、そうですか。と、その群れの中に、アコニトを発見。
「お!? アコニトみぃーっけ!!―――行くぜ、ニッキー!!」
「はい、先生!!」
そう、意気込んでいざ行かんとした僕たちを、群れの中から放たれた声から足止めされてしまった。
「なんで、にゃんげんのアンタ達が来てんのよ!? あたしたち猫たち以外の者がきたら、たちまち『ケトゥルフー』から吸盤チュッチュされて、お婿に行けなくなるわよ! だから、早く逃げなさい!!」
なんてこったい、猫会議だったとは。
そうですね。会議の邪魔しては悪いですね。
というか、ケトゥルフーってなんですかね。
想像がつかない事は、悔しいですね。
そのようなアコニトの有り難いアドバイスも虚しく、僕たちは、後ろから巨大な吸盤の生えた触手から巻かれてしまい、これまた巨大な猫の顔を持つ頭足類の怪物に捕まったあげく、吸盤チュッチュをされてしまったのであった。
あれから三日間もケトゥルフーから玩具と見なされた僕たちは、さんざん飽きるまで吸盤チュッチュされて遊ばれたあとに、やっと解放されて、アコニトとともにその飼い主のもとへと戻って行きました。
あのとき、生きるか死ぬかと心臓バクバクものだった僕と対照的に、ウィスキー先生は「イャッ、ホーーッ!! おい、ボケナス。ケトゥルフーってのは、なかなかイカした神様だなぁ、おい。イャッ、ホーーゥッ!!」と、今まで見たなかで一番楽しそうにしていた。
『邪〜じゃ・よこしま〜』完結
最後まで、このような書き物に付き合っていただきまして、ありがとうございました。
猫がどうしても書きたかったんですよ。猫好きなのに、あまり取り扱っていないという。これから、なんとか増やしていきたいと思います。