表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/35

33  だいすき

「葵はお前のことを怨んでないし、俺はお前のことを嫌いにならない」

 葵の言葉も代弁して、俺は声を出す。美鈴はゆっくりと俺の方に顔を向けた。赤く充血している目が、酷く目立っている。

 俺は自分の鞄から、葵が買ってきた温泉旅行の土産を取りだした。そしてそれを、美鈴に差し出す。

「これ、葵からお前に」

「え?」

 不思議そうな顔をする美鈴に、俺は笑う。

「葵がお前のために買ったんだって。だから渡しとく」

 俺はそう言ってから、葵の方を見た。葵は笑顔で頷いている。その葵の目も真っ赤だ。俺は葵の言い分を聞いてから、それを美鈴に伝えた。

「葵のは、自殺でも殺人でもなくて、事故だ。本人がそう言ってる。だから、お前は殺人者とかそんなんじゃないし、怨まれてもいない。それから」

 ピンク色の紙袋を見ながら、俺は笑う。

「今でも、お前のことが好きだって。それはずっと変わらないって、言ってる」

「言ってるって……」

 困惑顔の美鈴に、俺はほほ笑んだ。

「分かるんだよ。兄妹だからな」

『ちょっとー、カッコつけちゃって! 変態なお兄ちゃんのことをこれからもよろしくねって、美鈴ちゃんに伝えてよ!』

「ばーか、言えるかそんなの」

 何もない空間を見て笑っている俺を、美鈴は不思議そうな、それから少し不気味そうな顔で見ていた。




「辛い時は、いつでも電話してくれ。ていうか、言ってほしい。俺も葵も、お前には生きててほしいって、本当にそう思ってるんだよ」

 ちゃんと支えてやれるかどうかは分からないけど、と付け足して俺は苦笑した。

 それから、美鈴を家まで送った。手を、繋いで。


 帰宅途中、美鈴は葵の土産をそっと開封した。ピンク色の紙袋には、この前行ったホテルの名前がはっきりと書かれていた。それを見てぎょっとしたが、美鈴は気にしていないようだった。中から出てきたのは、マスコット付きのキーホルダー。ご当地キャラらしきマスコットが、ハート形のプレートを両手に持っている。そのプレートに書かれているのは、


『いつもありがとう だいすき』


 美鈴はそのキーホルダーを握りしめて、何度目かは分からない涙を流した。





『美鈴ちゃん、大丈夫かな』

 美鈴を家に送り届けてから、葵が口を開いた。先ほどまでは真っ赤だった空はすっかり暗くなり、月の光が目立ち始めていた。

「大丈夫だ、きっと」

 本屋に行くのを諦めた俺は、自宅へと歩きながら呟く。

『美鈴には俺がついてるから? ヒューヒュー』

 茶化すような口調で、背後から葵が言った。

「お前なあ、」

 俺は葵の方を振り返り、そして驚愕した。

 先ほどまで気がつかなかった。けれど今、街灯の下にいる葵を見て、その違いにはっきりと気付いた。――気付いて、しまった。

『……なに?』

 凝り固まっている俺を見て、葵が眉をひそめる。

「葵。お前……」


 いつかこの日が来ることは、知ってた。



「身体が、透けてる」



 だけど、それが今日だなんて、思ってなかったんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ