27 かわいいでしょ!?
帰宅するなり俺の身体から離れた葵は叫んだ。
『楽しかったー!!』
「そりゃよかったな」
俺は自分の部屋に入ると、汚れた衣類を取り出すために鞄を開けた。
「ん?」
ホテルの名前入りのビニール袋が、鞄の中に入っていた。更にそのビニールの袋の中に、小さな紙袋が入っている。土産、か? 俺がその袋を取り出すのを見て、葵がこちらに近づいてきた。
『それ! ピンク色のは、美鈴ちゃんにあげるやつだから!』
「美鈴に?」
俺はピンク色の紙袋を見ながら、苦笑した。それから、岡田には買ってこなかったのかと訊こうとして、やめた。
買ったところで、渡せないんだ。葵は。
『お兄ちゃんが美鈴ちゃんに渡してね! お兄ちゃんが選んだお土産ってことになってるんだから』
「はいはい」
俺はビニール袋に美鈴への土産をしまおうとして、もうひとつ、青色の紙袋が入っていることに気が付いた。
『あ、それ。お兄ちゃんにあげる』
さっきよりもテンションの低い声で、葵が言う。
「え、俺に?」
葵は無言で頷いて、ベッドの端に腰掛けた。
『身体貸してもらったから。お礼っていうか……』
言いにくそうにもじもじする葵を見て、俺は笑った。
「今、開けていいか?」
『え、うん』
俺は青色の袋を、慎重に開けた。そして、固まった。
袋の中から出てきたのは、青色の車のおもちゃだった。ボンネットにホテルの名前が、屋根には白い文字で「なつきくん」と書かれている。
「葵、お前……」
『かわいいでしょ!? なつきくんって書いてるのは、それで終わりだったんだよ! その車ね、後ろに引いたら前進するんだよ。かわいいでしょー』
お前、俺、もう高1なのに……。
「……まあ、大切にするよ。ありがとな」
俺がそう言うと、葵はにかっと笑った。それから小さな声で
『こちらこそ、ありがとう』
と、呟いた。
「明日にでも、美鈴にこれを渡そうか」
ピンク色の袋を見ながら俺が言うと、葵は嬉しそうに頷いた。ちょうどその時、
「夏樹、御飯よー」
リビングから、母の声が聞こえてきた。
「そういや、夕飯は何なんだ?」
俺が尋ねると、葵はにやりと笑った。
「今日はお母さんも疲れただろうって、お父さんがスーパーでお惣菜を買ってくれたの。お兄ちゃんのは、チンジャオロースと、ピーマンの肉詰めにしておいた」
「……お前というやつは……!!」
その日の夕飯は、俺に憑依した葵がおいしく頂いた。




