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22  一緒に入ろうな!

 高速道路のパーキングエリアに着くと、あたしはそこら辺にあったベンチに座って、お兄ちゃんの身体から抜け出した。お兄ちゃんの隣に座って、意識が戻るのを待つ。しばらくすると、お兄ちゃんが目を開けた。

「……え?」

 目を覚ましたお兄ちゃんが、あたりをきょろきょろ見渡している。その様子がおかしくて、あたしは笑った。

「え?」

 隣にいるあたしに気付いたお兄ちゃんが、首をかしげる。あたしが身体から抜け出るくらいの緊急事態が発生したと思ったらしい。慌てた様子で、

「あ、葵。なんかあったのか?」

 そう言ってくるお兄ちゃんに、あたしは真顔で答えた。

『お兄ちゃん、トイレ行ってきて!』

「はあ!?」

 お兄ちゃんは大きな声を出してから、口に手を当ててあたりを見渡した。

『誰にも見られてないよ』

 笑いながらあたしが言うと、お兄ちゃんは大きなため息をついた。

「自分で行って来いよ、トイレくらい」

『やだ!』

 納得いかない顔のお兄ちゃんに、あたしはきっぱりと本音を言う。

『だって男子用トイレに入りたくないし、お兄ちゃんの、……見たくないし、触りたくないし』

 それを聞いたお兄ちゃんが、半分呆れた顔で笑った。

「んなこと言って、温泉はどうするつもりだ?」

『それとこれとは別問題なの! 早く行ってきて! ちゃんと手、洗ってきてね!』

 お兄ちゃんはもう一度ため息をつくと立ち上がり、フラフラとトイレに向かっていった。

 よかった。実は結構我慢してたんだよね、トイレ。



 お兄ちゃんがトイレから帰ってくると、あたしは素早くお兄ちゃんに憑依して、お父さんの車に戻った。

「夏樹、遅かったわね。酔ったの?」

 お母さんが心配そうな顔で、ルームミラー越しにあたしの顔を見てくる。

「いや。ちょっと迷子になっただけだよ」

「こんな小さなパーキングで迷子?」

「……ま、そんな時もあるんだよ」

 車は順調に、高速道路を飛ばす。


 目的地まで、もうすぐだ。




 古臭くてボロボロの旅館なんじゃないかと予想していたけれど、思った以上に立派な旅館だった。ていうか、ホテルだった。温泉設備の整った、ホテル。

「旅館かと思ってた」

 あたしが言うと、お母さんが笑った。

「でも、温泉はとても立派よ」

 お母さんが持っていたパンフレットを見ると、大浴場を始め、露天風呂とかジャングル風呂とか、とにかく色んな種類の温泉があった。あたしのテンションが一気に上がる。

「うわあ! 一緒に露天風呂入ろうね! お母さん!」

「え?」

「へ? ……あ」

 そうだった。今はお兄ちゃんの中に入ってるんだった。

「や、やだなあ。冗談に決まってるじゃん。ははは……」

 あたしはそそくさと、お父さんの横に並ぶ。

「一緒に入ろうな! 父さん!」

「……ああ」

 う、うわあ……。お父さんと一緒にお風呂に入るの、何年振りだろう。正直泣きそうなんだけど。



 ホテルの人に案内された部屋は、思ったよりも大きかった。というか、いつもより一人少ないから、広く感じるんだ。

 いないのは、足りないのは、あたしなんだけど。

 お父さんは部屋に入るなりテレビのリモコンを握りしめ、ニュース番組をチェックしだした。

「いい景色ねー」

 ベランダからお母さんの声が聞こえたので、あたしはベランダに向かった。海辺にあるホテル、しかも海に面したベランダだったおかげで、夕日が沈んでいくのがとてもよく見えた。砂浜に、ビーチバレー用のネットが設置されている。

 あたしはいつもよりもテンションを低めにして、お兄ちゃんのふりをしながら言った。

「ホントだ。結構綺麗な海だな」

「……葵もこの景色を見たら、喜んだだろうなぁ……」

 ぽつりと、お母さん。



 あたし、ここにいるよ? この景色、見えてるよ。



 でもそれは言えなくて、あたしは口を固く結んだまま、沈んでいく夕日を眺めていた。



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