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異端戦争編 8話

十勇士たちの動揺は、明らかだった。 その衝撃は、ライゼンにも、そしてノートレッド軍の兵士一人一人にも、ひしひしと伝わっていく。それほどの衝撃。と同時に、それだけ**「炎帝」エリオン**が彼らにとって絶大な存在であった証に他ならない。


この機を逃すまいと、一人の男が動いた。五家領ごかりょうの「武神」藤一刀斎ふじいっとうさい。左目に眼帯をつける隻眼の男は、敵方の気の揺らぎと心の隙を、決して見逃さなかった。 彼が狙いを定めたのは、「剣聖」スレイグ。


「きえぇぇいーーーッ!!」 気合いの入った奇声とともに、一刀斎が**『ーー一閃ーー』**を放つ。それは、彼が操る魔刀による戦技。 「戦技、『毒蛇のどくじゃのきば』ーーーッ!!」


スレイグは、その剣閃を紙一重でかわした、と確信した。だが、その瞬間、一刀斎の魔刀**『毒蛇咬どくじゃこう』**は、まるで生きた蛇のようにグニャリと刃先の角度を変え、スレイグの右肩を微かにかすめていく。


「ちぃッ!!」 スレイグは不覚を取ってしまったと言わんばかりに吐き捨てる。しかし、彼の内心には別の感情が渦巻いていた。 (おかしいな……間違いなく、かわし切ったはずだ……!)


それだけではない。かすった程度の斬撃にもかかわらず、自身の体に異変を感じていた。急速に、倦怠感けんたいかんと痺れが広がっていく。 一刀斎の**魔刀『毒蛇咬』**は、その名の通り、絶えず毒を生成し、刃にまとわせる特殊な武器なのだ。もちろん、持ち主である一刀斎には、この毒は効かない。 じわじわと、毒が回り、スレイグの体をむしばんでいく。


「くくくっ……どうだ、私の魔刀の味は? 気に入ってくれたかな!?」 一刀斎は、スレイグの異変に気づき、嘲笑ちょうしょうするように問いかけた。 スレイグは、辛うじて反応し、問う。 「……毒の刃、か?」


一刀斎は、自慢げに答える。少し酔いしれるかのように。 「左様さよう。変幻自在に刀身を操れる。まるで生きた蛇のようにな」 そして、さらに小馬鹿にするように言葉を続けた。 「さて、もうこれで終いか?……『剣聖』殿よ」


五家領の「武神」藤一刀斎は、毒に蝕まれ体勢を崩す「剣聖」スレイグを見下ろし、嘲るように言った。しかし、戦場に漂うのは、スレイグの苦境だけではなかった。


エリオンの「死」がもたらした衝撃は、ノートレッド軍と十勇士たちの間に大きな動揺を広げていた。その深い絶望感は、総大将であるライゼンにも、そして最前線で戦う兵士一人一人にも、ひしひしと伝わっていく。 そのひるんだ十勇士たちの隙を突くかのように、クロスロードの四聖帝が猛然と攻めかかった。


これにより、戦況は急速に変化し、いつの間にか各所の最前線では、互いの主要な戦力が激突する大将戦たいしょうせんの一騎討ちが繰り広げられていた。


激突する強者たち 戦いの火蓋は、今、まさに切って落とされた。


「断罪のクシャルカン」 vs 「天翼てんよく」のセレン


「聖光のジェームズ」 vs 「海帝かいてい」のレヴィル


「聖魔のゾルテア」 vs 「剣鬼けんき」ライゼン


「盲信のキアン」 vs 「獅子王ししおう」アイル


「闘神」ランドー vs 「無頼ぶらい」のアグロヴァル


猛神もうしん魏鐐瀞ぎりょうせい」 vs 「死神しにがみ」のオルダ


「軍神」エンリキ vs 「戦王せんおう」スラン


戦場の至る所で、強者と強者が激しくぶつかり合う音が響き渡り、互いの信念と技が交錯する。この壮絶な大将戦は、まさに両軍の命運をかけた、最終決戦の幕開けだった。


戦場の混乱と十勇士たちの動揺に、さらなる追い打ちをかけるように、一人の人物が現れる。 そこに姿を見せたのは、ホールキンス司教。 彼が何をしに来たのか、その意図は定かではないが、両手を天にかざすと、口元で呪文らしきものを唱え始めた。バチバチバチッと、空気に電気が流れるような不穏な音が響き渡る。


そして、司教の言葉が解き放たれる。 「雷光雀らいこうじゃくよ、十勇士じゅうゆうしめがけて放てぇーーーッ!」


その叫びと共に、ビュンッと一羽の光を帯びたスズメが飛び出したかと思うと、次々とホールキンス司教の手元から**無数の「雷光雀」**が解き放たれた。


それはまるで雷の塊のようになって、勇士たちめがけて弾けるように飛んでいく。彼らの混乱に乗じて、容赦なく襲いかかる光の鳥たちが、戦場に新たな脅威をもたらした。


その光景を見たヴェロンは、これまで見せたことのないほど、大きく目を見開いた。 「な、何だとッ!? 『雷光雀』だと……!? まさか、ありえないことだ……!」 千年以上もの時を生き、あらゆる事象に動じなかったはずのヴェロンが、心底驚愕した声を上げる。


「一体どういうことだ……。ゼラフィムの奴らが、まさか、聖女の力を手に入れていたとでも言うのか……ッ!?」


ヴェロンの、にわかに信じがたいといった様子の呟きは、その場にいる者たちに、彼の深遠な知識を越えた異常事態が起きていることを示唆していた。 この攻撃は、十勇士たちに物理的な打撃だけでなく、拭い去れない不吉な予感を抱かせたのだった。

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