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異端戦争編 6話

自分たちの指揮官が討たれた事実を知らされると、ゼラフィム兵たちはみるみるうちに浮足立ち始めた。 恐怖と混乱が彼らを支配し、降伏しようと武器を捨てようとした、その時だった。


第二陣、来たる 突如、南口の市街地へと、ゼラフィム軍の第二陣が雪崩れ込んできた。その数、およそ五千。 ほぼ全ての兵士が片手槍と巨大な大盾を装備した、精鋭の重装歩兵師団である。


第二陣の指揮官が、怒涛の如く檄を飛ばす。 「ゼラフィムの子らよ、膝まづくなぁーーっ! 武器を手に立ち上がれ、法皇猊下げいかが御照覧であるぞぉーーーっ!!」


その姿は見えないものの、上を見上げれば、遥かアダンの丘の頂上から、法皇の聖なる光の十字星の御旗みはたが、風に吹かれてバタバタと力強くはためいているのが微かに見えた。


兵士たちはその御旗を見て、瞬時に顔色を変えた。「法皇猊下が見てくださっている……!」 その思いが、彼らの奥底に眠る狂信的な信仰心に火をつけた。誇り高きゼラフィム兵として、情けない姿を見せるわけにはいかない。誰もが、己を奮い立たせ、再び武器を手に立ち上がった。


その様子を目にした第二陣の指揮官が、間髪入れずに号令をかける。 「重装歩兵、即座に防御隊形を組めぇいーーっ!」 指揮官の声が、辺り一帯に響き渡る。 「『鉄鎖円陣てっさえんじんの型』――!!」


そう命じると、瞬く間に部隊が円陣を組み、一切の隙間を作らないように密着した。互いを庇い合うように築き上げられたその防御円陣は、まるで簡単に引きちぎれない固い鉄の鎖かのような、鉄壁の堅牢な砦と化す。


さらに指揮官が号令を発する。 「先陣隊は我が隊に合流せよ! 後続にて隊の立て直しをせよ! 準備ができ次第、第二陣はノルトダンの中央広場まで進め、そこに拠点を築く!」


その明確かつ迅速な指示を聞き、ライゼンは**「しまった……!」**と、冷や汗をかいた。 (あそこに拠点を築かれ、敵方の本陣が突入されたら、挟み撃ちを喰らってしまう……!) それを防ごうと動くも、時すでに遅し。敵方は、ライゼン隊が手出しできない速さで、早くも中央広場に防御隊形による拠点を築いてしまっていた。


「……なんとっ!!」 ライゼンは、思わず感嘆の声をもらす。 (あの重装備で、ここまで早く、しかも先陣兵を損なうことなく速やかに自軍に吸収してだと……!?) 彼は、敵指揮官の指揮能力に、賛辞すら送っていた。 (鼓舞しながら、間断なき、的確な……見事な采配よ……!)


かつて商業都市として栄え、比較的堅実で平和な治世を歩んできた都、ノルトダン。 その北側には、なだらかな勾配を持つ丘がそびえ、その頂きにはアーセンベルク城が山城のように堂々と築かれている。 城の麓には、城下町が西口、南口、東口の三方向へと広がっていた。 特に南口方面は、家々がひしめき合う住宅街で、細く長い路地が特徴的だ。対して西口は、大通りが走り、商業施設が立ち並ぶ開けたエリア。東口には公共施設が集中している。 そして、街の中心部には、普段は人々の憩いの場である中央広場が大きく開けていた。


ライゼンは、城下町の地図を広げながら、眉をひそめる。 中央広場は、この街のまさに心臓部。そこから城までは、遮るものが少なく、わずかな距離しかない。あそこに敵の拠点を築かれてしまっては、城への攻撃は容易になるばかりか、自軍が展開する防衛線は、あっという間に挟み撃ちの形になる。


さらに悪いことに、偵察兵からの報告が次々と飛び込んでくる。 「東口より、クロスロード軍の接近を確認!」 「西口方面からも、ゼラフィム本軍が動き出しました!」


ライゼンは顔色を変えた。東西からの敵軍、そして中央広場に築かれたゼラフィム第二陣の強固な拠点。ノルトダンは、まさに三方から攻め立てられる絶体絶命の窮地に追い込まれたのだ。


ライゼンの脳裏に浮かんだのは、ただ一つの言葉だった。 「最悪だ……!」 その口から、自然と零れ落ちる。彼が恐れるべき存在は、まだいた。 東口から迫るクロスロード軍。その中でも最強と目される**「十字星聖騎将クロイツシュバリエ」。 そして、その中でも最強の四人、「四聖帝しせいてい」**が、よりにもよってこのノルトダンに集結しているというのだ。 「断罪のクシャルカン」 「聖魔のゾルテア」 「光聖のジェームズ」 「盲信のキアン」 これら四人の聖帝が揃うなど、今まで一度たりともなかった。その事実が、ライゼンの顔から血の気を引かせる。


さらに追い打ちをかけるように、西口大通りからはゼラフィム本軍、およそ七万の大軍勢が、まるで遊行でもするかのように悠々と進軍してくるのが見えた。 その先頭には、「泣く子も黙る」と謳われる、ゼラフィムの「神麗五家領しんれいごかりょう」と呼ばれる五人の武家棟梁、すなわち総大将が控えている。 自軍の兵士たちは、ただその光景を前に、恐怖に怯え、声さえも出ない。


ライゼンは、苦渋の決断を下す。 「全軍退却ーーーっ!! 急げっ! 退けぇーーーっ!!」 彼は、自ら全軍に号令の合図を出す。その声には、隠しきれない驚きと焦りがにじんでいく。 (まさか、ゼラフィム全軍全部隊、ましてや五家領と四聖帝、全揃いだと……!?) ライゼンの計算は、この想像を絶する事態を完全に読み誤っていた。 (ここまでするとは……!) 彼は、自身の見識の甘さを呪う。だが、今はそれどころではない。このままでは、全滅だ。


殿しんがりは俺がやる! ここが死に場所よっ!」 ライゼンは、アイルに向かって叫ぶ。 「アイルは援軍が来るまで、籠城戦を徹底抗戦で何とか持ちこたえろ!」 しかし、アイルは間髪入れずにきっぱりと答える。 「嫌です」


ライゼンは、一瞬何を言われたのか分からず、間抜けな声を出す。 「よし、頼んだ?……ん!? ……んーーーっ!? アイルやっ! ふざけてる場合かぁーーーっ!」 「師匠おやじだけ、置き去りになど、俺には絶対にできません!」 アイルは、まるで悪戯が見つかった子供のように、しかし真っ直ぐな瞳でライゼンを見つめる。


「アイルやぁ~! この馬鹿弟子がっ!!」 ライゼンの叱責に、アイルは元気いっぱいに「ハイッ!」と答えた。 そうこうしているうちに、無情にも、敵味方の交戦が再び始まってしまう。


「おりゃあーーーっ!!」 一際大きく、狂気に満ちた怒号が、戦場の喧騒を圧して鳴り響く。 声の主の辺り一面には、ライゼン隊の兵士たちが、まるで紙屑のように血まみれになって転がっている。その中心に立つのは、ゼラフィム本軍「五家領」が一人、その名も「戦神せんしん」の称号を持つ男、スコールズだ。 狂気じみたその戦いぶりは、まさに戦神の名に相応しい。たった一人で、自慢の**巨大な大戦斧だいせんぷ**をバッタバッタと振り回し、ライゼン隊の兵士たちを容赦なく薙ぎ倒していく。


その奥、スコールズに負けず劣らず血気盛んな男が、好き放題に暴れまわっていた。 「おいおい、誰か強い奴はいねぇのかよぉ?」 男は、辟易したように声を張り上げる。 「こんなんじゃ、遊びにもなんねぇぞーっ!!」 この男もまた、五家領が一人。「闘神とうしん」の称号を持つランドーである。 彼らが繰り広げているのは、もはや戦いではなかった。それは、ただの、一方的な虐殺でしかなかった。


神麗五家領:五つの「神」 ゼラフィム本軍の最前線に立つ**「神麗五家領しんれいごかりょう」**。その一人ひとりが、単騎で兵士千人に匹敵する戦闘力を誇るという。 彼らの名は、ゼラフィム全土に轟く。 武神のふじ 一刀斎いっとうさい 闘神のランドー 戦神のスコールズ 猛神の魏 鐐 瀞(ぎ りょう せい) そして、五家領最強にして筆頭、軍神のエンリキ 広大なゼラフィム領を統べる彼らは、まさに肩を並べる者すら存在しない最強と謳われる、武門の棟梁五人衆だった。


ノートレッド軍にとって、これ以上の絶望と悲劇はありえないだろう。 さしものライゼンも、内心では(もはや、これまでか……)と、その最期を覚悟した――


その時。


天より降臨せし「竜王」 そらから、一条の微かな光が差し込んだかと思うと、たちまちその光は巨大な影となり、地上へと舞い降りた。 そしてそれは、混乱と絶望に満ちたノートレッド軍の兵士たちの眼前に、力強く、はっきりとした希望の姿として現れる。 その姿は、剣や弓矢を弾き返す硬い鱗に全身を覆われ、並みの魔法など寄せ付けない。 強靭な顎は、あらゆるものを砕き、食いちぎるだろう。 その巨大な翼は、悪しきものを払いのける嵐のような風を巻き起こす。 そして、鋭い眼光は、敵対する者すべてを畏怖させる。


「よお、大将」 突如、その巨大な影から、不釣り合いなほどどこか呑気な声が響いた。 「よお、大将〜。何遊んでんだよ。楽しそうだなぁ」 その声は、多勢に無勢の苦戦を強いられていたアイルに向けられていた。 「俺も混ぜてくれよ」


声の主。それは、まさしく十勇士が一人、「竜王りゅうおう」――ヴェロン。


第4話(仮) 十勇士、集結

「ヴェロン殿、貴公きこうが駆けつけてくれるのはありがたい。助かります!」 アイルは、竜王ヴェロンの巨大な姿を見上げ、心からの感謝を伝えた。


ヴェロンは優しげな眼差しで、アイルの気遣いに応える。 「何、我らが忠節を誓った姫君(聖女)の窮地に助太刀するのは、勇士としての至極当然の務めだろう。感謝に及ぬよ」


その言葉は、ゼラフィム軍に、言いようのない動揺を広げた。物語の世界でしか聞いたことがない「竜王」が、今、確かに眼前に存在しているのだから。 これに即座に反応し、檄を飛ばす男がいた。ゼラフィム本軍の総司令官であり、五家領筆頭の**「軍神」エンリキ**だ。 「ゼラフィムの兵士よ、怖気づくなぁーーっ! 勇気の剣をかざせぇーーっ!」 エンリキの声は、兵士たちの心に直接響く。 「竜とて不死ではない! 貴様らには我ら五家領の神がついている! 恐れるなぁーーーっ!」 「前進せよ!」「かかれぇーーーっ!!」


総司令官の鼓舞を受け、前線の兵士たちが竜王めがけて猛然と突撃を開始する。 がッ! その時だった。 竜王ヴェロンは、ここぞとばかりに巨大な口を開き、業火の炎を噴き出した。 「グオオオォォォッ!!」 轟々と燃え盛る炎の奔流が、突撃してきたゼラフィム兵の隊列をあっという間に飲み込む。悲鳴すら上げる間もなく、彼らは一瞬で灰と化し、その骸が死屍累々と辺り一面に広がる。 事態は激変した。生き残った兵士たちは、その地獄絵図に恐れおののき、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。


その惨状を見た**「戦神」スコールズは、事態を挽回すべく、単騎で竜王へと突っ込んだ。 「うおりゃりゃりゃああぁぁーーーっ!!」 自らの大戦斧『天蓋崩し(てんがいくずし)』を振り回し、スコールズは猛然と突撃していく。 そこに、同じく五家領の「闘神」ランドー**も加勢する。 「俺もやるぞおぉーーーっ!!」


スコールズの渾身の一撃は、ヴェロンの硬い鱗に阻まれてしまった。しかし、その隙を見逃さず、ランドーが吠える。 「喰らえぇーーーっ!!」 追撃してきたランドーの拳が、ヴェロンの顎を捉えた。彼が装備する**「阿修羅王の籠手」と「魔人の籠手バトルマジックアームガントレット」から繰り出される豪拳。その拳が当たった瞬間、魔人の籠手から爆砕する衝撃波**が炸裂した。


ドオォンッ!! 天地を揺るぐような号砲が鳴り響く。 ヴェロンの口元から、ほんのわずかに血が滲んだ。 「むうっ……!?」


そこに畳みかけるように、スコールズが再び動く。彼は高く飛び上がり、愛用の**大戦斧『天蓋崩し』**を竜王の頭上に振り落とした。 「ふんっ!! 戦技、『天落轟籟てんらくごうらい』ッ!!」 ズドンッ! 鈍く、だが重い音が響く。スコールズは渾身の一撃に手応えを感じつつも、どこか嫌な感触も覚えた。 その予感は正しかった。ヴェロンは間一髪のところで右腕を頭にかざし、その一撃を受け止めていたのだ。しかし、その右腕からは硬い鱗が破壊され、鮮血が滴り落ちていた。


二人の連携攻撃が、少しずつ、だが確実に竜王ヴェロンをじりじりと追い詰めていく。 その様子を遠巻きに見ていた者たちの中から、飄々とした声が飛んだ。 「おいおい、冗談だろう? ちょっと押されてんじゃん、マジかよ……大丈夫かよぉ?」 声をかけたのは、十勇士が一人、「戦王」スラン。


これに腹を立てたヴェロンは、その巨大な口を開いて一喝した。 「誰が貴様きさまの助けなんぞいるか、ボケがッ!!」


しかし、別の声が続く。 「ふん。この程度のやからに遅れをとっているようでは、竜王の名も地に落ちたな。……情けない」 義侠心の男、十勇士が一人、「無頼ぶらい」のアグロヴァル。


すると、大らかな笑い声が響く。 「はっはっはっ! まあまあ、竜王殿も足の遅い我らに先んじて駆けつけ、こうして踏ん張っておられたのです。ここは、ねぎらいの言葉の一つもかけましょうぞ!」 十勇士が一人、「海帝かいてい」のレヴィルだ。


その隣には、ただ黙って事態を見守る男がいた。十勇士が一人、「死神しにがみ」のオルダだ。 ヴェロンは思わず叫んだ。「お前は何か言わんかいッ!」


「まあ、オルダはいつものことですから。……フフッしかたないですわ。」 そう言って笑うのは、十勇士が一人、「天翼てんよく」のセレンだ。 「アイル殿、ライゼン殿、良くぞここまで寡兵かへいながら持ちこたえましたね。後は私達十勇士にお任せくださいませ」


そして、一人の男が状況を整理するように口を開く。 「炎帝エリオンがまだ来てないようですが、彼のこと、まあそのうちに来るでしょう」 十勇士が一人、「賢者けんじゃ」ガレスベルクだ。


「ちっ、あの人はまた遅刻かよ……! そう言う俺もたった今来たばかりだけどな。やあ先生アイル、大丈夫かよぉ?」 アイルの弟子であり、十勇士が一人、「剣聖けんせい」のスレイグだ。


ここに、頼もしき十勇士たちが集結した。 「スレイグ、そして皆ーーッ!!」 アイルは、駆けつけてくれた仲間たちの姿に、心からの感謝を込めて叫んだ。胸に熱く込み上げるものがあり、思わず彼の瞳から大粒の涙が溢れ出る。 (やっぱり、仲間っていいもんだな……!)


ライゼンは、そんなアイルの肩にそっと手を置き、優しく声をかける。 「良き友を持ったな、アイル」 「はい……! 私には、もったいないほどのともたちです!」 アイルは、涙声ながらも力強く答えた。

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