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異端戦争編 23話

アイルは、愛刀である獅子吼ししくをライゼンに渡した。 「お父さん、これを我が子に……」 ライゼンは、ただ泣きじゃくることしかできない。力なく、情けない声で。 「アイルやぁ……」


アイルは、ヴェロンにも視線を向け、静かに告げた。 「ヴェロン殿、頼みましたよ!」 そう告げると、彼は皆に背を向け、ゼラフィム軍の使者の元へと歩き出した。


アイルの姿は、遠くになるにつれて、小さくなっていった……。英雄の決断、父の慟哭

アイルは、愛刀である獅子吼ししくをライゼンに渡した。 「お父さん、これを我が子に……」 ライゼンは、ただ泣きじゃくることしかできない。力なく、情けない声で。 「アイルやぁ……」


アイルは、ヴェロンにも視線を向け、静かに告げた。 「ヴェロン殿、頼みましたよ!」 そう告げると、彼は皆に背を向け、ゼラフィム軍の使者の元へと歩き出した。


アイルの姿は、遠くになるにつれて、小さくなっていった……。


ヴェロンは、アイルから託された最後の役目を果たすべく、泣き崩れているライゼンを拾い上げた。ライゼンは無反応にされるがまま、ヴェロンの背に乗せられて城へと入る。 そして、ようやく出産を終えたばかりのライナと、生まれたばかりの赤ん坊に対面したのだ。ライゼンは、なんと娘に説明したものかと、声を出せずに思わずうつむいてしまった。


ライナは父の心情を察したかのように、優しく声をかける。 「大丈夫よ、お父さん」 ライゼンは、力ない声で、アイルから託された愛刀獅子吼を娘に見せた。 「アイルが……敵に降伏して……ううっ……連れて……行かれてしまった……」 ライナは悔し涙を浮かべながら、しかしどこか諦めたように呟く。 「そう……あの人らしいわね」 そして、自らも覚悟を決めたように、視線を上げる。 「なら、私も覚悟を決めなくちゃね。私も投降するわ。彼らの目的は私だもの」


ライゼンは、血相を変えて怒鳴った。 「ライナぁーーーッ!!」 その怒りを制するように、ライナは冷静に言葉を繋ぐ。 「ダメよお父さん。逃げても無駄よ。私がいる限り、あの人たちは諦めないわ」 そして、懇願するように続けた。 「お願い、お父さん。この子を連れて逃げて。お父さんにしか頼めないのよ! お願い!」 ライナの悲痛な叫びにも似た嘆願が、ライゼンの心を締め付ける。だが、武骨で不器用なライゼンは、弱々しく言い放った。 「わしには無理だ……討ち死にした方がまだましだ……」 ライナも引き下がらない。 「この子を見て、お父さん!」 ライナの傍らで、赤ん坊はスヤスヤと、何事も無いかのように眠っている。ライゼンは、その初孫の顔を見て、またもや涙が溢れて止まらなかった。 「この子まで捕まえられていいの!? 捕まったらどうなるか分からないわよ!!」 ライナは一刻を争うと悟り、餞別を惜しむように我が子の頬にキスをすると、半ば強引に赤子を父に託した。 「お父さん、あとこれも渡しておくわ」 そう言うと、彼女は獅子心王しししんおうの書を父ライゼンに渡す。 「いずれ、この子に必要になるから」 ライナはヴェロンを見て、深く頭を下げた。 「後はお願いします」 静かに沈黙していたヴェロンは、承知したと言わんばかりに無言で頷き、ライゼンと赤子をその背に乗せて飛び去っていく。


そしてとうとう、アーセンベルク城の門が開けられた。ウィルシャロン大公も事の成り行きを見守りつつ、ライナからの申し出もあってか、致し方なく開門したのだ。 ゼラfim軍総指揮官のタイロン卿が、ゆっくりと城内へ入城する。彼の視線はまっすぐにライナに向けられ、その前で片膝をつき、深々と頭を下げて挨拶をした。 「聖女様、お迎えに上がりました」 タイロン卿の声は、どこか複雑な響きを帯びていた。 「伴侶殿も潔く投降されました。これ以上は抵抗されませんようにお願いします」 ライナは、毅然とした態度でタイロン卿に問う。 「民間人と兵士、そして勇士たちの命の保証を求めるわ」 タイロン卿は迷わず答える。 「当然です。お約束しましょう」 約束が交わされると、タイロン卿は兵士に命じた。 「聖女様を聖都アウロハスまで移送せよ」 護送車に揺られながら、ライナは静かに心の中でつぶやいた。 (アイル……ごめんね……) その瞳からは、止めどなく大粒の涙が溢れ落ちていた。

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