異端戦争編 21話
激戦の最中、ライゼンが最も恐れていた知らせが届いた。
「急報ーーーッ!!」 「急報ーーーッ!!」 使番の兵士が、血相を変え、早馬を駆ってこちらへ向かってくる。その只ならぬ様子に、ライゼンは何事かと問いただした。 「ウィルシャロン大公から伝令です……!」 使番の兵士は息も絶え絶えに、しかし必死に告げる。 「本国グリオンダイルの援軍は来ず……!」
ライゼンの顔から、サッと血の気が引いた。だが、使番の言葉はさらに続く。 「また、グリオンダイルの宰相閣下からの命令で、ノートレッド軍は速やかに武装を解き、軍を後退させ、城門を開けとのこと……!」
その瞬間に、ブチッと、ライゼンの頭の中で何かが切れる音がした。 「何だとコラーーーーーーーッ!!!!!」 怒号が辺り一帯に響き渡り、使番の兵士は「ひぃっ」と怯え、身を竦ませる。
「師匠!!」 アイルが心配になり駆け寄る。 「落ち着いてください! 一体どうしたんですか!?」 ライゼンは怒り任せに、アイルを怒鳴り散らした。 「これが落ち着いてられるかぁッ! どうしたもこうしたもあるかいやぁーーーッ!!」 深々と一息つき、ライゼンはうつむいた。怒りに震えながら、重い口調でアイルに伝える。 「グリオンダイルの援軍が来ない。どうやら本国は、ワシらを見捨てたようだ……」 あまりの最悪の事態に、アイルは絶句した。事の次第を瞬時に悟った彼は、最早、言葉も何も出なかった。
戦場の夜明け、そして後味の悪さ 時を同じくして、この知らせは、敵陣にも吉報として届いていた。 「……グリオンダイルの援軍は来ない、か」 軍神エンリキは、その知らせを聞いて、安堵の顔を浮かべた。彼の目には、この戦の勝利が、間近に迫っていることが見て取れる。 それからの彼の動きは早かった。 「防御陣形ーーーッ! 密集して固めろーーーッ!!」 (もう、むやみに戦う必要はない。後は降伏勧告をして、相手の出方を待つまでだ。) エンリキの頭の中では、次の手が既に打たれていた。
もちろん、この知らせは、タイロン卿の耳にも入っていた。 タイロン卿は、ポツリと呟く。 「……勝ったのか?」 隣に立つレインが、戸惑いを隠せない様子で問う。 「一体、何が起きたのでしょうか!?」 タイロン卿は、何とも言えない、やるせない感情を込めて語り始めた。 「お前も、グリオンダイルの大王が病に伏せているのは知っているな」 レインは簡潔に、礼儀正しく答える。 「はい、存じ上げております」 「その間、摂政を行い、朝廷を取り仕切っているのが、今の宰相だ。だが、この男が摂政を行い始めてから、元老院の貴族たちの政治腐敗が酷くなったのだ」 レインは頷きながら、静かに話を聞いている。 「おそらくは、タナトス枢機卿がグリオンダイルの貴族たちを金で買収したのだろう。賄賂で評議員の席すら買える国だ、不思議はあるまい」 タイロン卿は、視線を遠くの城へと向け、さらに言葉を続けた。 「ましてや、この度の戦は国盗り合戦ではない。聖女様一人確保できれば済む話だ。グリオンには何一つ痛手はないのだからな……」 タイロン卿は、自らの勝利にもかかわらず、その表情は晴れない。 「まったく、何とも後味の悪い勝ち方よ……」 夜風が、再び彼らの間を通り過ぎていく。勝利を手中に収めながらも、その裏にある陰謀と、失われた信義に、タイロン卿は深く心を痛めていた。




