異端戦争編 17話
ライゼンの咄嗟の判断で瞬時に指示が飛ぶ。「篝火の火を消せぇーー。」 (やられた……統率が乱れてしまった……!) 狙い通りに敵陣を崩したものの、暗闇の中で乱戦へと持ち込こまれてしまったことに、タイロン卿の顔には一瞬、焦りの色が浮かび上がった。精鋭をもってしても、この状況下では指揮系統が混乱する危険性をはらんでいたのだ。
その乱戦のさなか、ライゼンは、娘を救い、この絶望的な状況を打開すべく、まるで死地に活路を見いだそうと足掻いている。その時。 不意に、ライゼンの視界に、敵兵とは明らかに異なる風格を纏った一人の男が飛び込んできた。彼は兵士たちに指示を飛ばしており、その存在感は、まさしく敵軍の指揮官。 (こ奴、敵軍の指揮官かッ!?) ライゼンの眼に、怒りと闘志が入り混じった、たとえようのない殺意がギラギラとこみ上げます。それは、娘を危険に晒した敵への、根源的な怒りだった。 (これぞ好機よーーーッ!!) ライゼンは、まるで獣のように咆哮をあげる。「うおぉぉぉぉーーーッ!!」 眼前の獲物――敵将めがけて、猛然と襲いかかるライゼン。 「その命もらったぁーーーッ!!」
対するタイロン卿は、ライゼンの殺気に即座に反応し、驚くべき速さで無詠唱の防御魔法を展開する。 「プロテクトウォールーーッ!!」 しかし、その魔法の壁は、ライゼンの放つ**神気刀法**の前には、あまりにも無力。 神気刀法には、魔法壁を食い破る特性がある。これは、神気が魔力と反発し、互いに相殺し合うためだ。大きな違いとして、魔法は一度発動して破壊されればそれで終わりだが、神気は、出し手が意識して出し続けている限り、限界はあるものの、オーラとして流し続けることが可能なのだ。その持続する神気の力が、タイロン卿の防御魔法を容赦なく貫く。
ライゼンの放つ**神気刀法**が、タイロン卿の防御魔法を容赦なく貫こうとしたその瞬間、タイロン卿は切羽詰まった声で叫んだ。 「レインーーーッ!」 その声を聞いたレインは、(しまった……タイロン卿が敵将に狙われてしまった!)と、焦りの表情を浮かべる。彼は思わず「不覚……!」と声に出しながら、即座に行動を開始した。 乱戦のただ中を、敵味方関係なく斬り倒して強引に道をこじ開けていく。その動きは迷いがなく、ただひたすらに、声の元へと急いだ。
キィン、ガキィン、カァン! 鋭い剣と剣がぶつかり合う金属音が響き渡り、火花が散る。間一髪、ライゼンがタイロン卿に迫る刃を、レインがその剣で受け止めている。
ライゼンは、不意に割って入った少年の姿に、激しい怒りを露わにした。 「むうっ! 何奴だッ!? 邪魔建てするな!」 レインは、涼やかな声で応じる。 「タイロン卿が従者、剣士レイン推参する!」 タイロン卿は、レインの出現に安堵し、素早く指示を出した。 「レインーー。ここは、任した!」 「はっ! お任せください!」 レインの力強い返事を聞いたタイロン卿は、この機に部隊を立て直すべく、戦場から素早く離脱していく。
ライゼンは、目の前の標的を逃したことに、歯噛みするような苛立ちを覚える。 「あっ、待てッ、コラッ! 逃げるな!」 その怒りの矛先は、タイロン卿を逃がしたレインへと向けられた。 「くそッ! 逃がしてしまった! 貴様のせいで逃がしてしまっただろうがぁーーーッ!」 ライゼンは、目の前の少年――レインの顔を訝しげに見つめる。 (何だこ奴!? 両目を塞いだ眼帯か? 目が見えないのか?……しかもまだ、子供ではないか!?) ゼラフィム軍が、こんな少年を差し向けてきたことに、ライゼンの怒りはさらに募る。 「ゼラフィム軍め、どこまでもふzけた真似をッ!!」 ライゼンは、目の前の「子供」を軽くあしらおうと、吐き捨てるように言い放つ。 「ええい、小僧! 怪我をしたくなければそこをどけい!」 しかし、レインは怯むことなく、静かに剣を構え直します。その眼帯の奥に隠された眼差しが、まるで深淵の闇のように、ライゼンの存在を捉えていた。この少年が、ただの子供ではないことを、ライゼンはすぐに知ることになるだろう。




