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異端戦争編 15話

タナトス枢機卿の総攻撃の号令にいち早く反応したのは、クロスロードの四聖帝しせいとが一人、「盲信」のキアンだった。彼の顔には狂信的な喜色が浮かび、雄叫びを上げて自軍を鼓舞する。 「我が隊よ、俺に続けえぇッーーー!! 突撃ーーーッ!!」 キアンの号令と共に、千人を超える軍勢が、まるで津波のように押し寄せ、疲労困憊の獅子王ししおうアイルただ一人めがけて猛然と攻撃を仕掛けて来る。 「他の者には目もくれるな! 大将首ただ一つだけ目指せーーーッ!」 キアンの指示は明確だった。狙いは、十勇士の中心であるアイル。


アイルは、その圧倒的な数と殺気を受け止めながらも、ふぅーと深く息を吐き、静かに抜刀の構えをとった。神獣化が解け、疲労は隠せないものの、彼の瞳には揺るぎない闘志が宿っている。 「獅子吼ししくーー『天鳴てんめい凶月きょうげつ黒漣くろさざなみ』ーーッ!!」


アイルが刀を閃かせた瞬間、「キイィィィーーーン。」と、耳をつんざくような高音が刀から鳴り響いた。 その音と共に、アイルの刀から放たれたのは、黒い無数の“陰”。それは、まるで漆黒のさざ波のように広がり、アイルに飛びかかってくる幾人もの敵兵士たちを、瞬く間に斬り刻んでいく。その波は収まることはなく、次から次へと立ち向かって来る敵兵全てを、底なしの闇へと飲み込むかのようだった。


アイルが放った**『天鳴・凶月の黒漣』によって、押し寄せるゼラフィム兵が次々と薙ぎ倒されていく中、「盲信」のキアン**が、その眼差しに憎悪を宿らせて叫んだ。 「おのれぇーーッ! 獣人ごときがぁーーーッ!」 兵士の群れをかき分けるかのように、キアンはアイルの首を狙って、その手にしたフレイム型のモーニングスターを力任せに振り回す。「ブンッブンッ」と、風を切る音が不気味にこだました。 キアンは、アイルへと迫りながら、会心の戦技を放つ。 「喰らえーーッ! 戦技・堕天使の懺悔だてんしのざんげーー『無天無明煉獄むてんむみょうれんごく』!!」 その言葉と同時に、アイルの視界は瞬時に奪われた。彼は、まるで罪人が暗い獄に収監されたかのように、真っ暗な闇に囚われてしまう。同時に、焼け付く焼土に放り込まれたかのように体が熱くなり、毒の瘴気しょうきに当てられたような息苦しさが全身を襲い、激しい苦痛に呻く。


キアンの声が、闇の中で響き渡る。 「己の罪を認めて降参しろぉーー! そうでなければ永遠にこの無天無明煉獄むてんむみょうれんごくから出られんぞー!」 (まぁ、もっとも罪を認めた瞬間、俺のモーニングスターがお前の首めがけて飛んでいくがな……) キアンは、アイルが自身の術中に嵌まり、完全に勝ったと思い込んだその刹那だった。


闇に囚われたはずのアイルの口元が、静かに動く。彼の内なる声が、煉獄の闇を打ち破るかのように響き渡った。 「獅子吼ししくーー『無元の調律むげんのちょうりつ』。神月しんげつの鏡面渡り(きょうめんわたり)<かい>」 サアァァァーーーッと、静かに空気が震え、キアンの術が音もなく解けていく。アイルの視界を覆っていた闇が晴れ、何事もなかったかのように元の世界が目の前に広がった。彼は、まるで散歩から帰ってきたかのように、そこに立っている。


キアンは、目の前の信じられない光景に、悲鳴をあげるかのように叫び声をあげた。 「何だとーーーーーーーッ!? 嘘だぁーーッ! あり得ないッ!?」 混乱を超えて、まさに錯乱状態に陥るキアン。 アイルは、この絶好の機を逃さなかった。キアンが動揺するその一瞬を狙い、奥義を放つ。 「獅子吼ししくーー『解天げてん獣王じゅうおう 神千斬り(かみちぎり)』ーーッ!!」


アイルの全身から、凄まじい闘気が集約されていくのがわかる。そこに、彼が磨き上げてきた神気刀法しんきとうほうが合わさり、全身の筋肉がミシミシと音を立てるかのように力を溜めていく。極限状態まで高められた神気しんき闘気とうき、魔力、そして**膂力りょりょく**が、一点に集中する。


**ふぅーーー。**と、一段と深い息を吐き出したアイルが、その瞳を鋭く光らせて言い放った。 「解放ーーーッ!!」 その言葉と共に、刀から弾き出された千の刃が、まるで獣王の牙となって、一瞬でキアンの体を容赦なく咬みちぎった。 『斬ッ』『斬ッ』『斬ッ』『斬ッ』『斬ッ』 それは、まさに斬撃の嵐。音速を優に超える光速の斬撃が、敵将の命の灯火を、まるで一息でかき消すかのように終わらせる。 ドサッと、無情にも彼の亡骸だけが地に落ちていく。キアンは、自分の信じた盲信の果てに、ただの獣人と蔑んだ相手によって、あっけなく命を散らしたのだった。

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