異端戦争編 10話
その時、血生臭い戦場に、まるで一凛だけ咲く花のように、凛とした中にも華やかな雰囲気を纏った人影が颯爽と駆けつけた。
身重な身体でありながら、その足取りに迷いは一切ない。
当代の聖女、ライナだった。
「皆さん、大丈夫ーッ!?」
その声は、絶望に支配されかけていた戦場に、一筋の光を差し込む。 「今すぐに回復してあげるからねッ!」
ライナは迷わず両手を掲げ、清らかな祈りを捧げる。 「お願い女神様……私にもう一度、奇跡の力を貸してくださいッ!」 彼女が解き放ったのは、「歴代最強」と謳われる『花の法術』、聖女ライナの**「創生魔法」**だ。
「天樹の揺り籠ーーーッ!」
大地から無数の樹の幹が溢れ出し、瞬く間に広範囲を覆い尽くした。 魔力を帯びたその樹々は、バチバチと弾けながら襲いかかる「雷光雀」を完璧に弾き返し、勇士たちへの侵入を一切許さない。 雷の嵐が、突如として緑の壁に阻まれていく。
そして、間髪入れずにライナは詠唱を破棄し、次なる法術を放つ。 「月光花の天癒! 『キュアヒール』!」
その言葉と共に、無数の光の花弁が戦場に舞い散った。 一瞬にして、その光の花弁が戦場を駆け巡る。 その光は、十勇士たちとノートレッド軍の兵士たちの傷とダメージを、まるで時間が巻き戻るかのように全回復させていく。 中でも、猛毒に苦しんでいたスレイグに至っては、その身体を蝕んでいた毒までもが完全に解毒されていく。
「よっしゃーッ! 来た来た来たーーーッ!」
突如として訪れた奇跡に、勇士たちは一斉に歓声を上げる。 一方、敵方は何が起きたのか理解が追いつかない。ついさっきまで、勝利を確信し悦に浸っていたホールキンス司教も、あまりの出来事に口をパクパクさせるばかりで、呆然と立ち尽くしていた。 戦場の流れは、一瞬にして逆転したのだ。
「おのれぇぇーーッ!」「魔女めぇーーッ!」 ホールキンス司教の操る「雷光雀」の攻撃が破られ、優勢をひっくり返されたことに、「断罪のクシャルカン」は怒りをあらわにし、地団駄を踏んだ。
その怒声が響く戦場の緊迫した雰囲気とは一転し、ライゼンは一人、心配そうにヤキモキした面持ちでライナに声をかける。 「ライナやぁ~……ッ! おみゃ~は、何でそんな身体でこんな危険な所さ出てくるんじゃぁッ!? 城に籠っておれと言ったじゃろうッ!」
身重なライナの身を案じるライゼンの言葉に、ライナは不服そうにしかめっ面で答えた。 「だってしょうがないじゃない! 見てられないんだものッ!」
その言葉には、これまで雷光に苦しめられていた勇士たちも、面目ないといった顔でうつむく。 だが、ライナはすぐににっこりと笑みを浮かべ、確かな声で言い切る。 「でも、もう大丈夫よ。私が駆けつけたからには絶対に勝つんだから!」
「いくよッ、みんなッ! あんな奴らさっさとやっつけちゃおッ!」
聖女の凛とした、しかし可愛らしい号令が響き渡る。それまでの絶望的な状況が嘘のように、ノートレッド軍にはぱぁっと明るい空気が広がり、兵士たちの顔にも再び活力が宿った。
ライナは、その身に宿る希望の光を放つかのように、最大にして究極の**「創生魔法」である『獅子心王の書』**を取り出す。
「エーデルワイスの神獣達よーーーッ! 今こそ誓いを果たし、真の力を解き放ち、その力を奮いたまえッ! 聖女ライナが命ずる聖印の恩寵を今ここに刻めッ!」
ライナの力強い呼びかけに呼応するかのように、十勇士たちは一斉に「ルミナスヘブン」と合わせて唱和した。 すると、勇士たちの身体が優しく淡い光に包まれていく。 光の繭が弾けるように晴れたその瞬間、「うおぉぉぉーーーッ!」と、勇士たちは獣のような雄叫びを上げた。
光の中から現れたのは、人智を超えた神獣の姿へと変貌した十勇士たちだった。 彼らの瞳には、今度こそ勝利を掴み取るという、新たな決意の炎が宿っていた。
「まさに獣勇士、ここに降臨!」
彼らの咆哮が、戦場に響き渡る。




