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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

侘び寂びに、襲い来る

作者: 鍋乃結衣
掲載日:2025/04/03

教室。

中央には、少女が座っている。

彼女の名は(もく)()

机上が日に照らされる。破損したスマートフォン。その横には、欠けた急須。

彼女を囲むように、マネキンが周りに着席している。皆、黒板を向いている。

窓の隙間から、そよ風が吹き込み、木製の床が香り立つ。

(もく)()はお茶をすする。

口の中に広がる、程よい苦み。鼻孔を渋く爽やかな香りが吹き抜ける。

至高の空間。

いつかを思い出す。

机横にかけた鞄からポッドを取り出す。

この一杯が飲めれば、死んでもいい。

急須の底に残った、抹茶の残りかす。そこに湯を注ぐ。

直後、壁の破片を巻き込み、横殴りに熱風が襲い来る。

ポッドは宙を舞い、教室の壁に衝突して砕けた。

沐奴は鞄をひっつかみ、急須を投げ入れた。

「運び先は?」

頭上からドスの効いた声。

見上げると、飛び交う火花を背に、髪型が世紀末な筋肉ダルマが仁王立ちしている。

沐奴は爆撃音に負けないくらい、大きな声で叫ぶ。

「世界の果て、次の学校へ!」

刹那、教室を越え、世界は開けた。

満点の青空に見下ろされた大地は、チカチカ輝く爆発の閃光で満ちている。

立ち並んでいたビル街は木端微塵にぶっ壊され、煙が登っている。

ザクザクと大地を踏みしめる足音。銃口に鋭い剣をつけ、毒々しい緑色の軍服を(まと)った兵士

達が行軍している。至る所で見せしめの斬首が行われている。

生首から吹き出る真っ赤な血液が、青空を彩る。

筋肉ダルマに抱えられて、沐奴は爆速で戦場を駆けた。

離すまいと、鞄を体に引き寄せる。

万が一に備えて、受け身を取れるよう、筋肉ダルマの腕の中で体勢を変えた次の瞬間、沐奴

は宙に放り出されていた。

「車!」

筋肉ダルマが叫ぶ。

沐奴はいつの間にやら現れた、車の荷台に着地した。

さっきまでいた場所には、山みたいなデカさの球体破壊兵器が鎮座している。

筋肉ダルマは頭だけ残してぺしゃんこに潰れている。

そんな光景は、瞬く間に遠くなっていく。

軍隊の姿はもうない。

代わりに、地平線が見えそうなくらい荒野が広がった。

日がみるみる傾く。

空は赤く染まる。そこで点滅する光は、星ではない。英雄たちが帰還に失敗し、爆裂してい

るのだ。彼らのもとから、赤い発光体が、白い尾をなびかせ落ちてゆく。あれがこの星の希望

となるのか、球体破壊兵器をみれば、一概にそうとは言えない。

夜が来る。

沐奴はポッドの湯を、急須の底に張り付いた抹茶に注いだ。うっすいお茶をすする。

苦みと、和を思わせる柔らかな味。が、教室ではした。

流石に豪速で突っ走る車の上では、味わえるものも味わえない。

そもそもちゃんと飲めない。

お茶は急須から風にさらわれ、星の光を受けてキラキラ輝きながら、空中に消失した。

戦火から離れ、邪魔するものの消えた夜空に、ばい菌みたいな星が張りついている。

月は変わらず真っ黒な陰に覆われ、この星を見下ろす。

目を閉じて、夢想する。

フリスビー型の土星リング級にデカい円盤が、ついに侵略に来る。衝突の衝撃に耐えられず、星の表面はえぐれ、人は宇宙の闇へと洗い流される。

そんな妄想は、車の急ブレーキでかき消された。

着いた。

運送料分の毒薬、特にぽっくり死ねるやつを渡すと、車の運転手はその場で服用した。

コンマ一秒もかからず、死んだ。

沐奴は新たな校舎に歩みを進める。

既に半壊しているが、かろうじて教室は形を残している。

その中央に座り、鞄を机の横にかける。

急須に抹茶を入れ、ポッドで湯を注ぐ。

お茶の完成。

ずっ、と飲む。

至高のひと時。

茶の表面は、微かに波打っている。

死ねなかった。

 


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