完璧な永遠の停滞よりもドタバタ喜劇が好きだ
武装船来襲はエイダの歴史に残る大事件だったが、エイダの歴史を終わらせるほどの事件ではなかった。
スリープ明けに確認したところによると、エイダ側の被害は他の戦争や災害と比べた場合、むしろ少ないぐらいだった。やはり点の脅威は大陸全土に影響を与えるには小さすぎる。
武装船の敗因は、乗員の練度だった。
いくらオーパーツな超兵器を実装していても、それを操作する乗員の技能がテクノロジーレベルに見合っていなくて、不測の事態に対応する能力が低いと脆い。
創意工夫や臨機応変は、個人の資質に負うところが大きいけれど、それが提案されて大規模に実行されうる社会的土壌というのは、民族の思想や文化による影響も無視できない。
その点、私のエイダは強い。
日頃から無駄と変わり者を内包し、日常的な手法では解決できない非常時には、市井でも異端でも、使えそうなモノは使う雑さを仕込んできた。それができない全体主義集団は滅びることをエイダの歴史は証明している。
今回もオタクと変人の寄せ集めチームが、あまりカッコよくない変な作戦で勝利していた。枯れたローテクの熟練工のジジイがスーパーテクノロジー兵器に勝つって展開も胸熱だけど、芸風がB級エンタメすぎないか?
「私はこういうの好きだけど」
「よくも悪くもエイダは君が育てた種族だよね」
いつも通りいつの間にか隣にいたランサーはそう言って苦笑した
「華々しい勝利や殲滅じゃなくて、嵐で座礁した敵船から乗員を救助して、なし崩しでぐだぐだに戦闘が終わるあたりが、英雄譚っぽくなくていいわ」
「お気に召していただいたようで」
肩を竦めた風の守護聖人に私は微笑む。
声に出して礼を言うことはしないが、彼は良い仕事をしてくれた。
私が水と打ち合わせておいた計画に沿って風が上手く動いてくれたおかげで、敵武装船の後方から来ていた大船団もまとめて無力化できたようだ。
観測用小型哨戒機は全機、シリウスに預けていたので、映像記録はない。
惑星開発委員会側でもよほど詳細に分析しないと私の側の干渉は立証できないだろう。この海域に嵐が起こるのはうちではよくあることだ。リューズが気まぐれに海面温度を上げたりするのも、外洋上空での高高度放電発光現象による大気組成干渉実験も今に始まったことではない。ついでのあれこれで積乱雲ができちゃったり、乱流が起きちゃうのもままあることなのだ。
エイダの歴史に"神風"という言葉はない。
嵐の大海を渡れるだけの航海技術の確立なしに、いきなり征服軍派遣しちゃうのが無謀なのである。外洋航海は船の設計図ではない航海士と水兵の熟練とノウハウの蓄積が物を言う。単発のラッキーなら無謀と根性でなんとかなっても、大船団は無理だ。
後続の兵站と移民が来なかった武装船の生き残りは、エイダの捕虜になった。
言語どころか生態も習慣も異なる異種族とのファーストコンタクトは困難だったようだが、エイダ達は自らと異質な知的種族という概念を受け入れ、なんとかコミュニケーションを果たした。
§§§
「あちらの女神候補は、"聖女"を名乗って地表に降り、自ら統治していたそうです」
お気に入りのティーカップにお茶を淹れながら、ルヴァンは穏やかな口調で語ってくれた。
「そんなことできるの?」
「機械体の遠隔操作か、原生種族の脳に記憶や人格を転写したのかはわかりませんが、手段はあります」
闇の守護聖人の協力は不可欠で、光の守護聖人の認可も必要な上に、通常は短期間の視察程度しか許可されないのだという。
「民衆の視点で社会を観察するための手法なのです。長期に渡って種族全体の上位者として君臨するなどという使用方法は想定されていません」
「直接介入も甚だしいわ。完全にルール違反行為じゃないの。よく許したものね。あっちの守護聖人は止めなかったのかしら」
後の惑星開発委員会の調査でわかったことだが、向こうの守護聖人は、違法な改造で人格パターンを無効化されて、単なる知識のデータベースとシミュレーター扱いされていたそうである。惑星開発委員会のお目付け役にあたる光の守護聖人が裏コードで無力化されていたせいで、やりたい放題だったらしい。
あちらの女神候補者は、聖女として専制国家に君臨し、己が気にいった個体に守護聖人の知識や演算能力を与えて、親衛隊のようにしていたのだそうだ。
「と言っても、原生種族は寿命があるでしょう?」
「医学的延命手段も講じていて、それを奇跡の御業として求心力にしていたそうです」
「限度があるでしょうに」
「ですから死んだ場合は、次の候補者に記憶を受け継がせていたらしく……」
「ちょっと待って!?そこ記憶なの?知識じゃなくて?」
「はい」
グロテスクな話だが、代々の"守護聖人"は聖女に仕えた日々の記憶を引き継いでいたらしい。いったいどれくらいの年月なのかは知らないが、スリープなしでそんな運用をしては、色々とおかしくなるだろう。
守護聖人には乙女ゲーム風の合成の人格が付与されているが、これは私の人間性を保つためのインタフェースである。私がスリープ中は彼ら同士は人格をベースにしたコミュニケーションは行わない。だから何百年とスリープで飛ばした後でも、彼らの性格も人間関係も私が知っている状態から変化はなく、私が知っている期間においてのみ連続性があるのだ。
長命種として生物的にも文化的にも発生していない個性の人格が、テクノロジーで強制的に長命種化されて、閉じた少人数のコミュニティを保ったまま生き続けるというのは、非常にまずいだろう。
しかも、"聖女"は圧倒的な力で民衆の上にたち、崇められた状態で無制限に権力を振るえたのだ。
「ぞっとするわ」
「惑星開発委員会の調査記録はでておりますが、詳細は確認なさらないことをおすすめします」
「忠告に従っておきます」
「良い心がけですね、アンジー様」
この発言は、地の守護聖人ルヴァンとしてではなく、惑星開発委員会の提供支援機構としてのものだろう。
シリウスほどではないが、ルヴァンも管理組織側の影響が強い。そういうところも含めて、彼らの個性として私は楽しんでいるが、あちらの女神候補者はそれが首輪をつけられているようで我慢ならなかったのかもしれない。
管理者に与えられた人工イケメンじゃない生身のハーレムで永遠にモテモテでいたかったのかー。キツイなぁ。
ライバルとしても関わり合いになりたくないタイプである。
今回のやらかしで自滅して、惑星開発委員会の介入により参加資格を失って退去させられたそうだ。どうかリハビリとカウンセリングで真人間に戻ってほしい。
……無理かな?
私は守護聖人達を職場のゆかいな人工知能として2.5次元キャラ的に楽しんでいるし、起きている時間は一日分ずつという基本ルールをできるだけ守っている。
今回のような重要な局面や面白い英雄的個体が出ると、つい連続して見守りたくなるが、そんなときも数年単位でスリープする。
エイダ時間とは完全に別の私の時間のカレンダーを用意して、季節行事もその基準でこなしている。
私は私の一年間でこの役目を終えたいのだ。
季節行事……クリスマスとかやる気か?




