襲来!
すっかり仕込みも終わって第二次プロメテウス計画が順調に進行している頃、思わぬ方向で火の出番がやってきた。
「異種族の襲来?」
「漁船の漁師が、武装した大型船を発見しました」
第一発見者が漁船ってのは、ある種の様式美だけど、うちの観測システムは何をしていたのだろう?
……そういえば、気象観測はやっていたけど、外洋全域に船一隻レベルが分かるような精密観測なんてやっていなかった。
「武装した大型船って、どんな奴?初手から殺意高いわね」
きっと別の大陸で発展したライバルの担当種族だろう。どこにあるかわからない未知の大陸を目指すのに、武装艦単船で航海とはエンタープライズ号もびっくりだ。
拡大映像で見せてもらった船は、かなりの大型船だった。金属製で砲塔っぽいものが、いっぱい突き出している。これは未知への探査航海なんて感じではない。絶対に別の大陸はあって、敵がいるという確信があったうえで、喧嘩売りに来ている。
「テクノロジーレベル、なんかチグハグじゃない?」
武装の部分の加工精度と、艦橋や船室にあたるのであろう箇所の造りに大きな技術力の格差がある。スチームパンクっぽい味わいはあるが、普通に発展するとこうはならない。
「どう思う?ゼフィル」
「確実に過剰介入してるな。武装周りだけ明らかにちげーよ。というか、あっちの鋼の守護聖人は無節操すぎねーか?俺ら鋼用のアーカイブにあるサンプルのデザインそのまんまだぜ、アレ」
女神候補生にはそれぞれに守護聖人達が付くが、公平を期すために、同一分野の守護聖人の保有知識は初期状態では同じに設定されているそうだ。「俺はマーカス兄貴から色々教わったから、並みの鋼の守護聖人より強いけどな!」とイキるゼフィルによれば、くだんの船に手を貸した鋼の守護聖人は、とんだ無能らしい。
「なんのひねりもなく、サンプル設計図を丸ごと与えて、武器だけ作らせてる」
あれだけの武装を作れるだけの金属加工技術があれば、船の残りの部分がもっとマシなものになるはずだと、ゼフィルは三白眼を剣呑に光らせた。
「この解像度でこの角度の画像だけでは断定はできないが、完成品を丸ごと与えた可能性もあるぜ」
「ええ!?さすがにそれは反則じゃないの?」
「わからない。過去の別試験の事例では、神授の聖剣の伝説なんてのもあるから」
「聖なるナパーム弾とか、伝説のパルスレーザー砲とか、やめて欲しいんだけど」
東ローマ帝国のギリシア火薬なんていう、古代のサイフォン式火炎放射器程度なら、威力も運用方法も制約が多いので問題ないが、オーパーツレベルの星間文明兵器を持ち込まれてはかなわない。
「シリウス、お願いがあるの。こちらに来て」
「なにかね、我が君。その愛らしい瞳を曇らせる迷いを晴らす導きの光が必要であるというならば、私はいつでもそなたに力を貸そう」
相変わらずゴージャスイケメンの光る君は、思わず蹴りを入れたくなるような台詞回しで現れた。当初は背筋がむず痒くなったものだが、最近このクセの強さがじわじわ味わい深く感じられるようになってきた。ありがとう、開発者さん。アクのない美形は三日で飽きるらしいが、うちの光はいつも無駄に絶好調に輝いているよ。
「導きはいらないわ。貴方には薄暗いところでコソコソ悪いことをやっている悪党がいないか法に照らして明らかにしてもらいたいの」
「任せたまえ。それは私の本領だ」
私は観測用小型哨戒機全機の使用を許可し、シリウスに異種族の船に関する詳細観察を依頼。違法介入が行われた痕跡がないか調査することを命じた。
「違法性がないなら、どういう論理の穴を利用しているのかを見つけて」
「脱法を真似るつもりなら教える気はないぞ」
美麗に微笑むその笑顔が華麗に眩しくて蹴りたくなる。
「真似ないわ。危ない火の輪をくぐってイキっている奴に、火遊びは危険だって教えてあげたいだけよ」
「承知した。大船に乗った気でいてくれたまえ……いや、大きな船に乗ってきたのはあちらだな。ハッハッハ」
あっ軽い。目眩がしそう。
キラキラと煌めく光の粉を残してシリウスが退出する。ガチで眩い仕様なんだよな。うちの"光る君(物理)"。
「シリウスに監視を任せて、君はどうするつもりだ。アレの積極的監視下にあるということは、君の好きな曖昧な裁定は望めない。迂闊なことをすれば、惑星開発委員会の懲罰対象になるぞ」
「うん。だからしばらくは静観する」
「おい!?んだよ、それ」
ゼフィルが奮然と立ち上がりかけ、マーカスに制止される。
「いいのか?今動かないと、多くのエイダの命が失われるぞ」
「奴らのあの武器はやべえ。今のエイダじゃどうにもできない」
「そうかしら」
危ないのは間違いないが、だからといって最初から全部危険を遠ざけるのは、違う。私はいつまでもエイダの超越的保護者ではいられないし、エイダはいつかは実力が釣り合わない強者と突然出会う羽目になるのだ。それならば初手で全滅の可能性がないこの程度の危機で、格上を自力でなんとかする経験を積んでおいてほしい。
「被害は出ても、何もできないまま滅亡するようなことにはならないでしょう。異質なものとのファーストコンタクトでエイダがどのような反応を示すか見て、彼らの資質を測るわ」
「お前……意外に薄情なんだな。なよっちいリューズやルヴァンは悲しむんじゃないか?」
「守護聖人の中では、多分あなたが一番、情に脆いと思うわよ。ゼフィル」
「バカ野郎!ふざけたこと言ってんじゃねーよ。そんなわけ無いだろう!!」
顔を真っ赤にして怒るツンツンくんはかわいい。
「そうね。ではあなたは敵の武器と船の動力源を、うちのエイダ達が手に入れた場合の影響を考察しておいて」
「はぁっ?」
「私は繊細なリューズのところに行って、彼が何もできないことで心を痛めないようになだめてくるわ」
「勝手にしろ!」
私はゼフィルのことをマーカスに頼んで、水のリューズの元に向かった。




