小芝居は楽し
闇の"陰キャ"クラウスと、夢の"オネエ"オリビアを両方攻略しないと実現できない支配種族への精神干渉は、意外にあっさり実現できた。
わりと得意なんだよね、無口キャラとか姉御オネエキャラとかの相手。
どんなに相手がイカれててもドン引きしない。気にせずグイグイいく。ただし相手のセンシティブなところには踏み込まない。ほどほどですっぱり引く。でも、相手がボソリと話しだしたら絶対に聞き逃さずに真剣に聞く!
「……いいだろう。お前の頼みだ」
よおしっ!クラウスから二言も聞けましたーっ!!くうーっ、声がいいなこんちくしょう。出し惜しみしないでもっと喋ってくれよ。
「アナタ凄いわね。あの堅物から丸ごと承認をもらってくるだなんて。よっぽどのプランってことかしら?興味出ちゃったわ。いいわよ、思いっきりサービスしてあげちゃう。何をすればいいの?なんでも言ってちょうだい」
オリビアもノリノリで参加してくれた。
私は用意したシナリオ原案を手に守護聖人達を呼び集めた。
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次にスリープから目覚めたときには、地上のエイダ達は狩猟採集に加えて、ささやかながら農耕と牧畜も食料調達の手段としていた。
私が脚本、監督、主演を務めた啓蒙ドラマシリーズの夢による天啓サブリミナル放送が効いたらしい。
『農業のススメ(入門編)』
『増やして備える快適生活〜寒いヒモジイもう死にたいとはサヨウナラ』
『ヒヤリハット事例:あなたならどうする(干ばつ編)』
ちゃちな小芝居だが、とにかく要点がわかりやすく、楽しくハッピーな未来を感じられる親しみやすいショートショートを目指した。
なんと私は主演をやるにあたり、原住生物風の外見のアバターまで用意して、モーションキャプチャーの中の人みたいに頑張ったのだ。
原住生物なんかには扮したくないし、顔出しも嫌だと渋る守護聖人も説得して、擬人化した自然現象役で共演させた。
エイダ達の美的感覚やセンスはよくわからないが、私のエイダアバターは我ながらモフモフっぷりがかなりイケててかわいいと思う。やはり共感と明日への希望を高めるにはかわいいは重要だ。美少女の努力と根性は世界を変えるのだ。
植えておいたら増えた芋を収穫し、天に向かって芋と拳を振り上げて食料が手に入った喜びを表現した演技なんて、アカデミー賞ものなんじゃないだろうかと我ながら思う。
夢が発信したビジョンを"受信"して観ることができる感受性のある個体がどれぐらいいたのか、視聴率はよくわからなかったが、そこそこ効果はあるようなので、私はどんどん続編を作った。
私は"神の代理人"に女神が教えを授けるなんて言うのはやりたくなかったので、コンセプトは"高尚"ではなく"通俗"だ。
『やりくり上手はやりとり上手』
『楽しいコミュニケーション〜教えられたり教えたり』
『与えて授かれ〜やらずボッタクリはあきまへん』
共同体の形成と役割分担。富の集積と物資の贈与、返礼による相互関係の構築。
傑出した天才的カリスマリーダー個人による"点"の発展ではなく、同時多発的に各コロニーで模索が始まった"面"の発展は、思わぬ解釈、突飛な応用を生んでなかなか面白い進展をみせた。
個性溢れるコロニーの交流から生まれた共通の規範は、私では思いつけない非常にエイダ的なルールだったが、そこが楽しい。
実のところ、汎銀河文明の末端として自分の役割を考えた場合、既存人類に毛が生えただけの劣化コピー種族なんか作っても仕方がないのだ。共生できる程度にはコミュニケーション能力と倫理観を共有しながらも、発想に独自性のある新種族でなければ新規に育成する意味がない。私達の恒星間広域文明圏に訪れるであろう次の危機を乗り越えるためには、多様性の確保が不可欠だからだ。
高度に統制された均質な集団は高い効率で良いパフォーマンスを発揮するが、想定外の危機に弱い。いつだって規定の型にはまらないイレギュラーの存在は重要だ。
私はエイダの独自文化が芽を出し始めたところで、彼らを導きすぎないように天啓の配信を調節した。刺激は与えるし、背中は押すが、何をどうするかは彼ら次第。私はいろいろなことができる環境と材料を与えるだけでいい。
大丈夫。仕込みは万全だ。
ほら、その山を超えてみたまえ!その先に広がる原野は、私が君らのために用意した約束の地だ。適度な起伏、点在する湧水、"乳と蜜"と言えるかどうかは別として滔々と流れる大河。
どうだい?夢にまで見た光景だろう?
段丘に露出した岩石は加工に適している。土器が作りたくなれば、水と風が丁寧に拵えた砂も粘土も豊富にある。三日月湖や大小の湖沼には探せば泥炭地だって隠れている。次の冒険のランドマークにちょうどいいあちらの山には実は手頃な鉱床もあるんだ。




