人工イケメンのサポート体制は万全です
私は女神選抜のルール詳細と、自分の担当区域及び手持ちの種族について、地に教えてもらった。
やばい。思ったより惑星開発委員会の奴ら、本気で開発やらせる気だ。
私の担当区域は大陸1つ丸ごとで、担当種族は蛮族というのもおこがましい知的かどうか怪しい動物だった。こんなケダモノを文明化なんてどれだけかかるかわからない。
と思ったら、どうやら私は守護聖人にコマンドをいくつか与えて、スリープ状態で長期間を過ごし、目覚めたところで経過を確認して追加のコマンドを与えるということを繰り返すらしい。なるほど、守護聖人が生身でない理由がわかった。千年万年単位の事業じゃねぇか。生身じゃやっていられない。
私のライバルも別の大陸で別の種族を育成するそうだ。悠長なことをしていると、優勢になった他の種族に滅ぼされることになるが、せいては自滅する。
アウストラロピテクスやクロマニヨンの憂き目に会いたくなければ、知性化と文明化に励むよりほかない。
うーん、これどっちかって言うとやること自体は、シムなんとかってゲームな気がするぞ。なんでインタフェースだけキラキラかつコッテコテの乙女ゲーなんだよ。
"飛空城"は静止軌道上にあるため、他の大陸の様子は見ることができない。相手もそれは同じだろう。ライバルの動向は気にはなるが、まずは着実に開発を進めるしかない。
§§§
「なんだ。こんなところでサボっていていのか、仔猫ちゃん」
「サボってるんじゃないわ。気分転換よ。あと、その"仔猫ちゃん"っていうのどこのアーカイブから発掘してきた語彙なの?」
「じゃあ、ひよっこ」
「アンジーって呼んでちょうだい」
「もっとお前がいい女になったらな」
「もう……」
燃えるような赤毛の大男は、くっくと笑いながら、それでも立ち去らずに、私の見ている前で鍛錬を始めた。よし、好感度上げは順調だ。
人工イケメンが鍛錬して何が鍛えられて向上しているのかよくわからないが、本人は真面目に取り組んでいるし見ていて楽しい。私は邪魔をしないように気を配りつつマーカスを応援する。
友好関係を築けているかどうかで、守護聖人に依頼できる仕事や成功率は変わってくる。初期の仕事で一緒にいる時間が長い地や水は勝手に親しくなれるが、今のところ出番のない火も自由時間を使って、好感度を上げておかないと後で詰む。
こういうベタな対人交渉をやらないと開発ができないのは面倒だが、大陸育成なんてしていると、人としての感覚がおかしくなりそうなのでちょうどよい。
私は地に大陸の地形と地質の調査を依頼した。なにせ長丁場だ。アフリカ大地溝帯やアルプス・ヒマラヤ造山帯みたいに地形がどんどん変わっちゃうスポットは知っておきたいし、地震や火山などで一夜で滅びそうな位置に人口集中地区を作りたくない。
水には、水源、水質の分布と、降水量や海流を含む水循環サイクルのレポートをしてもらった。
水の供給は文明発展のための重要な要素だ。食料生産にも直接関わってくる。"古代文明は大河のほとりで"は、転生前の狭い知見でしかないが、やはり定番だろう。
中世世界に転生した主人公が現代教育で培った豊富な知識で無双する物語はよくあるが、私のようにより発展した世界に転生した場合は、知識そのものは武器にはならない。こちらの世界のほうが圧倒的に膨大で進んだ知識の集積があるからだ。ただし、この世界の者にないアドバンテージとして、私には幅広い分野の知識を統合して俯瞰するという視野の経験がある。発展しすぎて専門知識が細分化しすぎたこの世界では、多数の分野の知識を浅く広く習得し、各分野を関連させて発想できる"個人"は極めて少ない。あれは知識の総量が大した事のない未熟な世界だからできる経験なのだ。
魔法のように科学が発展し、知的生命体の文明化をも管理するこの世界の知識は複雑過ぎて、最盛期のアルジャーノンだって把握しきれない迷路だ。
だが、転生前の私は雑食オタクだった。頭はそれほど良くないが、あちこち見て聞きかじった雑学レベルの情報を組み合わせてものを考える下地はある。惑星開発を二次創作パロディアンソロジーの編集と同列で扱うのは気が引けるが、転生後の自分のこの世界基準の基礎知識と、優秀な守護聖人のサポートを受ければ、かなり面白いことはできるだろう。
何をどう調べたらこんなことまで詳細に分かるのかと思うほどのレポートを地と水は提出してくれた。
へー、ここって鉄が主成分のコアがあってマントル対流もプレートもある地球タイプの惑星なのね。普通に考えればいいのは助かる。陸海比がちょっと違うけれど気候は大気循環にクセがないなら私の常識の範疇っぽい。
私はよく働いてくれたお礼に、地と水の趣味の時間に快く付き合った。ルヴァンはアンティークなお茶会、リューズはクラッシックな音楽会が趣味だ。私は(興味はないけれど)茶葉の蘊蓄に気持ちよく相槌をうち、美味しくルヴァンのお茶をいただいて、リューズの水弦ハープの音色に(眠りそうになりながら)心地よく耳を傾けて、絶賛した。……どうでもいいけれど、極微細な水粒子の流れを弦にしたハープって、手がビチョビチョにならないのかな?ドライミストみたいなものなのか?おしゃれアイテムは原理がさっぱりわからんなー。
ともかくも、私は守護聖人達の助けを得つつ、大陸規模での地質と気象のコントロールを開始した。




