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桜は七日、執念は数十年

作者: 一色 良薬

「あと数日で桜が満開となる。約一週間後には一斉に並木通りが桜の雨に包まれ、例年通り桜吹雪になるわけだが……今年こそは失敗が許されない」

 重々しい大山の言葉が、集められたメンバーの表情へ緊張を走らせた。発言の張本人でさえも、冷静を装っているが額に脂汗を滲ませている。

「ありとあらゆる手は打っていますけど毎度すり抜けられてますからねぇ。かれこれ何年の戦いですか? いい加減もう辞めません?」

「ここで逃げたらメンツ丸潰れだろうが。俺ら四人がかりで一人相手に振り回されっぱなしってわけにはいかねぇ」

 張りつめた空気を緩和させる熊野の軽い発言に、厳しい大島の声が覆い被さった。瞳孔が開くほどの睨みっぷりに、熊野は降参のように手をあげた。

「はいはい、小島さんの言う通りです」

「俺は大島だ!」

「大島さんの意見に賛同ですが、熊野の意見も頷ける点はあります。大山さんはどうお考えですか」

 紅一点の霞が二人の絡みを制し、物腰柔らかく逸れた話の軸を戻した。一昨年に引退した古株の八重から推薦で参入してきたが、今では誰よりも周囲へ気を回している。

「私も一人のために時間を割くのは非効率だと思っている。しかし高嶺さんがな」

 投げかけられた質問に大山は息を漏らすように答えた。

 高嶺の名前に空気が一段と重くなる。散々たる結果に執拗な責め立てを受けた件について、四人の頭によぎった。

「たかが人間の小僧相手に手間取るなんて腹立たしい。なんとしても攫いたまえよ」

 彼以外の人間を献上しているからいいじゃないか。

 例え正論だとしても口が裂けても言えない。大島の言う通りメンツの問題だ。桜の精の神隠しが失敗に終わる。それは能無しの烙印を押されるのと同義である。

「ともかく失敗は許されない。例の彼が桜の木の下を通ったら去年以上の桜吹雪で攫うぞ」

 小僧と言っても齢八十の老人。高嶺の代からも攫うことのできない人間を、大山たちが神隠しできるとは到底思えなかった。

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