名もない事件
「キャー!!」
「逃げろ!あの神を名乗った少年に殺されるぞ!!!」
増える悲鳴と逃げまとう住民。
殺されると感じてしまえば皆、逃げたいゆえにパニックに陥っている。
残酷にも燃える街並みが住民の恐怖心を煽っている。
コツコツと
地獄のカウントダウンが聞こえてくる。
夕日の刻では無いのに、オレンジ色の空が広がっている。
(ああ来るぞ!!俺達の敵が!!)
恐ろしい何かが煙の中から出てくると察し身構えた。
コツコツ
「出てきたぞ!砲撃隊!撃てぇぇぇ!」
街の兵隊の声がする。
コツコツ!
砲撃隊が撃った弾丸は、彼を避けていく様に落ちていった。
(まじか)
コツコツ
余裕そうに髪の毛を整えながら姿を完全に現す。
姿をようやく見れたと思えば、人間じみた少年は、見た事の無い禍々しい剣を掲げて
「人はつまらない生き物だ。個性が無ければ夢もない。それに比べて俺は殺意がある!怖いか?そうなのかぁ?ハハッ!俺の個性が間違いであれば。お前らが感じる思いで語ってくれよ!!!!!!ただの土人形では無いことを証明してくれ!!!」
己の強い意思を感じさせる程の威圧と、魔力量に
一歩後ずさる。
(っ!手が震えてる・・・・俺はびびっているのか)
怖さ知らずの剣術師、は俺のこと。
此処で逃げたら、怖さ知らずの名が泣くだろう。
「凄い気迫だが、お前の個性は笑えねぇ。てことで今から俺の個性でお前の行いを止めてみせるぜ!!!」
恐さを悟られないよう、俺は強がって笑った。
「ハハハ!面白い人間だ!夢を語れる人間はユーモアがある事を知っている!」
銀が輝く剣を生成し、神と一人の人間がぶつかり合った。
・・・・・・・・・。
のが1500年前の話。
神の子は死んだ。立ち向かった者も死んだ。
この事件に名前は付けられなかった。
代わりに、生まれた言葉がある。
「個性は尊重されるべき。その反面、個性に焼かれる可能性がある」
1500年経った今でも、街は元には戻らなかった。
そんな街を冷たい目で見下ろす男がいた。
己の正体を隠している布が風に吹かれて揺れる。
彼は口元の黒い布をずらし、右腕を上げた。そこには○の紋章が描かれている。
「この世界には神が必要だ。そう全てを受け入れる程の心を持つ神がな」
男は地面に魔方陣を描いた後、姿を消した。
この場に残ったのは、禍々しい魔方陣。
形容するなら"最悪"であろう。
5分後には、完全に彼が此処にいたという証拠が消えた。
この世界に新たな時代の風が吹く、1500年後の今の世界が進み出す。