vsジャイアントアント・クイーン
▼
「う〜ん、今回のはしょっぱかったな」
「ーー?」
「いや、こっちの話。これ食うか?」
「ーーー!」
素材の圧縮を終え、アリの巣へ突入した俺とミュラ。手始めに宝物庫にお邪魔する
ただ、前回ほどのお宝には恵まれなかった。めぼしいアイテムだけ回収し、魔石のいくつかはミュラに食べさせる
残りは『等価交換』で圧縮する。[風結晶]が一つできた
ちなみに、アリ共の素材は最終的に[土結晶]10個になった。内9個は素材圧縮で、1個はなんと直ドロだ
属性結晶はボスクラスからのドロップがほとんどだが、一応雑魚モンスも落とすからな。激レアだけど
「さてと、そろそろメインディッシュといきますか」
「ーーーーー!!!」
気合い十分でなによりだ。戦利品回収もすんだことだし、ようやく女王部屋を攻略するぞ
ただその前に、ミュラにちょっとした訓練をさせる
「いいかミュラ?次の相手は、ミュラにも攻撃できる」
「ーー……」
「だから、ミュラも避ける必要が出てくる。ボーッと突っ立ってるだけじゃいけないぞ?」
「ーーー!」
「よし、じゃあ女王アリに挑む前に、ちょっと練習してみよう。『エンチャント・ダーク』」
そう言うと、俺は両手にエンチャントをし、軽く拳を握り込む
「今から軽く攻撃するから、それを全部避けてみろ。いくぞ?」
「ーーー!」
やる気を出すミュラへとパンチを繰り出す
最初は大振りに、慣れてきただろうあたりから徐々にコンパクトにしていく
ミュラは、ちょっと危ないところはありながらも、その全てをなんとか回避していく。だんだんコツを掴んできたのか、動きがスムーズになってきた
「〜〜〜♪」
おっと、調子に乗り始めたな?「余裕〜」とでも言いたげな態度だ
こなれてきた時が1番危ない。それをわからせるため、いきなり俊敏に動いてミュラのおでこにプスッとする
「ーーー!?」
「油断してるとこうなるぞ?」
「ーーー……」
「まあ、なかなか良かったぞ。次は実戦で試していこう」
「ーーーー?」
「大丈夫だって。最初は失敗するもんだ、一発くらい喰らっちゃっても回復してやるから頑張りな」
「ーー!」
ちょびっとしょんぼりしちゃったミュラを励まし、ようやく女王部屋に突入する
『索敵』を使えば、この奥にフィールドボス並みの魔物がいることがわかる。その周りにも無視できないほど強い個体が20体以上はいる
ここのボスである女王アリ、正式名称を[ジャイアントアント・クイーン]と、その取り巻きである兵隊アリと近衛アリである
「さてと、まずは近衛アリを減らすぞ」
この巣のジャイアントアントは、全部で4種類いる
木の実の採取や狩り、巣の拡張や幼虫の世話などの雑用を任される体長50cmほどの[ワーカー]
主に狩りや、外敵の撃退といった戦闘面を専門とする、ワーカーより一回り大きな[ソルジャー]
女王アリの親衛隊であり、異様に巨大な頭を持ちいかにも防御力が高そうな[ガーディアン]
そして、この巣の主であり、自分の子という条件付きで強力なバフを撒ける厄介なボス[クイーン]だ
ざっと見、取り巻きの内近衛アリは8体だな。残りは全部兵隊アリだ。近衛アリに進化しかけのレベル高いやつばっかりだがな
集団戦は支援回復するやつを最初に狙うのがセオリーだ。だが、今回はその支援役がボスなため違う方法が必要だ
てことで、強化されたら面倒なやつを先に始末しておこうというわけだ
「ミュラは右の2体をやれ!頭デカいやつな!」
「ーーー!!」
「『エアカッター』、『フレアボム』、『スマッシュ』!!」
「「「ギギギィッ!!」」」
兵隊アリは一旦無視する。強化されても2,3発で倒せるからな。女王アリが動き出す前に、近衛アリを1匹でも多く減らしておきたい
ミュラは霊体ボディで兵隊アリをすり抜け、近衛アリに攻撃
もうレイスの時のような「ペチッ」じゃない。爪を立ててひっかくような「ザシュッ」とか「ガリッ」とか聞こえてきそうな攻撃だ
その一撃で近衛アリは倒れてしまう。間をおかず別の近衛アリにも一撃。2体の近衛アリを倒した
その間に、俺は別の近衛アリを処理する。範囲魔法を使い、邪魔な兵隊アリごと吹っ飛ばす。道が開けたところで一気に陣地に潜り込み、3匹目の近衛アリを倒す
「ギィィィィィ!!!!」
「『ウィンドアロー』、ミュラ一旦引くぞ!」
「ーーーー!!!」
奥でどっしりと構えていた体長3m近くありそうな女王アリが、甲高い鳴き声を上げて触覚をヒクヒク振るう
すると、女王アリを中心に光の波紋が広がる。それはこの部屋全体にまで行き届き、それに触れたアリの身体が一瞬黄色く光る
これが女王アリの使うバフ技だ。全体強化なうえ、全ステータス上昇とかいう馬鹿げた性能をしている
俺は、強化がかかるギリギリで4体目の近衛アリにトドメをさし、すぐに後ろへ下がる
俺とミュラで計6体の近衛アリを倒せた。残りは2体、まずまずだな。ついでに兵隊アリも2体ほど倒せている
ミュラも呼び寄せる。ここからはちょっと慎重にならないといけないからな
「おい!ミュラ!戻ってこいって!!」
「ーーーー!!」
だが、勢いに乗ったのかミュラは暴れ続けているようだ。強化などお構いなしに、兵隊アリをザシュザシュと倒しまくっている
しかし、アリ共も黙ってやられているばかりではない。1匹の兵隊アリが、大顎を開けてミュラへと飛びかかり……
「ーーー!?」
「ギギギギッ!」
「言わんこっちゃない……」
ガッチリと、大顎で腕を挟まれたミュラ。そのままブンブンと振り回され、ゴリゴリ体力が減っていく
目を回しながらも、なんとかもう片方の腕で攻撃し、兵隊アリを倒したことで拘束から脱出できたミュラ
ちょい泣きしながらも猛ダッシュで俺の元まで戻ってきた
「ーーー!ーーー!!」
「大丈夫だって、回復してやるって言ったろ?ほら、ポーションやるから口開けろ」
ワタワタと手を動かして、謝罪してるのか言い訳してるのかわからないミュラに、とりあえずポーションを飲ませる
強化されたとしても、元々INTは雀の涙ほどもないアリ共。そんなやつに受けたダメージは、[見習いポーション]一本で全回復された
(毒は効かないのに薬は使える霊体ボディって一体……)
本当は魔法で回復したかったところだが、ミュラに『ライトヒール』は逆にダメージになっちゃうからな
アンデッドカテゴリーのモンスターって、テイム可能モンスター群の中でも戦闘寄りな性能をしているが、『光魔法』と相性が悪いのが欠点だな
霊体系なんて、ダメージソースがINTなのに『ライトブレス』が使えないし
「いいかミュラ?今のアリ共はちょっと手強い。正面から行ったら苦戦する。だから作戦を伝えるぞ」
「ーーー?」
「作戦って言っても簡単なもんだ。俺が敵意を引きつけて、ミュラが倒す。ただ倒し方が重要だ」
「ーーー!」
「いいか?まずはだな───」
ミュラに、簡潔な作戦を教える。それが終わったら、俺たちは二手に分かれて動き始めた
「おらアリ共!ママがどうなってもいいのか?『ホーミングアロー』!」
「「ギギギギッ!!」」
まず俺は、女王アリに向かって矢を射かけた。それは近衛アリの巨大な頭で防がれたが、これでアリから高いヘイトが取れる
「「「ギギィ!!」」」
「『ストレートパンチ』、『回し蹴り』、『スマッシュ』!その首貰ったぁ!!」
10体はいる兵隊アリが一斉に襲いかかってきて、それを次々といなしていく
ダメージをもらったアリは後退し、後ろのアリと入れ替わって回復している。退き遅れたアリの首をナイフで刎ねて仕留めたが、1匹しか倒せなかった
未だ放出し続けている女王アリの波紋に当たったアリは、体力がジワジワと回復していってる。時間をかけたらジリ貧になる
「「ギギギギッ!!!」」
「『カウンターフィスト』『インパクト』!!」
2体の近衛アリが、直径1m以上ありそうな円盤状の巨大な頭を掲げて、シールドバッシュのように突っ込んでくる
それを俺は、正拳突きと掌底を両手で同時に繰り出すという不恰好な技で受け止める
さらに、受け止めた片方の近衛アリにむけてアロー魔法をお見舞いする。『魔力操作』で頭を回り込ませ、ガラ空きな胴体を集中攻撃して撃破する
もう片方も始末しようとし………装備を盾に変更
「ギィィィ!!!」
「『エンチャント・ウィンド』『バリア』!」
女王アリの方から、石の礫が散弾のように飛来する。あれは、『土魔法』がレベル20になると使用できるアーツ『ストーンバレット』だ
俺はそれを、『バリア』を盾に重ねて斜めに構え受け流す。数発当たったところで『バリア』が破壊され、残りをなんとか盾で抑える
やべ、体力が7割くらい消し飛んだ。【テイマー】や[暗雲のローブ]とかでMNDが上昇してなかったらキツかったかもな
近衛アリがタンクをして、兵隊アリがチクチクと邪魔してくる。それに気を取られていたら、後方から女王アリの強力な魔法が飛んでくる
ソロで挑んでたら、『シャドウダイブ』とかも駆使しないといけない面倒なやつだったな
だが、今回俺はソロではない
「ーーー!」
「ギィッ──」
「ギギッッ!?」
俺と相対していた近衛アリが、自分の周囲にいたはずの部下の匂いが減っていることにようやく気づく
だがもう遅い。最後の兵隊アリの後ろから、地面の下からミュラがニョキっと身体を出し、両腕で引っ掻いてポリゴンへと変える
「ギギギィッ!!」
「〜〜〜」
「遅いな、『エアカッター』」
近衛アリが追撃しようとするが、ミュラはスポッと地面の中へ逃げてしまう
霊体だからこそできる、地面や壁を使ったヒットアンドアウェイ戦法だ。割と狡いやり方だな
ミュラに気を取られてしまった近衛アリの背中に『エアカッター』を当てて倒す。これで取り巻きはいなくなった、後は女王アリだけだ
「ギィィィ!?」
「さてと……ミュラ、やっちゃって」
「ーーー!」
女王アリは、AGI以外のステータスが近衛アリより上という強さを持っているが、肝心のAGIがなければ意味がない。反撃にさえ気をつければいいただの的だ
ミュラは地面をつたって女王アリの後ろから飛び出し、背中にはりついてボコスカと殴り始めた
俺は女王アリの正面から殴りかかって、攻撃を誘発させる。もちろん全部躱す
パターンに入ってしまった女王アリは、一分も経てば虚しくポリゴンへと散って行ったのだった




