可愛くなくなっちゃった…
「ありゃりゃ、壊れちゃったか」
アリの巣の中に入り、時間経過で消滅した『クレイウォール』を抜けた先で俺を出迎えたのは、砕けてぐちゃぐちゃになった[見習い錬金セット]だった
耐久値が減っていく『強制錬金』を使用したまま、今まで放置してたからな。ここまで壊れたのなら買いかえた方がいい。いっそ、二つ目の[初級錬金セット]を買うか
「さてと、まずはドロップ回収だな。行ってこい」
俺が命令すると、腰についていた[黒大蛇のポーチ]がシュルシュルと地面に降り、巣の中へと入っていく。地上の時と同じように、素材を圧縮するつもりだ
「ひとまずポーチが帰ってくるまで待ちだな。……ん?ミュラどうかしたか?」
「ーーー!」
ミュラが騒いでいるところにいくと、大量のアイテムが散らばっていた。それもポーションなどといった、自然発生するはずのないアイテムだ
なんでこんなところに……?あっそっか、俺がキルした2人は──片方はミュラが──プレイヤーキラーだったな。PKKされたせいでアイテムをロストしていったのか
ありがたく貰っとこう。今日は臨時収入が多いな。災い転じてなんとやらだ
「うわ、なんだこのポーション?品質低っ!」
その中で、おかしなポーションを発見する。というか、拾った[初級ポーション]が全部変だ
クールタイムが長すぎる上に、一回の〈中毒〉上昇量が増えている。これ、『調合』レベルが足りてないってのより、作り方間違えて作ってるっぽいな
こんなポーションは流石にいらんな。圧縮する素材に混ぜちゃおう
「そういえば、賞金首だったりしてないかな?」
今朝のことを思い出し、メッセージを開いてみる。すると、予想通り二通の新着メッセージがあった
おお、結構な額をもらえたな。2人合わせてもテトロの額にギリ届かないくらいだけど。初心者狩りでこの程度のカルマ値しか稼いでないのなら、まだ数人しか狩ってなかったってことだな
そうこうしているうちに、蛇型ポーチが帰ってきた。シュルシュルと移動してくると、設置しておいた錬金釜の横に素材をドバドバと吐き出した
全ての素材を出し切ると、また巣の中へと入っていった。どうやら、容量的に一度では持ちきれなかったらしい
「さてと、『等価交換』」
ポーチが持ってきた素材を選り分け、ほとんどは錬金釜に入れて圧縮する
ミュラが、ドロドロに溶けてウニョンウニョンしている素材を興味津々にツンツンして、最後のビカッと光るとこでびっくりしてどっかにすっ飛んでいく
何してんだこいつ、かわいい
「そうだ、ミュラの経験値も貯まったかな?」
「ーーー?」
フヨフヨと戻ってきたミュラを『鑑定』し、レベルを確認してみる
おお、もうカンストの30レベルになってるじゃないか!途中は俺が毒で手助けしたとはいえ、あれだけのアリを倒したのだから当然か
「よし、早速進化だ!」
「ーーー!!」
俺はそう言って、ミュラの進化選択画面を出す
そこには進化条件を満たしているものが出てくる。今回はレベルと進化前種族だけだから、[ゴースト]と[ウィスプ]だな
迷わず[ゴースト]を選択
「ーーーー?」
すると、ミュラの身体が光り、徐々に変化していく
サッカーボール大の丸々とした身体が大きくなり、腕が伸び、首が細くなって胴体と区別がつくようになった
腕には肘ができ、指が生え、人の腕と判別できるものへと変化した。相変わらず足はなく、胴体は途中から消えている
身体にはボロボロの服のようなものを纏っており、肉体には生気がない
眼孔の中に目玉はなく、うっすらと光のようなものが灯っている。髪はボサボサ、口はだらんと開いており、ほっといたらよだれが垂れてきそうだ
これで、ミュラが[ゴースト]へと進化したな!
………可愛くなくなっちゃった……
「ーーー!ーーーー!?」
「ほい、鏡」
「……ーーーーーーーー!?!?!?」
自分の手が自分で見れることに困惑していたミュラに、手鏡で己の姿を見せてやる
自分の姿にびっくりしたのか、またもどこかへとすっ飛んでいってしまう。ゴーストタイプにゴーストタイプはこうかばつぐんってか?自分の姿でもアウトなのか
このゲームの幽霊は鏡にも映るんだよなぁとかどうでもいいことを考えていたら、すっ飛んでいったミュラが恐る恐る戻ってきた
「ーーーー?」
「よく見ろ、これはお前だ。これがお前の新しい姿だ」
「ーーーーー…………」
ミュラが俺の持つ手鏡をまじまじと覗き込む。そこに映り込む自分を見ながら、カサカサの頬をつねったり、ボサボサの髪を引っ張ったり、何も入っていない眼孔に指をズボッと突っ込んだりしている
[レイス]のときとガラッと容姿が変わったからな、戸惑うのもしゃーない。共通点といえば、半透明でぼんやりと青白く光っているところぐらいか
しばらく様子を見ていたら、ミュラがうずくまってプルプル震え出した。落ち込んじゃったかな?
まあそう気を落とすな。一生そのままということはない。進化すればまた変われるさ。……と言った内容のことをミュラに伝えようとし………
「ーーーーー!!!」
「いや嬉しいんかい」
バネのように伸び上がり、両拳を天に突き出して喜びをあらわにするミュラ
その格好のまま、足もないのにピョンピョンとジャンプし始める。アカン、IQの低いやつにしかできない動きしてる
これもこれでかわいいのだが、[ドッペルゲンガー]としての運用に支障をきたす。AIの育成もしていかないとな……
「ーーーー!!」
「はいはい、ちょうどいいのがいるから倒しに行こうな」
幽霊として、より恐ろしい見た目になることはむしろ喜ばしいことなのだろう。アホっぽい動きをされたら怖くもなんともないが
そんなことより早く自分の力を試させろと言いたげなミュラ。そんなミュラのために、女王部屋へと突入することを約束するのだった
先にアイテム回収だけどな!




